腰椎椎間関節障害のリハビリ治療

椎間関節の概要

  • 脊椎は頸椎7・胸椎12・腰椎5+仙骨・尾骨で構成。各椎骨の上関節突起×下関節突起でできるのが椎間関節

  • 立位での荷重配分は概ね椎間板80%/椎間関節20%

  • 椎間関節包・周囲脂肪体・筋付着部には侵害受容器が豊富で、腰痛の主要原因になりやすい。


発生メカニズム(なぜ痛む?)

  • 伸展繰り返し・ひねり(回旋)・反復衝撃で関節包・滑膜脂肪体に機械刺激→炎症/挟み込み(インピンジメント)。

  • ヒンジング(下位腰椎への伸展集中)

    • 股関節伸展制限、胸椎伸展不足、体幹深層筋(多裂筋等)の機能低下→L4/5・L5/Sに負担集中

  • 成長期は椎弓疲労骨折(分離症)、まれに棘突起同士のインピンジメントも。

  • 拘縮—過可動のペア:L5/Sが拘縮しやすく、その一つ上(多くはL4/5)が過可動→痛みを起こしやすい。


痛みの特徴と鑑別

  • 椎間関節性腰痛:患者は片側(または左右の一点)を指で“ここ”と言える局所痛

  • 椎間板性腰痛中央を手のひらで“この辺”と示すびまん痛

  • 誘発動作

    • 伸展で増悪/前屈で軽減しやすい(関節は伸展で圧迫・屈曲で離開)。

  • 片側vs両側で目安

    • 片側:椎間関節/筋・筋膜など後枝領域

    • 両側:椎間板、圧迫骨折など前枝・全体負荷


好発年齢と背景

  • 若年〜中年:スポーツ由来の関節炎・過負荷。

  • 高齢:椎間板の低位化・変性で関節負荷↑+不安定性が背景。


評価・触診(現場手順)

  1. 伸展ストレステスト:立位または伏臥で腰椎伸展→痛み再現で陽性。

  2. 体表圧迫:側臥位で棘突起の二横指外側を、45°斜め方向に押圧。局所圧痛があれば関節周囲炎を示唆。

  3. レベル推定のヒント

    • 殿部痛≒L5/Sを優先チェック。

    • 仙腸関節と鑑別:骨盤を固定して腰椎のみ伸展で評価。

  4. 動作観察:ヒンジング(下位のみ過伸展)、股関節伸展・胸椎伸展の代償を確認。


姿勢と骨盤前方位の関係

  • スウェイバック/カイホロードシスなどで骨盤前方変位→下位腰椎が過伸展→椎間関節圧縮↑。

  • 長期化で変性すべり/椎間板変性リスクも上昇。


神経根症状との関係(見落とし注意)

  • 既存の椎間孔内・外側ヘルニアがある人では、椎間関節の腫脹椎間孔狭窄が進み、しびれ・筋力低下を誘発/増悪。

  • このタイプは腰痛+神経根症状が混在。まずは関節炎の沈静化で軽快することがあり、即手術に直行しない判断も重要。


リハビリ戦略(実践プロトコル)

1) 姿勢・荷重線の是正

  • 骨盤前方位の修正

    • 立位で顎と股関節を軽く引く/胸を軽く張る→30秒保持×数回/日。

    • 立位作業中は片脚台で骨盤後傾をつくり、1時間ごとに腰椎屈曲保持でリセット。

  • 胸椎主導で伸展:腰から反らず胸椎を伸展する練習(10回×複数セット/日)。

2) コア(腹圧)再教育

  • まずは全身運動で腹圧を上げる(例:ヒンズースクワット)→その後にプランク等を追加。

  • 目的は「固める」ではなく状況に応じて発揮できる腹圧。疲労・ストレス管理も同等に重要。

3) 椎間関節モビライゼーション

  • 拘縮除去:側臥位、股・膝屈曲で関節面を合わせ、骨盤を体幹軸に沿って牽引→L5/Sのモビリティ改善で上位の過可動負荷を軽減。

  • 多裂筋深層の活性:上下棘突起を軽牽引→ゆっくり戻すを反復(伸張—短縮で収縮誘発)。強すぎずマイルドに。

4) セルフエクササイズ(例)

  • 胸椎伸展モビリ(椅子背もたれ・フォームローラー)

  • 股関節伸展可動域(腸腰筋ストレッチ)

  • 腹筋の三相アクティブ:①腰椎後弯 → ②頭部挙上 → ③骨盤後傾(“上体を起こす”より腰椎屈曲を感じる


よくある質問(Q&A)

Q1. 前屈では痛くないのに、反ると痛い。椎間関節と考えて良い?
A. 典型パターンです。伸展で増悪/前屈で軽減は椎間関節性を強く示唆。触診と局所圧痛で裏付けます。

Q2. 画像で“骨棘あり”と言われました。今の痛みの原因ですか?
A. 画像所見=現在の痛みとは限りません。骨棘は過去の負荷の痕跡で、今は反対側が痛むことも。臨床所見とセットで判断します。

Q3. 片側殿部の痛みは仙腸関節ですか?
A. L5/S椎間関節でも殿部に放散します。骨盤固定で腰椎のみ伸展して痛みが出るなら椎間関節の可能性が高いです。

Q4. スポーツ復帰の目安は?
A. 伸展で無痛・多裂の収縮感が出る・胸椎主導で反れるが指標。練習は反り動作の負荷を最後に追加し、段階的に戻します。

Q5. 何を“やめる”べき?
A. 初期は反り返り動作の反復、下位でのヒンジング、長時間の弛緩姿勢を回避。胸椎伸展主導に置換していきます。


最終更新:2025-10-05