概要

菱形筋(小・大)は上背部で胸椎(C7–T5)から肩甲骨内縁へ走る筋。
主な役割は肩甲骨の内転(後退)・下制の補助・肩甲骨の安定化で、上肢の巧みな動きを支えます。
過用や姿勢不良で肩甲骨内縁の鈍い痛み・就寝中の増悪が起こり、しばしば僧帽筋・上後鋸筋・斜角筋などの関連痛と混同されます。
よくある症状と特徴
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肩甲骨内縁のうずく痛み/コリ(就寝中・朝方に強いことが多い)
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肩甲骨の**“きしみ音”や引っ掛かり感**
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長時間の**肩引き(肩甲骨を寄せ続ける)**後に悪化
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触圧で**索状硬結(コリ)**と局所圧痛
似た痛みを出す筋:上後鋸筋・僧帽筋中部/下部・斜角筋・棘下筋・広背筋・前鋸筋・肩甲挙筋。
脊柱起立筋でも似た痛みが出ますが、より脊柱寄りに出るのが目安。
原因とメカニズム
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肩を後ろへ引いた不自然な良い姿勢の“固定”(胸を張り過ぎる)
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反復で肩甲骨を引く動作(投球、ボート漕ぎ、荷物の繰り返し引き上げ)
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ストレス由来の肩すくめ・持続緊張
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大胸筋の短縮→肩甲骨を前方牽引→菱形筋が常時引き伸ばされて“伸張性(エキセントリック)過負荷”
⇒ 疲労とトリガーポイント形成の温床。まず大胸筋の硬さを解決しないと悪循環。
鑑別のヒント
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菱形筋:肩甲骨内縁の線状の圧痛、肩甲骨内転で再現。
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斜角筋由来:鎖骨上窩の圧痛、呼吸・頸側屈で増悪、腕~手への放散も。
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僧帽筋中部/下部:肩甲帯の疲労・姿勢保持で増悪、広い圧痛域。
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棘下筋:肩外旋抵抗で肩後外側に再現痛。
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前鋸筋:壁押しや腕前方保持で脇~前鋸部に再現。
評価(セルフチェックの一例)
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姿勢:胸を張りすぎて肩甲骨が常時内転していないか。
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大胸筋の短縮:壁角ストレッチで前胸部が固く痛むか。
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再現テスト:肩甲骨を少し寄せると内縁に痛みが走るか。
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触診:内縁沿いに索状硬結、押すと“効く痛み”。
ケアの優先順位
① 原因筋(前面)を先にゆるめる
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大胸筋/小胸筋ストレッチ(ドア枠:肘90°外転、20–30秒×2–3回)
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鎖骨下筋・前鋸筋の軽圧リリース(痛気持ちいい程度)
② 菱形筋へのやさしいアプローチ
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フォームローラー/ボール(テニス→慣れたらラクロス)を肩甲骨内縁に沿わせ30–45秒の持続圧→解除を2–4点。
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強圧でのゴリ押しはNG(翌日の遅発痛・ガードを招く)。
③ 再発予防の運動
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肩甲骨後傾・下制の協調:壁スライド(肋骨過前突を避ける)
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下部僧帽筋・前鋸筋の活性:Y/T/W、プッシュアッププラス(小回数・丁寧に)
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胸椎伸展・回旋:椅子背で胸椎伸展、四つ這いスレッドニードル
④ 生活・フォーム修正
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“胸を張り過ぎない良い姿勢”=肋骨は静かに、みぞおちを前に突き出さない
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PC作業は前腕支持・画面正面、30–60分ごとに肩甲帯リセット(肩すくめ→脱力)
注意点
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急な強圧・長時間のストレッチは逆効果(防御収縮)。
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夜間痛が強い・しびれや発赤・熱感がある場合は医療機関へ。
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肩甲骨周囲の音は多くが無害ですが、痛みや引っ掛かりを伴う場合はフォームの見直しを。
よくある質問(Q&A)
Q1. 菱形筋と僧帽筋のコリ、どちらを先にほぐす?
A. 前面(大胸筋)→僧帽筋中下部の協調を整え、最後に菱形筋へ。前面が硬いまま菱形筋を揉むと再発します。
Q2. ストレッチで悪化します。
A. 伸張性過負荷が背景なら無理な牽引はNG。持続圧+胸椎可動性UPと下部僧帽筋/前鋸筋活性に切り替えを。
Q3. きしみ音が気になります。
A. 多くは筋・腱の滑走音で病的でないことが多いですが、痛みや引っ掛かりがあればフォーム・荷重・可動性を見直し。
Q4. 何日で良くなる?
A. 個人差があります。**原因(前面短縮・姿勢・負荷)**を抑えれば、1–2週間で自覚軽減が出やすいケースが多いです(無理はしない)。
まとめ
菱形筋の痛みは前面短縮(大胸筋)と姿勢固定が隠れ原因になりやすい。
前面をゆるめる→胸椎を動かす→下部僧帽筋/前鋸筋を活性→菱形筋はやさしく持続圧の順で整えると、再発を抑えながら症状改善が期待できます。