認知症に対するリハビリの効果について検討

認知刺激療法、バリデーション療法、回想法、リアリティ・オリエンテーション、動物療法など、認知症に対するリハビリ方法はいくつも提唱されています。

しかし、実際に効果があるかと問われたら疑問が残るのが現状です。そんな認知症に対するリハビリの効果について、個人的な見解を交えながら解説していきます。

認知症は治るのか

まず最初に知っておきたいことは、治る認知症と治らない認知症があることです。アルツハイマー病のように脳の退行変性に伴って現れる認知症は治りません。

しかし、脳内血腫や正常圧水頭症のように、脳を圧迫することで発症している認知症は改善することができます。なので、まずは原因を調べることが大切です。

治らない認知症はリハビリで改善するのか

アルツハイマー病は治らない認知症と書きましたが、リハビリがまったく無意味かと問われたら、一概にそうとは言えません。なぜなら、一定の効果を認める論文も数多くあるからです。

確かに残存している機能を強化することで認知機能は改善することができますが、それよりも脳萎縮の進行が早いので、結果的に効果が出ないといった方が正しい表現だと思います。

脳トレの効果

ニンテンドーDSのソフトとして発売され、一時期は大ブームを巻き起こした「脳トレ」ですが、実際に効果があるのか実験された研究があります。

結論から書くと、作業能力は向上したが認知機能は改善しなかったとされています。わかりやすく書くと、計算問題を解き続けたら計算能力は上がるが、他の能力は向上しないということです。

そう考えると、計算なんて普段はしないので、計算能力が上がったところで何の意味もありません。脳トレをやるよりも、生活に必要なことを反復練習するほうがよっぽど意味があると思います。

運動療法の効果

多くの観察研究において、定期的な運動がアルツハイマー病の予防、あるいは認知機能の低下を抑制するとの結果が示されています。ということは、運動は認知症の改善に有効という可能性がありますね。

しかし実際は、定期的な運動で効果があるのは認知症の予防であり、発症してからの機能低下の改善には効果がありません。これもいくつかの研究により証明されています。

その他のリハビリ方法

認知症のガイドラインを参照すると、認知刺激療法やバリデーション療法、回想法、音楽療法、リアリティオリエンテーションなどの効果について、効果は証明されていないと記述されています。

ただし、認知刺激療法やリアリティ・オリエンテーションなどは効果が認められるとしている文献もいくつかあります。これは、MMSEやHDS-Rなどのテスト内容に関連する機能強化が行われたためだと推測されます。

ここまでのことをまとめると、認知症を改善しようとするから効果が出ないのであって、ひとつの目標を反復して機能強化するなら達成できる可能性があります。予後まで含めて考えると、そちらのほうがよほど意味もあると思います。

初期の認知症に対するアプローチ

認知症の発症初期では、とくに近時記憶(3分ほど情報を保持する能力)が障害されます。進行に伴い、即時記憶(1分以内)や遠隔記憶(個人の生活史)にも障害を受けるようになっていくのが一般的です。

即時記憶まで障害されてしまうと、どれだけ反復練習をしても動作定着は困難となります。なので、近時記憶が障害され始めた初期から、必要なことは反復的にトレーニングしていくことが望まれます。

進行後期の関わり方

回想法に認知機能の改善効果はないと前述しましたが、台湾大学の調査では、回想法の実施により抑うつ症状に中等度の改善が認められたと報告しています(JAMA誌オンライン版2015年9月1日号)。

認知症の後期になってくると、生活のあらゆる場面で出来ないことが増えていきます。そして、BPSDといった周辺症状が顕著に現れます。最期の時間を穏やかに過ごすためにも、思い出話に付き合うのも大切ってことですね。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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