肩鎖靱帯の概要
- 肩鎖靱帯(ACL)は鎖骨外端(肩峰端)—肩峰上面を結ぶ線維束で、肩鎖関節包の上壁を補強するキーストラクチャ。
- 肩甲骨運動の支点として働く肩鎖関節で、ACLは水平(前後)安定性の維持に主として寄与。
- 垂直方向の安定(鎖骨の上方偏位抑制)は主に烏口鎖骨靱帯(円錐・菱形)が担い、ACLの役割は相対的に小さい。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 起始 | 鎖骨 肩峰端 上面 |
| 停止 | 肩峰 上面(肩鎖関節包上部〜前上方) |
| 張力の特徴 | 肩甲骨上方回旋で後方線維が緊張、下方回旋で前方線維が緊張 |
| 肩鎖関節の可動性 | 垂直軸 最大約50°/矢状軸 最大約30°/前額軸 最大約30° |
| 主機能 | 肩鎖関節の水平安定化、肩峰に対する鎖骨の不適切な上昇の抑制 |
機能(要点)
- 水平安定化:肩甲骨の内転(retraction)・外転(protraction)に伴う肩峰の前後移動に対して、関節包上部を補強し剪断を抑制。
- 回旋制動:肩甲骨の上方/下方回旋に応じて前後線維が分担して張力増大。
- 連携:烏口鎖骨靱帯(円錐・菱形)と協調して、水平=ACL、垂直=CCLの役割分担で全体安定性を確保。
画像・評価のポイント
- レントゲン:脱臼では鎖骨遠位端の上方転位(完全脱臼例で肩峰と非接触)。
- MRI/超音波:肩鎖関節上方に連続する低信号/高エコー線維。損傷では不整・腫脹・高信号化。
- 誘発テスト:High-arch test(他動160°〜最大前方挙上)で肩鎖部痛→関節内損傷示唆。Horizontal arch test(肩甲骨固定+他動水平内転)で肩鎖部痛→ACL/肩鎖関節包由来を疑う。
臨床での意義
- 肩鎖関節捻挫/亜脱臼(Tossy I):ACL損傷が主体。CCL温存。
- 肩鎖関節完全脱臼(Tossy III):ACL+CCL断裂。鎖骨外端の明瞭な上方偏位。
- 姿勢起因の拘縮:TOSなどの不良姿勢が長期化すると、ACLの短縮・線維化が散見。
触診・評価のコツ(実践)
- ランドマーク同定:座位で鎖骨肩峰端と肩峰をそれぞれ把持し、肩鎖関節裂隙に示指を当てる。
- 裂隙の探索:肩峰を鎖骨の彎曲に沿って前後へ滑走させると関節裂隙を容易に同定。
- 前方線維の評価:肩峰前縁を遠位へ下げつつ後方へ滑走→前方線維の緊張増大を触れる。
- 後方線維の評価:肩峰角部を遠位へ下げつつ前方へ滑走→後方線維の緊張増大を触れる。
セルフケア・運動(炎症期でない想定)
- 肩甲胸郭リズムの再学習:上方回旋・後傾を意識した軽負荷挙上(壁スライド等)。
- 鎖骨モビライゼーション:軽い前後グライドで関節包滑走を回復。
- 三角筋・僧帽筋上部の協調最適化:過剰な水平剪断を軽減。
- 体幹安定性の付与:プランクやバンドで肩甲帯支持性を補う。
関連疾患
- 肩鎖関節捻挫・脱臼(Tossy/Rockwood分類)
- 肩関節拘縮(肩鎖部の二次的高緊張を併発)
- 胸郭出口症候群(姿勢矯正と鑑別)
- 肩関節不安定症(前上方要素の協調不全)
Q&A(よくある質問)
Q1. ACL損傷で何が起こる?
A. 肩鎖部の圧痛・腫脹・水平動揺が出現。亜脱臼〜脱臼では鎖骨外端が上方に浮き上がる(piano-key sign)。
Q2. 手術はいつ検討する?
A. III型以上やスポーツ復帰困難な反復不安定で再建を検討。I〜II型は多くが保存療法で改善。
Q3. 鑑別のキーポイントは?
A. High-arch/Horizontal arch陽性に加え、画像でACL連続性・CCLの関与を確認(水平vs垂直不安定の切り分け)。
Q4. 姿勢で悪化する?
A. 前方頭位・円背などは肩鎖部の剪断を助長。胸椎伸展・肩甲骨後傾の再学習が有効。
まとめ(臨床要点)
- ACL=肩鎖関節の水平安定を担う主要靱帯。
- 上方(垂直)安定は烏口鎖骨靱帯群が主担当で、役割分担を理解して介入を設計。
- 評価は裂隙触診+動態滑走、High-arch/Horizontal archの再現痛で鑑別。
- 保存療法は痛み管理→リズム再学習→協調強化を段階的に。
最終更新:2025-11-06
