三角線維軟骨複合体(triangular fibrocartilage complex:TFCC)損傷のリハビリ治療について解説していきます。
TFCCの概要
手関節の尺側には三角線維軟骨複合体と呼ばれる組織があり、三角線維軟骨と複数の靭帯により手根骨と尺骨を結合し、緩衝作用や安定化を図っています。
手関節の捻挫やスポーツ動作(テニスのフォアハンドなど)で損傷しやすいですが、レントゲン写真では異常が認められないため、しばしば見逃されやすい障害です。
安静にして数週間が経過しても痛みが治まらず、手関節尺屈時や前腕回内外時に尺側部痛が認められる場合は、TFCC損傷を疑うことができます。
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三角線維軟骨複合体の構造
TFCCはいくつかの組織が組み合わさって構成されますが、その主な組織が三角線維軟骨(関節円板)であることから、三角線維軟骨複合体と呼ばれます。
その構造は膝関節の半月板と似ており、辺縁部の15-20%には動脈の血流がありますが、中央部には血流がありません。
そのため、辺縁部の損傷では自然治癒が望めますが、中央部の損傷では自然治癒が期待できないため、デブリドマン(損傷部の清浄化)の適応となります。
TFCC損傷の分類(Palmer)
TFCC損傷はClass1(新鮮断裂)とClass2(変性断裂)に分類され、どちらもまずは保存療法にて経過をみて、その後に手術の適応を判断します。
Class1:新鮮断裂(外傷) | 治療 | |
A | 中央裂孔 | デブリドマン |
B | 尺側損傷 | 保存療法 |
C | 遠位(辺縁)損傷 | 保存療法 |
D | 橈側損傷 | 修復術,デブリドマン |
Class2:変性断裂 | 治療 | |
A | TFCCの摩耗 | 保存療法 |
B | TFCCの摩耗 | 保存療法 |
月状骨軟化 | ||
C | TFCCの穿孔 | デブリドマン+修復術 |
月状骨軟化 | ||
D | TFCCの穿孔 | デブリドマン+修復術 |
月状骨軟化 | ||
月状三角骨間靱帯の穿孔 | ||
E | TFCCの穿孔 | デブリドマン+修復術 |
月状骨軟化 | ||
月状三角骨間靱帯の穿孔 | ||
尺骨手根関節炎 |
Class2の場合は、尺骨の構造的な問題(尺骨突き上げ症候群)であることが多いので、そのような患者には尺骨関節外での短縮手術が行われます。
手術の前には少なくとも3ヶ月は保存療法を実施し、変性の治癒状況や痛みの有無を確かめる必要があります。
TFCC損傷のリハビリテーション
デブリドマンの実施後は手関節を6-8週間固定しますが、その間に拘縮が進行しないようにリハビリも併行して実施されます。
通常、関節可動域は術後7日以降より開始し、疼痛の少ない範囲で開始していきます。状態を見ながら、痛みがないようなら軽い抵抗下での強化運動も追加していきます。
前腕の強い回内外でも負担はかかりますので、完全に安静をとるためには腕を極力に使用しないことが求められます。
TFCC断裂に対する修復術後
TFCC断裂の修復後のリハビリテーションプロトコルは以下になります。
術後~7日 | |
安静 | 上肢sling(肘まで固定),冷却,挙上 |
関節 | 手指の屈伸運動 |
7日-2週間 | |
安静 | ギプス固定(手関節固定) |
関節 | 肘関節の屈伸運動,前腕回旋は避ける |
その他 | 抜糸 |
2~8週目 | |
安静 | 脱着可能な装具着用(手関節固定) |
関節 | 手関節の愛護的な掌背屈,前腕回旋は避ける |
8~12週目 | |
安静 | 必要に応じて装具を除去 |
その他 | 月状三角骨に刺入したワイヤーを除去 |
12週目以降 | |
関節 | 全可動域を痛みのない範囲で実施 |
運動 | ダンベルやチューブトレーニング |
その他 | 可動域や筋力の左右差が問題ないレベルとなったらスポーツ復帰を許可 |