高齢者が転倒してしまう7つの原因と予防法

高齢者の転倒に伴う骨折などの損傷は、超高齢社会の日本において極めて重大な問題となっています。

その問題を解決するために、市町村では転倒予防教室を開催したり、定期的に運動が行えるような場所を提供するような環境作りがなされています。

転倒を予防するためには、まずはなにが原因で転倒してしまうのかを理解しておくことが大切です。そこで今回は、転倒の原因を7つにまとめて解説していきます。

順位 原因
1位 過去の転倒歴
2位 平衡障害
3位 筋力低下
4位 視覚障害
5位 薬物の影響

①前庭機能の低下

転倒の可能性を高める因子として、平衡感覚の障害は極めて重要なリスクとなります。平衡感覚に関与する機能は、①前庭感覚、②体性感覚、③視覚の三つがあります。

割合としては、前庭感覚が20%、体性感覚が70%、視覚が10%のウエイトで決定されています。これらの感覚が統合することにより、身体が現在どのような位置にあるかを把握できています。

前庭感覚とは、内耳に存在する前庭が身体の傾きを感知する機能です。前庭が障害された場合は、天井がぐるぐると回るような回転性のめまいを訴えます。

わかりやすい例を出すと、バットを地面に突き立てて、そこに頭を置いてから周囲を回る動き(ぐるぐるバット)でめまいが起こるのは、前庭機能が障害されることが原因です。

②体性感覚の低下

加齢変化に伴って、感覚受容体の密度減少や感受性低下が起こることになりますが、その傾向は下肢ほど顕著となっています。

触覚受容体であるマイスナー小体は手のひらや足の裏に多く存在しており、20歳では25個/㎜に認められますが、70歳以上では7個/㎜と大幅に減少します。その傾向は圧覚や振動覚の受容体であるパチニ小体も同様です。

また、高齢者では表皮の柔軟性低下や肥厚が起こることにより、感覚受容体の感受性はさらに低下することになります。

体性感覚の低下は加齢以外にも、筋肉の萎縮や過緊張、疼痛、交感神経の過活動などで低下することが報告されており、多くの要素が関与しています。

③視覚障害

加齢に伴う視覚障害は、視覚器の変化と視覚神経の変化のふたつに大別されます。

視覚器の変化では、角膜が肥厚してカーブが減少することにより、光の屈折率が変化して明瞭度が減少します。また、水晶体には濁りが生じ(白内障)、さらに明瞭度は落ちていきます。

光の透過性は80歳以上になると20%以下に落ちるといわれており、暗い場所での視力障害が顕著となります。そのため、夜間移動時は段差の見落としやつまずきが多くなり、転倒リスクを高めます。

高齢者では視覚障害が転倒リスクに大きく影響を与えているため、もう高齢だからとあきらめずに、まずは専門医と相談しながら眼鏡などで矯正が効かないかを検討してみてください。

④神経系の変化

神経は中枢神経と末梢神経に大別され、中枢神経はさらに脳細胞と脊髄に分けられます。20歳以降は脳細胞が減少(萎縮)していくという話はご存知かと思いますが、脊髄も同様に減少します。

ただし、脊髄の場合は60歳位までは維持され、それより高齢になると運動神経で約50%ほどが減少します。そのため、反応時間の低下や協調性の低下などが起こり、歩行能力に障害をきたします。

末梢神経においては伝導速度の遅延が起こり、その傾向は太い神経(運動神経)ほど顕著となります。これは脊髄の減少と深く関与しており、その影響で運動活の遅延が生じます。

⑤筋力低下

加齢に伴って筋力が低下する原因として、酸素活性の低下や蛋白合成率の低下などが要因となり、筋委縮が進行していきます。蛋白合成率に関しては、80歳以上では50%以上も低下するとされています。

高齢者の筋萎縮は白筋線維(速筋)を中心にして起こります。白筋線維は筋径が太く、収縮速度が速い筋肉であるため、スポーツ動作時などに活躍します。

筋力低下は転倒リスクに大きく関与するため、普段から筋肉を鍛えておくことが必要です。白筋線維を鍛えるためには強めの負荷をかける必要があるため、意識してトレーニングをしないことには萎縮を防げません。

また、高齢者では蛋白合成率が低下しており、さらに食事量が減っていることも多いため、栄養管理についても配慮しながらの運動が推奨されます。

⑥薬物の影響

高齢者の多くが服薬をしていますが、その中でも高血圧の治療薬や睡眠導入剤、抗精神病薬などは転倒のリスクを高めることが報告されています。

高齢者では副作用が現れやすいこともわかっており、認知症がある方では用法や容量を守れずに過剰な摂取をしていることもよくみられます。

そのため、服薬の状況や転倒する時間帯などをみていくことにより、薬物の影響がないかを考慮することが必要となります。

高齢者の状態 薬剤 主な症状
高血圧 血圧降下薬 めまい・ふらつき
風邪 抗ヒスタミン薬 眠くなる・ボーッとする
睡眠障害 睡眠薬 ふらつく
認知症 抗精神病薬 脱力感・筋肉の緊張低下

⑦環境の影響

これまでに述べてきた転倒の原因は内的な要因でしたが、もうひとつ大切なのが外的(環境)な要因になります。

例えば、自宅の段差をスロープ化したり、廊下に手すりなどを取り付けることで転倒リスクを下げることができます。また、杖や歩行器などの補助具を使用することも効果的です。

福祉用具のレンタルや住宅改修については介護保険を利用することで1割または2割負担で可能ですので、転倒歴がある高齢者には再転倒を防ぐためにも調整することが必要となります。


他の記事も読んでみる

The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
rehatora.net © 2016 Frontier Theme