「同じ痛み止めを飲んでいるのに、あの人は効いて自分は効かない」
そんな話は外来でもよく聞きます。
実は、痛み止めが効くかどうかは “痛みの性質” と “薬の種類” の相性でかなり違う うえに、体質や脳の感受性、心理状態 も影響します。
この記事では、
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炎症性疼痛/筋筋膜性疼痛/神経障害性疼痛 など
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よく使われる痛み止め(NSAIDs、アセトアミノフェン、プレガバリン系、抗うつ薬など)
を軸に、「効きやすいケース/効きにくいケース」 を整理していきます。
1. 痛み止めの代表選手と「得意な痛み」
まずはざっくり「どの薬が、どんなタイプの痛みに効きやすいか」を表にまとめます。
| 薬のタイプ | 代表例 | 作用のざっくりイメージ | 効きやすい痛み | 効きにくい/苦手な痛みの例 |
|---|---|---|---|---|
| NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬) | ロキソニン、イブプロフェン、セレコックスなど | 炎症物質(プロスタグランジン)を減らして、炎症+痛みを抑える | 炎症性疼痛:捻挫・関節炎・術後初期・急性腰痛など | 純粋な筋筋膜性疼痛・中枢感作が強い慢性痛・線維筋痛症など |
| アセトアミノフェン | カロナール、タイレノールなど | 炎症よりも、中枢(脳・脊髄)で痛みの感じ方をマイルドにする | 発熱時の頭痛・軽度〜中等度の痛み・高齢者の慢性痛のベース | 強い炎症を伴う痛み単体にはやや弱い |
| オピオイド(弱オピオイド含む) | トラマドール、コデイン、モルヒネなど | 脳・脊髄の「痛みの回路」を直接弱める | がん疼痛・術後痛・強い慢性痛の一部 | 心因性の割合が強い痛み(依存リスクもあり注意) |
| 神経障害性疼痛薬 | プレガバリン、ミロガバリン、ガバペンなど | 過敏になった神経の興奮を抑える | 坐骨神経痛、帯状疱疹後神経痛、糖尿病性神経障害など | 純粋な炎症だけの痛み、筋肉痛単独 |
| 抗うつ薬(SNRI、三環系など) | デュロキセチン、アミトリプチリンなど | 痛み抑制系(下行性抑制)の働きを高める | 慢性腰痛、線維筋痛症、慢性頭痛など | ごく短期の急性痛単独にはあまり使われない |
この「得意分野」と**実際の痛みの性質がズレていると、「飲んでるけど効かない」**という現象が起きやすくなります。
2. 炎症性疼痛:NSAIDsが効きやすい典型パターン
こんな痛みは「炎症性」っぽい
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捻挫・打撲・肉離れ直後の 腫れ+熱感+ズキズキ
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変形性関節症や関節リウマチの 朝のこわばり+腫れ
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急性腰痛で、動かしたときに 鋭い痛み+局所の熱感
こういう痛みの多くは、組織に炎症が起こり、プロスタグランジンなどの炎症物質が増えて痛みが増幅している状態です。
なぜNSAIDsが効きやすい?
NSAIDs(ロキソニン、イブなど)は、
「プロスタグランジンを作る酵素(COX)」を抑える
薬です。
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炎症性疼痛:
→ プロスタグランジンが多い
→ NSAIDsでそれを減らす
→ 「痛み止めが効いた」と感じやすい
という構図になりやすいです。
炎症性で「効きにくい」パターンもある?
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炎症の程度が非常に強い(重症の炎症性関節炎など)
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もはや炎症だけでなく、神経がダメージを受けて神経障害性の成分が出ている
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NSAIDsの量(用量・服用間隔)が足りない、内服タイミングが遅すぎる
などでは、「一応マシにはなるけど、期待したほどではない」こともあります。
3. 筋筋膜性疼痛:NSAIDsが「そこまで劇的でない」ことが多い理由
「筋筋膜性っぽい痛み」ってどんなの?
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同じ姿勢のあとに出る 肩こり・首こり・背部痛
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力仕事や立ち仕事のあとに出る 筋肉の張り・こわばり
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触れると コリコリした硬結+圧痛点 がある(トリガーポイント)
これらは、
「局所の微小炎症+筋緊張+血流低下+中枢での感受性上昇」
が混ざった状態で、純粋な「炎症だけ」とは少し違います。
なぜNSAIDsが効きにくいことが多い?
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創部や関節内の明らかな炎症 → NSAIDsが主役になりやすい
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一方、筋筋膜性疼痛は
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強い炎症というより、過緊張・血流低下・中枢感作 がメイン
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NSAIDsでプロスタグランジンを抑えても、本丸がそこではない
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→ 「気持ち軽くなった気はするけど、根本的には変わらない…」 となりやすい。
このタイプは何が効きやすい?
