関節の痛みはトランスレーション理論で説明できる

痛みの原因を考えるときに、「トランスレーション理論」を知っているかどうかで病態を把握する能力はグッと変わります。

トランスレーション理論を簡単に説明すると、関節を動かすときに周囲組織に硬さが存在すると、骨頭が硬い側とは反対にブレる現象をいいます。

上の図は膝関節を描いたものですが、膝関節伸展時に後方組織(ハムストリングス)に硬さがあると大腿骨は前方にブレて、半月板の前方を損傷することになります。

半月板損傷は後方に起こりやすいのですが、こちらもトランスレーション理論で説明することができ、膝関節屈曲時に大腿四頭筋(膝蓋上包)に硬さがあると大腿骨が後方にブレて半月板の後方が損傷します。

このように損傷した原因がわかると治療の方法も明確になり、例えば、膝関節を深く曲げるときに膝の前側と後側に痛みがあったとします。

そういったケースでは前側の痛みは膝蓋上包の癒着の可能性が、後側の痛みは半月板後節が挟み込まれている可能性が非常に高いです。

このような患者の膝関節を曲げていく場合に、前側の痛みは伸張痛なので問題はないですが、後側の痛みは潰れて痛いだけなので避けるべきです。

実際の治療では、膝関節の屈曲運動を実施する前に膝蓋上包をマッサージし、屈曲運動をする時は膝裏に指を置いた状態で実施します。

理由としては、下腿を牽引することで半月板の挟み込みを防止するためで、必要に応じて下腿内旋などの誘導を加えていきます。

そのように膝裏になるべく痛みがない状態に調整してから、膝関節の屈曲運動を実施することが重要となります。

この理論はすべての関節に適用することができ、例えば、腰痛で椎間関節障害を起こしているケースで考えてみます。

腰椎を伸展すると痛みが発生する場合に、トランスレーションが起きていると考えるなら、椎間関節の前方組織に硬さがあると予測できます。

最も可能性として高いのは大腰筋であり、大腰筋の硬さが椎間関節のブレを生じさせ、結果的に椎間関節障害を起こしていると考えられます。

腰痛の治療で大腰筋が大切とよく書かれているのは、硬さが存在するとトランスレーションを起こすからというわけです。

注意点として、ここまでに述べてきた内容は組織の短縮を起こしていることを前提としており、過剰な可動性によるブレは説明していません。

どういうことかというと、例えば、腰椎すべり症の場合は短縮した組織があるから起こるわけではありません。

腰椎が過剰に屈曲することにより、後方組織(後縦靭帯や黄色靭帯)が受け止められる範囲を超えてしまって前方にすべります。

この場合はもちろん後方組織を伸ばすことが治療ではなく、過剰な可動性を抑えることが重要となってくるわけです。

このようにトランスレーション理論を知っておくと患者の問題点を分析しやすくなるので、是非とも名前だけでも覚えて帰ってくださいね。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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