SLR制限を引き起こす五つの原因と皮膚運動を用いた改善方法

皮膚運動学を用いたSLR運動の改善方法についてわかりやすく解説していきます。

皮膚運動の重要性を体感する

はじめに皮膚運動への興味を持ってもらうために、皮膚を用いた簡単な可動域の改善方法について解説していきます。

まずは仰向けの状態でSLR運動を実施して、どこまで上げられるかを確認してみてください。

SLR運動

次に、お腹の皮膚を頭側に引っ張った状態で保持し、再度SLR運動を実施して先ほどの挙上角度と比較してみてください。

どうでしょうか。変化はありましたか。おそらくですが、挙上角度が上がったのではないでしょうか。

皮膚運動学の原則

SLR運動の挙上角度がなぜ上がったのかについて理解するためには、皮膚運動の五つの原則について理解することが必要です。

原則1 皺ができると、さらに皺が深くなる運動は抑制される。伸張された皮膚の部位は、さらなる伸張方向への運動は抑制される
原則2 伸張されている部位を弛緩すると伸張方向への運動が大きくなる。また、弛緩部位が伸張されると弛緩方向への運動が大きくなる
原則3 皮膚の運動方向は関節の骨運動と連動し、骨同士が近づく運動では皮膚は関節から離れる方向へ動き、骨同士が遠ざかる運動では関節に近づく。また、回旋運動では同方向に動く
原則4 皮膚は浅筋膜層で筋との間に滑走がある。そのため、皮膚の緊張線を張力の強い方向へ誘導すると身体内部との中間位が変化し、運動に影響を及ぼす
原則5 身体運動では特定部位の皮膚が伸張あるいは弛緩する。伸展しにくい部位は特定の運動方向に影響を及ぼすが、その部位が伸張できると身体運動全体が大きくなる

原則についての解説

文字だけだとわかりづらいので、図を確認しながら解説していきます。

皮膚運動学と体幹側屈運動

原則1では、身体を側屈した方向へは皺ができ、反対側は皮膚が伸びて張ります。そのため、それ以上の側屈は抑制されます。

原則2では、皮膚が伸びて張った側に皮膚を集めることで、さらに側屈がいくようになるといったことです。

原則3では、側屈して皺ができている方向とは逆に、皮膚は動いているということです。無意識のうちに原則2が起きているということですね。

原則4では、皮膚を誘導することで身体中間位が変化するため、それで運度のしやすさが変化するということです。

原則5では、体幹を側屈しても反対側の皮膚すべてが一律に伸びるのではなく、伸張されにくい部位は運動制限に関与しているということです。

やや大雑把な説明ですが、これぐらいで理解しておいても問題はないかと思います。

皮膚運動学の講義動画

皮膚運動学の提唱者でもある福井勉先生の講義動画がYouTubeにありましたので、そのリンクを掲載しておきます。

初回のみの講義だけ無料公開されていますが、これだけでもとても勉強になりますので、是非ともチェックしてみてください。

SLR運動の制限因子について

即時的な効果を見せたい場合に多用されるSLR運動ですが、制限を加える因子は非常に多くの影響が考えられています。

皮膚による制限

SLR運動を実施した場合、殿部から大腿後面にかけての皮膚がとくに伸張され、股関節から下腹部あたりに皺が発生します。

先ほどの原則に基づいて皺側の皮膚を伸張することにより背側の皮膚が弛緩するため、皮膚による制限を減少させることができます。

これが冒頭で試していただいた皮膚運動を用いたSLR運動の改善方法の原理になります。

皮膚運動学を用いたSLR伸張

筋膜による制限

筋膜のラインはいくつも存在しますが、その中でもとくにSBL(スーパーフィシャルバックライン)はSLR運動の制限に関わる筋膜です。

下図のように頭部から足底にかけて伸びている筋膜であるため、前頭部や足底部を緩めることで可動域を伸ばすことが可能です。

こちらは腹部まで伸びてはいませんので、筋膜の制限が大きい場合は、上記のように腹部の皮膚操作を加えても可動域に変化はありません。

筋膜を用いたSLR伸張

筋肉による制限

最も一般的に考えられがちなのが筋肉(ハムストリング)の短縮による制限です。

制限因子として挙げられることは多いですが、前述した皮膚操作などで容易にSLR運動の角度は改善しますので、筋短縮による影響はそれほど大きくはありません。

ハムストリングは表層筋のため触診しやすいので、最終域での筋の硬さを確認するようにし、余力があるかどうかをみるようにします。

ハムストリングの短縮によるSLR制限

神経による制限

腰椎椎間板ヘルニアなどでは、腰部で神経を圧迫するために伸張性が失われることになり、SLR運動時に痛みや痺れが出現します。

神経による制限は、特徴的な症状を示すので間違うことはあまりないはずです。

SLRの角度が50度以下といった具合に極端に低下している場合は、神経の影響が高いと予測できます。

神経によるSLR制限

緊張による制限

筋肉は無意識のうちに脳から一定の緊張状態を保つように指令が出ています。その緊張状態を一時的に低下させることでSLR運動の角度を上げることが可能です。

最も簡単な方法として、歯を食いしばる方法があります。食いしばることで神経の指令が一時的に口部に集中し、ハムストリングの緊張が緩むことになります。

筋緊張の亢進については、筋の硬度や圧痛の有無によって確かめることができるため、まずは触診にて確かめることが大切です。

低負荷での筋収縮(自動介助運動)を繰り返すことで緊張を緩めることが可能です。

筋緊張によるSLR制限

制限因子の複合性の考慮

上記に五つほど制限因子を挙げましたが、これらは密接に関わっているため、ひとつの因子だけで運動を制限しているわけではありません。

とくに筋肉、筋膜、皮膚は強く連結しており、それぞれが相互に関わり合いながら運動を実現しています。

そのため、どれかひとつにでも制限が起きたら、連鎖的に影響を与えることについて理解しておくことが大切です。

そのことを考慮しながら、主原因がどこにあるかを突き止めていくことがセラピストには求められます。

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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