長期臥床によって関節可動域制限(拘縮)をきたしやすい部位と短縮しやすい筋肉について解説していきます。
この記事の目次はコチラ
可動域制限が起こりやすい関節
下記の表は、長期臥床によって可動域制限が起こりやすい部位と制限方向、それに関わる短縮筋を起こりやすい順位でまとめた表になります。
順位 | 部位 | 制限方向 | 短縮筋 |
1 | 体幹 | 側屈,後屈,回旋,前屈 | 脊柱起立筋群 |
2 | 頚部 | 側屈,後屈,前屈,回旋 | 胸鎖乳突筋,斜角筋群 |
3 | 股関節 | 内旋,外転,伸展 | 梨状筋,内転筋群,腸腰筋 |
4 | 足関節 | 背屈 | 下腿三頭筋 |
5 | 手関節 | 掌屈 | 手関節背屈筋 |
6 | 肩関節 | 外転,屈曲,外旋 | 大胸筋,大円筋,小円筋 |
7 | 肘関節 | 伸展 | 上腕二頭筋 |
8 | 膝関節 | 伸展 | ハムストリング |
脊椎の可動域制限について解説
臥床傾向にある患者では脊椎を動かすことが難しいため、必然と可動域制限をきたしやすい傾向にあります。
体幹では脊柱起立筋が短縮しやすい傾向にあり、それに伴って側屈方向が最も制限されやすい方向になります。
前屈方向が制限されにくいのは、ギャッジアップや座位保持などで定期的に動きがあることが影響していると推察されます。
頚部も側屈方向が最大の制限方向になるのですが、こちらは脊柱起立筋群の短縮に加え、胸鎖乳突筋や斜角筋群の短縮が影響しています。
セラピストが廃用予防目的で関節可動域運動を実施する際は、制限されやすい方向と短縮しやすい筋肉を考慮しながら実施することが望まれます。
下肢の可動域制限について解説
下肢では、股関節と足関節に可動域制限が多く発生し、膝関節には比較的に発生しにくい傾向にあります。
股関節では、外旋筋群(とくに梨状筋)の短縮により内旋制限が、内転筋群の短縮により外転制限が、腸腰筋や大腿直筋の短縮により伸展制限が発生しやすいです。
臥床時は足関節が底屈位をとりやすく、下腿三頭筋の短縮によって尖足傾向となります。尖足は離床後の歩行障害に大きく影響するので注意が必要です。
膝関節に関しては伸展方向が制限されやすいですが、臥床時は伸展位に保持される場合が多いため、制限をきたしにくい状態にあります。
短縮しやすい筋肉には一定の傾向がありますので、これらの制限が発生しないようなポジショニングを行うようにすることが医療スタッフには求められます。
上肢の可動域制限について解説
上肢は脊椎や下肢などに比較して可動域制限が起こりにくい傾向にあります。理由として、臥床時も動かしやすい状態にあることが挙げられます。
可動域制限が発生しにくいということは、同時に筋短縮も起こりにくいということになります。そのため、脊椎や下肢のように集中的な運動は必要ありません。
しかし、自発的な動きがない場合や上肢の筋緊張が亢進している場合は制限をきたすことになるので、状況に合わせて適度な介入を実施します。
片麻痺患者の可動域制限について解説
脳卒中などで片麻痺を呈した患者では、筋緊張が亢進している部位により大きな可動域制限をきたす傾向にあります。
とくに多い部位として、肩関節(全方向)、手・手指関節(伸展方向)、足関節(背屈方向)に制限をきたしやすいです。
股関節に関しては片麻痺のためにより制限をきたしやすいという傾向はなく、膝関節に関しても良好な状態が保たれやすいです。
臥床患者の拘縮はどうして起こるのか
拘縮が起こる最大の理由は不動ですが、それ以外にも麻痺による筋緊張の異常、痛みや浮腫といった炎症症状が制限をきたす因子になります。
認知症(アルツハイマー病)で脳委縮が進行した終末期においても、身体には麻痺症状が出現しますので、可動域制限をきたしやすい状態にあります。
これらにも上述した表のように制限方向の一定した傾向が認められますので、まずはそれを頼りに重点的に動かす方向を決定していってください。
筋緊張に異常がなければ、通常は三日間の不動で拘縮が起こり始めます。緊張が高い場合はそれ以下の時間で制限が起きるので、より頻度を多くすることが望まれます。
実際は現場のマンパワーとの相談や、どこまでの介入がその人にとって必要となるかは状況によって異なるので、必要量が提供できるように調節してください。