軽度の変形性股関節症を持つ患者で、車から降りるときにだけ膝が痛いとの訴えがありました。
普通の椅子に座るときは膝を伸ばした状態にしているとのことで、それなら立ち上がるときに痛くないとのことでした。
これだけの情報から痛みの原因を推測するなら、まずは変形性股関節症でどの筋肉に問題が起きているかを考える必要があります。
変形性股関節症では鼡径部に痛みを訴えることがほとんどですが、その原因にあるのが大腿直筋反回頭のインピンジメントです。
大腿直筋は下前腸骨棘から起始する直頭と、寛骨臼上縁から起始する反回頭に分かれています。
この反回頭が股関節を動かすときに挟み込まれることで、股関節前方の鼡径部痛として認識されることになります。
また、変形性股関節症は大腿骨が内旋している女性に多く、大腿直筋の直頭と反回頭が癒着しやすくなっています。
大腿直筋にストレスが加わり続けると過剰に緊張してしまい、動かしたときに攣縮を起こして痛みを誘発することにつながります。
今回のケースでは、車から降りるときにだけ膝が痛いとのことでしたが、おそらくは膝蓋腱に痛みがあるわけではなさそうでした。
大腿直筋は膝蓋腱を介して脛骨粗面に付着していますが、膝蓋腱の深層には膝蓋下脂肪体が存在しています。
大腿直筋が緊張していると膝蓋下脂肪体のへ摩擦力が強まることになり、結果的に痛みを起こしやすくなります。
膝伸展時は大腿四頭筋が緩んでおり、さらに膝蓋下脂肪体は下方に貯留しているために圧迫されることはありません。
しかし、膝屈曲時は大腿四頭筋が伸張されることになり、さらに膝蓋下脂肪体は膝蓋骨の裏に流れ込むのでより圧迫されます。
車の運転などでこの状態がしばらく続くと、そこから立ち上がろうと膝を伸ばしたときに癒着剥離や摩擦力の高まりで痛みが起こります。
そのため、膝関節だけをみてもあまり問題が認められず、股関節まで含めたアプローチが必要となるわけです。
変形性股関節症で膝まで痛くなるケースは多いため、そのあたりまで注意しながら確認しておくようにするといいかもしれません。