概要

板状筋(splenius muscles)は、頭板状筋(splenius capitis)と頸板状筋(splenius cervicis)の2筋から成り、上部胸椎〜頸椎から後頭部へ斜走して頭部の回旋・伸展を担います。
過緊張やトリガーポイント(TP)が形成されると、頭頂・後頭〜前頭部・眼窩奥にまで広がる頭痛や、首の付け根の痛みを引き起こします。頭板状筋上部のTPは片頭痛様の訴えと関連しやすく、頸板状筋下部のTPは首根っこ(項部)の痛みを生みやすいのが特徴です。
解剖と機能(要点)
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頭板状筋:上部胸椎~頸椎棘突起・項靱帯 → 側頭骨(乳様突起)・上項線
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作用:両側=後屈、片側=同側回旋+同側側屈
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頸板状筋:上部胸椎棘突起 → 頸椎横突起(C1–C3/4)
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作用:両側=後屈、片側=同側回旋+同側側屈
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役割:頭部の向きの保持、回旋終末域での安定性、僧帽筋・後頭下筋群との共同作業
症状・関連痛(トリガーポイント)
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頭板状筋TP(上部):

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頭頂~後頭~前頭部・眼窩奥へ槍のように走る関連痛
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ズキズキ・かすみ目の訴えを伴うことあり(片頭痛様)
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頸板状筋TP(下部):

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首の付け根(項部)~上背部内側に鈍痛・圧迫感
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肩甲挙筋の関連痛と似るが、頸の回旋・後屈で増悪しやすい
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共通:回旋終末域・長時間のうつむきで悪化/起床時のこわばり/眼精疲労との相関
よくある誘因
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姿勢負荷:前かがみ・画面低め・長時間の同一頭位(PC/スマホ、勉強、手作業)
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反復動作:同側への繰り返し回旋、片側での電話・視線の偏り
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ストレス:肩すくめ+頭前突の習癖
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隣接筋の影響:僧帽筋・後頭下筋群・肩甲挙筋のTPからの衛星TP化
鑑別のヒント(隣接筋との見分け)
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後頭下筋群:眼窩奥~前頭部への鋭い点状痛+最大回旋で上位頸に刺す痛み。顎引きで再現しやすい。
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肩甲挙筋:振り向きにくさが強く、肩甲骨上角の圧痛が明瞭。
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板状筋:頭頂~前頭の広がる痛みや回旋・後屈の終末域で増悪しやすい。
触診のコツ
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体位:座位または伏臥位。軽い頸前屈で表層の緊張を減らす。
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頭板状筋:乳様突起の後下方から外側~下内側へ索状硬結を探る。
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頸板状筋:上部胸椎(T3–T6)寄りの起始部~頸椎横突起へ向かう斜走を、筋線維に沿って圧走。
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所見:索状硬結+圧で遠隔部(頭頂・眼窩奥)に再現痛が出る。
深部へ強圧は不要。痛気持ちいい圧で短時間が原則。
介入(セルフ&臨床)
1) 軟部組織リリース(安全版)
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ポイント圧迫:索状部に30–60秒の持続圧→ゆっくり解除。
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スライド:筋線維に沿ってゆっくりローディング→解放を数回。
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ツール:テニス/ラクロスボールを壁と首肩の間に挟み、小さく転がす。過敏なら柔らかめから。
2) ストレッチ(反動なし・呼吸同調)
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頭板状筋向け:反対側回旋+軽い側屈+微前屈を組み合わせ、10–20秒×3–5回。
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頸板状筋向け:やや前屈+反対側回旋を主とし、終末域手前で止める。
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注意:しびれ・めまい・吐き気が出たら中止。
3) 姿勢と環境の調整
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画面を目線高〜やや下へ、キーボードは肘90°前後、**肘掛け(前腕支持)**を常設。
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片側視線・片耳電話を避ける(ヘッドセット推奨)。
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30–60分に1回のマイクロブレイク(顎引き・肩下制・眼球運動)。
4) 再発予防の運動
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深頸屈筋の軽い等尺(顎引きで枕へ5秒×5)。
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肩甲帯の安定化:下部僧帽筋・前鋸筋の活性(壁スライド/Y・T・W)。
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視線運動と協調:水平・斜めの視線スムーズ追従で頭部の不要な回旋を抑える。
臨床での注意
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強圧・長圧は逆効果(筋防御・遅発痛)。
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神経症状(上肢しびれ・筋力低下)や外傷歴がある場合は鑑別優先。
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片頭痛既往が濃厚な患者では、睡眠・水分・光刺激など誘因管理も併行する。
まとめ
板状筋は回旋・後屈の要であり、TPは頭頂~前頭・眼窩奥の頭痛や項部痛を生む主要因。
局所の索状硬結を同定→短時間の持続圧→やさしいストレッチ→姿勢・作業環境の最適化→安定化エクササイズの流れで、再発しにくい首を作りましょう。