関節モビライゼーションの方法について解説していきます。
この記事の目次はコチラ
関節内運動を調べる意義
関節の可動域制限がある場合に、問題が「関節内」にあるか「関節外」にあるかを区別する必要があります。
その方法として、関節内運動(関節モビライゼーション)を用いることで、ROM測定だけではわからない靱帯や関節包の長さを調べることができます。
臨床的には主に肩関節周囲炎で用いることになり、肩関節周囲炎では関節包が縮小するので、関節モビライゼーションにて拡大していきます。
その他にも関節包が縮小する原因はありますが、中には関節包を縮小することで可動範囲を狭めて、関節を守っている場合もあります。
そのようなケースに関節モビライゼーションを行うと、関節の動揺が大きくなり、疼痛や変形を助長させることにもなるので注意が必要です。
関節の遊び
関節の遊びとは、通常の骨運動では起こらない関節内での骨の動きを指し、他動的に骨を動かされることによって生まれる関節内の余裕を意味します。
関節内で起きている異常(過小または過剰な遊び)を見つけるための検査として用いられたり、関節包や軟部組織を伸張させる治療として用いられます。
関節の遊びを引き出すには、以下の方法があります。
遊び滑り(glide)
一方の骨を固定して、反対側の骨を水平移動させる方法で、主に「関節包」が伸張されます。
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傾斜(tilt)
一方の骨を固定して、反対側の関節面を上方に傾斜させる方法で、主に「関節面の軟部組織」が伸張されます。
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引き離し(distract)
骨同士を長軸方向へ引き離す方法で、正常では2-3㎜ほど離開できます。
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接近遊び滑り(close glide)
骨同士を長軸方向へ引き寄せたあとに水平移動させる方法で、遊び滑り(glide)よりも軽い力で滑らせることができるとされています。
この方法は関節ファシリテーション(SJF手技)で用いられる考え方です。
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構成運動
構成運動とは、通常の骨運動で起こる関節内での骨の動きを指します。
関節モビライゼーションを実施する際には、正常な関節の動きを知っていることが前提となります。
凸構成滑り(convex slide)
最も一般的な関節の動きであり、凸側が中心に滑る運動を凸構成滑りといいます。
他動的に関節可動域運動を実施するときは、凸構成滑りを意識して誘導しながら行うと効果的です。
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凹構成滑り(concave slide)
凸構成滑りとは反対に、凹側が中心に滑る運動を凹構成滑りといいます。
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転がり(roll)
凸側よりも凹側が広い場合に起こる運動で、関節面がズレながら動きます。
転がりが起こる代表的な関節に脛骨大腿関節があり、最大屈曲位では関節は脱臼した状態となります。
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軸回転(spin)
いわゆる回旋運動であり、一方の関節面が運動軸に対して回転する動きを指します。
凹面でも凸面でも起こり、最も障害を受けにくい動きでもあります。
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緩みの位置と締まりの位置
関節モビライゼーションを実施する場合は、一般的に関節が最も緩む肢位(LPP:loose packed position)で行います。
LPPでは、関節包や靱帯が緩んでいますので、通常は関節面を離開させやすい状態にあります。
なので、LPPにて関節の遊びがみられない場合は、靱帯や関節包に縮小や癒着がある可能性が考えられます。
反対に、関節が最も締まる肢位(CPP:close packed position)では、関節包や靱帯が緊張していますので、通常は関節面を離開できません。
しかし、CPPにて関節の遊びがみられる場合は、靱帯や関節包に断裂や緩みがある可能性が考えられます。
以下に、代表的な関節のLPPとCPPを掲載していきます。
上肢のLPPとCPP
肩甲上腕関節
分類 | CPP | LPP |
球関節 | 最大外転外旋位 | 外転55度・水平内転30度・外旋10度 |
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肩鎖関節
分類 | CPP | LPP |
平面関節 | 肩甲骨回旋位 | 中立位 |
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胸鎖関節
分類 | CPP | LPP |
鞍関節 | 鎖骨挙上回転位 | 鎖骨中立位 |
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腕尺関節
分類 | CPP | LPP |
鞍関節 | 完全伸展位 | 屈曲60度・回外10度 |
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腕橈関節
分類 | CPP | LPP |
球関節 | 屈曲90度・回外5度 | 伸展回外位 |
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近位橈尺関節