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ストレッチや運動、温熱、マッサージ などで血流を改善
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軽負荷のアイソメトリック収縮で痛みを軽くするケースも
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慢性化・広範囲化している場合は、
抗うつ薬(SNRI)や中枢に働く薬+運動療法 の組み合わせが効くことも
つまり、
筋筋膜性に「NSAIDsだけ」で何とかしようとすると、どうしても限界がある
というイメージです。
4. 神経障害性疼痛:プレガバリンなど「専用薬」がないと効きにくい
こんな痛みは神経障害性っぽい
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ビリビリ・ジンジン・電気が走るような痛み
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焼けつくような痛み
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軽く触れただけで激痛(アロディニア)
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帯状疱疹後の神経痛、糖尿病性神経障害、坐骨神経痛など
これは、神経そのものが傷ついたり、過敏になっているタイプの痛みで、
「炎症性」とはまた別物です。
なぜNSAIDsが効きにくい?
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主役は 「神経の興奮度」や「痛み信号の過敏化」
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プロスタグランジンを抑えても、神経の過敏そのものはなかなか変わらない
そのため、
■ 炎症+神経障害性がミックス → NSAIDs+神経障害性疼痛薬 で改善
■ 純粋な神経障害性 → NSAIDs単独だとほとんど変わらない
ということがよく起こります。
神経障害性に「効きやすい」薬
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プレガバリン、ミロガバリン、ガバペン など
→ 過敏な神経の発火を抑える -
デュロキセチン(SNRI)などの抗うつ薬
→ 脳からの「痛み抑制回路(下行性抑制)」を強くする
5. 中枢感作・慢性痛:薬だけでは「効きにくい層」
中枢感作とは?
長期間の痛みやストレスで、
脊髄や脳の“痛みを受け取る側”が過敏になり、少しの刺激でも痛く感じやすくなっている状態
を指します。
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慢性腰痛
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線維筋痛症
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一部の慢性肩こり・頭痛 など
では、この「中枢感作」がかなり関係しています。
なぜ「効かない人」が出やすい?
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NSAIDs:周辺の炎症が主ターゲット → 中枢感作には弱い
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神経障害性疼痛薬:末梢神経の興奮を抑える → 中枢レベルの過敏だけでは不十分
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抗うつ薬・抗てんかん薬:ある程度中枢に効くが、
心理・行動・睡眠・運動不足 など他の要因が大きいと単剤では弱い
→ この層は、
「薬+運動療法+認知行動療法的アプローチ+睡眠・生活リズムの見直し」
の総合戦略じゃないと大きく変わりにくい、という特徴があります。
6. 同じ薬でも「効きやすい人・効きにくい人」がいる理由
ここからは、同じ痛み・同じ薬でも個人差が出る理由の話です。
① 代謝の違い(薬の効きやすさの体質差)
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ある肝臓酵素(CYP○○など)の働きが強い人/弱い人で、
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薬がすぐ分解される人 → 効きにくい
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分解が遅い人 → 少量でも効きやすい、または副作用が出やすい
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遺伝子検査までしなくても、「昔から痛み止めが全然効かない/すぐ眠くなる」などのパターンがあります。
② 脳の感受性・痛みの経験
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過去の痛み経験・不安・うつ傾向
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睡眠不足・ストレス
などで、脳が痛みに対して過敏になっていると、同じ薬でも「効いた感じ」が変わります。
③ 期待・不安(プラセボ/ノセボ効果)
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「この薬はよく効くよ」と信じて飲む → プラセボ効果で実際に楽になる人
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「薬なんて効かない・副作用が怖い」と思って飲む → ノセボ的に効きにくく感じやすい
これは「気のせい」と切り捨てる話ではなく、
脳内物質(エンドルフィン、ドーパミン etc.)が実際に変わることが分かっています。
④ 服用の仕方・タイミング
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痛みが「ピークになってから」飲む
→ 特に炎症性疼痛では、早めに飲んだほうが効きやすい -
食事との関係や、1日の服用回数が守られていない
→ 血中濃度が安定せず、「効いたり効かなかったり」になりやすい
7. 理学療法士として患者さんに伝えやすいまとめ方
現場でよくある質問に対して、こんな説明フレーズが使いやすいかもしれません。
Q. 「痛み止めが全然効かないんだけど?」
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「効かない=根性がないわけではなくて、薬の得意分野と痛みの中身がズレてるだけのことも多いですよ」
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「今飲んでいる薬はどちらかというと“炎症向け”なので、
○○さんのような“筋肉と神経の過敏さ”がメインの痛みには、別ルートから攻めたほうがいい場合もあります。」
Q. 「効く人と効かない人の違いって何?」
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「炎症がどれぐらいあるか、神経の過敏さがどれぐらいか、脳の痛みの感じやすさなんかでけっこう違います」
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「薬だけで完結するタイプの痛みもあれば、運動や生活の工夫を組み合わせないと変わりにくい痛みもあります」
まとめ
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痛み止めが効くかどうかは、
「薬のタイプ」と「痛みの性質」のマッチ度で大きく変わる -
■ 炎症性疼痛 → NSAIDsが効きやすい
■ 筋筋膜性疼痛 → NSAIDs単独では「そこそこ」止まりのことが多い
■ 神経障害性疼痛 → プレガバリン系や抗うつ薬が必要なことが多い
■ 中枢感作・慢性広範囲痛 → 薬だけでは不十分で、運動・認知・生活調整が重要 -
同じ薬でも効く/効かないが出るのは、
代謝の体質差・脳の感受性・期待や不安・飲み方の違いも関係している -
「効かない=気のせい」ではなく、メカニズムに合った治療を選び直すサインと考えるのが大切