重症筋無力症の概要
重症筋無力症(myasthenia gravis:MG)は、神経筋接合部でのアセチルコリンの化学的伝達障害により、骨格筋の筋力低下・易疲労性を来す自己免疫疾患です。症状は日内変動し、活動で悪化・休息で回復するのが典型。**胸腺異常(過形成・胸腺腫)**の合併が多く関与が示唆されています。
-
有病率:10万人あたり約12人(日本の患者数2万人超/2013)
-
好発:女性20–30代、男性50代。小児(<5歳)発症の波もあり。後期発症は増加傾向
-
予後:治療の進歩で改善。完全寛解は20%未満だが、生活に支障の少ない軽症は50%超。致死的急性増悪は減少
主症状(ポイント)
-
眼症状:眼瞼下垂・複視が初発72%
-
球筋症状:嚥下障害・構音障害・咀嚼困難
-
体幹・四肢:下肢より上肢近位筋の低下が目立ちやすい
-
特徴:易疲労性/日内変動(午後や連続動作で悪化、休息で軽快)
-
筋萎縮は少ない、心筋・平滑筋は基本保たれる
診断(重症筋無力症診断基準2013の要点)
A. 症状(易疲労/日内変動を伴う)
眼瞼下垂/眼球運動障害/顔面筋力低下/構音・嚥下・咀嚼障害/頸部・四肢筋力低下/呼吸障害
B. 病原性自己抗体
-
AChR抗体陽性 または
-
MuSK抗体陽性(陰性MGもあり)
C. 神経筋接合部障害の検査
-
眼瞼の易疲労性試験、アイスパック試験
-
テンシロン(エドロホニウム)試験
-
**反復刺激試験(RNS)**低下
-
単線維筋電図でジッター増大
D. 判定
A+(B あるいは C)のいずれか、かつ他疾患を除外 → MGと診断
分類(Osserman)
-
I型:眼筋型(軽症・予後良好)
-
IIa:全身型(軽症)/IIb:全身型(中等症)
-
III:急性激症型(電撃型)—急速進行・呼吸筋麻痺に注意
-
IV:晩期重症型/V:筋萎縮型
-
小児型:新生児・若年型を含む
重症度評価(MG-ADLスコア)
各0–3点、合計0–24点。高いほど重症。
| 0点 | 1点 | 2点 | 3点 | |
| 会話 | 正常 | 間欠的に不明瞭もしくは鼻声 | 常に不明瞭もしくは鼻声、理解は可能 | 聞いて理解するのが困難 |
| 咀嚼 | 正常 | 固形物で疲労 | 柔らかい食べ物で疲労 | 経管栄養 |
| 嚥下 | 正常 | 稀にむせる | 頻回にむせるため、食事の変更が必要 | 経管栄養 |
| 呼吸 | 正常 | 体動時に息切れ | 安静時に息切れ | 人工呼吸を要する |
| 歯磨き | 正常 | 努力を要するが休憩を要しない | 休憩を要する | できない |
| 立ち上がり | なし | 軽度、ときどき腕を使う | 中等度、常に腕を使う | 高度・介助を要する |
| 複視 | なし | あるが毎日でない | 毎日だが持続的でない | 常にある |
| 眼瞼下垂 | なし | あるが毎日でない | 毎日だが持続的でない | 常にある |
治療
-
薬物療法:
-
抗コリンエステラーゼ薬(症状改善)
-
副腎皮質ステロイド、免疫抑制薬(例:アザチオプリン、タクロリムス等)
-
-
胸腺摘出術:胸腺腫・過形成、全身型で適応例あり
-
急性増悪(クリーゼ):IVIg/血漿交換、ステロイドパルス等
-
クリーゼ=急速な悪化で呼吸不全に至る状態。感染・過労・高熱・妊娠などが誘因
-
注意薬(増悪リスク):アミノグリコシド/マクロライド/フルオロキノロン系抗菌薬、Mg製剤、β遮断薬、ボツリヌス毒素 など。投与は主治医に必ず相談。
リハビリテーションの実践
原則:低負荷・短時間・高頻度、休息を挟む(ペーシング)。午後より「午前中」が好成績のことが多い。
1)筋力強化
-
高強度は避ける。RPE 11–13(やや楽~ややきつい)を目安に間欠的に
-
セット間休息を十分に。翌日の疲労残存や筋力低下が出たら負荷を下げる
2)持久力(有酸素)
-
歩行・自転車エルゴなど低負荷で。症状安定例はATレベル付近が目安
-
暑熱・高温環境はNG(体温上昇で悪化しやすい)。こまめなクーリングを
3)生活指導・環境
-
エネルギー節約(EC):作業の分割、座位作業、休憩計画
-
福祉用具:杖・シャワーチェア・電動歯ブラシ 等
-
職場調整:酷暑屋外・連続肉体労働は回避。過労・睡眠不足は最大の敵
-
感染予防:うがい手洗い・混雑回避。ワクチンは主治医と相談
仕事・妊娠・嗜好品
-
就労:治療でコントロール良好なら継続可。配慮事項(休憩/熱環境/繁忙期の調整)を共有
-
妊娠・出産:初期・産後3か月で憎悪しやすく、中期は安定しがち。経膣分娩可。新生児一過性筋無力症が約20%で見られることがあり、産科と連携
-
飲酒・喫煙:アルコールは基本控える(薬物相互作用)。禁煙推奨
よくある質問(Q&A)
Q1. 眼筋型は全身に進展しますか?
A. 一部は全身化します。初期から胸腺病変の有無や抗体タイプも勘案して治療計画を。
Q2. トレーニング量の目安は?
A. RPE 11–13、短時間×複数回、翌日疲労が残らないこと。悪化したら即減量。
Q3. 入浴・サウナは?
A. 高温長時間は避ける。ぬるめ・短時間で、入浴後は休息を。
Q4. 風邪をひいた時は?
A. 早めに受診。発熱・感染は悪化要因。自己判断での市販薬追加は避ける。
Q5. どんな薬に注意が必要?
A. 一部抗菌薬(アミノグリコシド、マクロライド、FQ)、Mg製剤、β遮断薬など。必ず主治医へ。
Q6. いつ運動するのが良い?
A. 多くは午前中が良好。食後すぐや高温時間帯は避ける。
Q7. 仕事は続けられる?
A. 可能。ただし過労を避け、休憩と業務配分を調整。産業医と連携を。
参考資料
最終更新:2025-09-08