分類 | CPP | LPP |
車軸関節 | 回外5度 | 屈曲70度・回外35度 |
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遠位橈尺関節
分類 | CPP | LPP |
車軸関節 | 完全回内位 | 回外10度 |
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橈骨手根関節
分類 | CPP | LPP |
顆状関節 | 最大背屈位 | 掌屈10度・尺屈10度 |
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第1手根中手関節
分類 | CPP | LPP |
鞍関節 | 対立位 | 中間位 |
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中手指節関節(MP関節)
分類 | CPP | LPP |
楕円関節 | 最大屈曲位 | 軽度屈曲位 |
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指節間関節(IP関節)
分類 | CPP | LPP |
蝶番関節 | 完全伸展位 | 軽度屈曲位 |
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下肢のLPPとCPP
股関節
分類 | CPP | LPP |
臼関節 | 最大伸展・軽度内旋・軽度外転 | 屈曲30度・外転30度・軽度外旋 |
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脛骨大腿関節
分類 | CPP | LPP |
蝶番関節 | 完全伸展位 | 屈曲30度 |
※ ただし、内外旋におけるLPPは屈曲90度となる。
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距腿関節
分類 | CPP | LPP |
蝶番関節 | 最大背屈位 | 軽度底屈位 |
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距骨下関節
分類 | CPP | LPP |
平面関節 | 最大外がえし位 | 軽度底屈・軽度内がえし位 |
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距踵舟関節
分類 | CPP | LPP |
球関節 | 最大外がえし位 | 軽度底屈・軽度内がえし位 |
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第1中足指節関節
分類 | CPP | LPP |
球関節 | 最大伸展位 | 軽度伸展位 |
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第2-5中足趾節関節
分類 | CPP | LPP |
球関節 | 最大屈曲位 | 軽度伸展位 |
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趾節間関節
分類 | CPP | LPP |
蝶番関節 | 最大伸展位 | 軽度底屈位 |
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脊椎のLPPとCPP
環椎後頭関節
分類 | CPP | LPP |
顆状関節 | 各運動最終域 | 中間位 |
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正中環軸関節
分類 | CPP | LPP |
車軸関節 | 各運動最終域 | 中間位 |
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椎間関節
分類 | CPP | LPP |
平面関節 | 各運動最終域 | 中間位 |
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肋横突関節
分類 | CPP | LPP |
平面関節 | 各運動最終域 | 中間位 |
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肋骨頭関節
分類 | CPP | LPP |
平面関節 | 各運動最終域 | 中間位 |
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胸肋関節
分類 | CPP | LPP |
平面関節 | 各運動最終域 | 中間位 |
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仙腸関節
分類 | CPP | LPP |
平面関節 | 股関節伸展位 | 股関節屈曲45度 |
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関節モビライゼーションの注意点
患者に関節モビライゼーションを実施するときは、痛みがない(少ない)状態で行うことが大切です。
そのためには、関節周囲の炎症が消失しており、関節包よりも表層の問題をすべて取り除いておくことが必要となります。
具体的には、関節周囲の筋攣縮、深筋膜や浅筋膜などの滑走不全などを改善させてから関節モビライゼーションは行っていきます。
周囲に問題が存在していなくても、関節操作によってインピンジメントを誘発している可能性もあるので、痛みには注意しながら実施してください。
超音波治療はコラーゲン含有量が高い組織(関節包や靱帯)ほど吸収係数が高く、集中的に組織温を上昇させます。
そのため、関節包への超音波治療後に関節モビライゼーションを行うことで、より効果的にアプローチすることができます。