広頚筋(platysma)

広頚筋の概要

広頚筋は頸部前面の最表層にある皮下筋(表情筋)で、皮膚直下を薄いシート状に走ります。頸椎などの骨付着はありません。顔面の表在筋膜(SMAS)と連続し、下顔面の表情づくりと頸前面の皮膚緊張に関与します。

  • 主作用:口角・下唇の下制(不快・緊張の表情)、頸前面の皮膚を張って縦皺(プラティスマ・バンド)を作る

  • 協働:口角下制筋・オトガイ筋などと連携

  • 機能的特徴:薄く広い“皮膚牽引筋”。力で物を動かす筋ではなく、表情と皮膚テンション調整が役割

基本データ

項目 内容
支配神経 顔面神経(第VII脳神経)頸枝
髄節 脳神経支配のため該当なし(脊髄レベル表記は適用外)
起始 鎖骨下〜上胸部の浅筋膜(大胸筋・三角筋の筋膜上)/頸部浅筋膜
停止 下顎底・下唇・口角周囲の皮膚・筋膜(口角下制筋・咬筋筋膜と連結)
主な動作 口角/下唇の下制、頸部皮膚の緊張(縦皺)/下顎のわずかな下制補助

※一部教材で「起始・停止」を逆順で記載する慣習がありますが、本稿では一般的な胸部側起始→顔面側停止で統一しています。

触診方法

  • 姿勢:座位または仰臥位。頭頸部は中間位。
  • 運動指示:被検者に口角を外下方へ引く・下唇を下げる「しかめ顔」を作ってもらう(奥歯の噛みしめは咬筋が優位になり判別しづらい)。
  • 触れる位置:下顎角〜胸鎖乳突筋前縁の皮膚直下で、シート状に薄く張る収縮を指腹で追う。
  • 注意:頸動脈洞(下顎角のやや下・胸鎖乳突筋前縁)甲状腺への強圧は避ける。皮下腫脹・リンパ節腫大・術後創部は触診禁忌。

セルフケア(マッサージ)方法と禁忌


広頚筋は皮膚に付着する薄い筋のため、強揉みは不要です。基本は軽いスキンストレッチ(皮膚の滑走)です。

  1. 清潔な手で保湿剤を少量。下顎底のやや下に手根または指腹を置く。
  2. 皮膚を前下方(鎖骨方向)へゆっくり滑らせる。圧は「皮膚が動く程度」。1ストローク2–3秒。
  3. 下顎角〜胸鎖乳突筋前縁、喉頭の外側帯を中心に、左右各5〜10回
  4. 最後に肩を軽く後方回し、頸前面を深呼吸でリセット。

併せて行いたい姿勢ケア

  • デスクワークの首前突対策:モニター上縁を眼と同じ高さに、肘は90°。
  • 胸郭の解放:小胸筋ストレッチ(壁に前腕を当て、体幹を反対へ回旋)。
  • 咬筋過活動の抑制:歯を常時噛みしめない(TCH対策:上下歯は軽く離す)。

関連する症状・臨床メモ

  • 頸前面の縦皺・バンディング:広頚筋の緊張/短縮パターンで強調されやすい。
  • 表情との関係:口角下制筋・オトガイ筋と連携し下顔面の下制に寄与。ストレス時の「緊張表情」で活動しやすい。
  • 顔面神経領域:末梢の問題があると片側の広頚筋活動低下が見られることがある。

よくある質問(FAQ)

Q1. 広頚筋は鍛えるより緩める?
A. 多くのケースで過緊張のコントロールと姿勢是正が先。強化は原則不要です。

Q2. 触診が難しい…
A. 「奥歯を噛む」は咬筋が出ます。口角外下制+下唇下制で皮膚直下の薄い張りを追うのがコツ。

Q3. 自分でマッサージして良い?
A. 軽いスキンストレッチなら可。頸動脈洞・甲状腺への強圧は避ける。異常があれば受診を。


最終更新:2025-10-12