靱帯損傷|定義・分類・症状・治癒過程・リハ戦略

要約(3行)

  • 靱帯損傷は「張力で連続性が損なわれた状態」。急性(1回の大外力)と慢性(反復微小外力)に分類。

  • 急性期は疼痛・腫脹・圧痛・関節内出血(関節内靱帯)と不安定性、慢性期は不安定性・特定動作痛が主体。

  • 治癒は炎症期→増殖期→成熟期が重なり進行。早期から“適切量の荷重・運動”が回復を促し、長期不動は強度低下。


定義

靱帯損傷=関節周囲で骨―骨を結ぶ靱帯に過度な張力が加わり、連続性が損なわれた状態。

分類

区分 機序 好発例 典型症状
急性損傷 生理範囲を超える瞬間的・大外力(衝突・急な方向転換・交通外傷など) 膝MCL/ACL、足関節外側(ATFLなど) 受傷後の痛み・腫脹、圧痛、関節内出血(ACLなど)、不安定感
慢性損傷 反復する軽微外力(同一動作の繰り返し) 投球肘のUCLなど 特定動作時痛、圧痛、不安定性・運動制限

症状の経過

  • 急性期(概ね〜3週間):疼痛・腫脹、表在靱帯では圧痛明瞭。関節内靱帯損傷では関節腫脹(血腫)。不安定性→脱臼感・膝折れ(giving way)。

  • 慢性期(受傷3か月以降):疼痛・腫脹は軽快しやすいが、不安定性は残存しがち。ACL損傷ではgiving wayにより二次的な半月板・関節軟骨損傷→再腫脹・疼痛、長期的に変形性膝関節症へ進展リスク。


基礎知識:靱帯の構造と機能

肉眼的・解剖

  • 白色の帯状/索状。

  • 関節包靱帯(肩の関節上腕靱帯、膝MCLなど:関節包の肥厚で幅広い帯)と、副靱帯(関節包と明瞭に区別:膝LCL、ACL/PCLなど)に大別。

  • 血管は少なく表層を長軸方向に走行。神経は血管と並走。

組成・組織学

  • 含水約65%、コラーゲン約25%(乾燥重量の約80%がコラーゲン)。主成分はⅠ型(約90%)+Ⅲ型(約10%)。四肢靱帯に比べ、項靱帯・黄色靱帯はエラスチン多め。

  • 中央部はコラーゲン線維束主体。骨付着部に向かって線維性軟骨→石灰化軟骨→骨へ移行(勾配構造)し、応力集中を緩和。

力学的特性(うねり=crimp)

  • コラーゲン線維束は波状のうねりを持ち、張力で直線化→抵抗増大→最終的に断裂。

  • 反復負荷でうねりが回復せず“伸び”が残ると、生理範囲超の可動が生じ、反復捻挫などへ。

線維束の機能分化

  • 例:ACLの前内側束(屈曲で緊張)と後外側束(伸展で緊張)。関節角度に応じて役割分担し、全域で安定化に寄与。

感覚器として

  • ルフィニ小体(位置覚)、パチニ小体(運動覚・加減速)、ゴルジ腱器官(張力変化)などの固有感覚受容器を多く含む。

  • 損傷後は位置覚・運動覚低下が長期(1年以上)残存し、再受傷リスクに関与。


治癒過程(創傷治癒と同様。ステージは重なって進行)

  1. 炎症期(0〜約7–10日)
    血腫形成→好中球・マクロファージ浸潤、壊死組織の貪食。線維芽細胞活性化・血管新生の準備。

  2. 増殖期(約7日〜数週)
    凝血塊内へ血管新生・線維芽細胞遊走。肉芽形成。初期はⅢ型コラーゲン優位で配列不整→張力に脆弱。後半からⅠ型生成が増える。

  3. 成熟期(数週〜数か月〜数年)
    コラーゲン合成と分解のリモデリングを反復し、線維は長軸並行化して瘢痕組織が成熟。ただし力学強度は正常未満が長期持続(2年後でも線維径や強度が劣る報告)。


治癒に影響する因子

  • 損傷の程度:部分損傷は血腫形成→肉芽→成熟が比較的円滑。完全断裂は断端間距離により治癒遅延・強度回復が劣る。

  • 靱帯の種類関節内靱帯(ACL等)は血流増加が乏しく、滑液・滑膜環境が瘢痕形成を抑制、線維芽細胞のⅠ型コラーゲン合成能も低く自然修復しづらい

  • 固定と荷重:短期不動(〜約3週)は可。一方、6週以上の長期不動は強度回復を阻害
    適切な機械的刺激(早期の許容範囲運動・荷重)は線維芽細胞活性化とコラーゲン合成を促進。ただし過負荷は炎症再燃・分解亢進に注意。


再建靱帯(移植腱)のリモデリング

  • 初期は無血管→壊死で力学的に脆弱。約2週以降に血管侵入、線維芽細胞がコラーゲン産生。

  • 4–6か月:コラーゲン含有・配列が正常靱帯に近づく。

  • 〜1年:組織学的には類似するが、線維径や力学強度はなお劣る例が多く、年単位での回復見込み。

  • → リハは**移植腱の“遅い生着”**を前提に段階的負荷設計が必須。


臨床・リハビリの要点(チェックリスト)

  • 初期(炎症~増殖初期)

    • RICE/PEACE & LOVEを参考に、過度の固定を避け短期不動+早期可動域の両立。

    • 関節内靱帯・完全断裂が疑わしければ早期整形外科評価。

  • 中期(増殖後期~成熟初期)

    • 関節可動域の回復、段階的荷重、求心性→等尺性→遠心・プライオメトリクスへ進行。

    • **固有感覚トレ(位置覚・運動覚)**を早期から一貫して実施(片脚立位、外乱トレ、閉鎖性運動連鎖など)。

  • 復帰期(成熟進行)

    • スポーツ特異的動作の加減速・方向転換ドリル、反応時間二重課題を含む。

    • 受傷前比で筋力・跳躍・Y-Balance等の客観基準と、恐怖回避など心理面の評価を併用。

  • 二次障害予防

    • ACLではgiving way予防が半月板・軟骨保護に直結。

    • 捻挫反復例は**外側靱帯“伸び”**と可動域過大を是正(動作再教育・足部内外反コントロール)。


よくある質問(FAQ)

Q1. どのくらいで治る?
A. 組織学的治癒は数か月、力学強度の回復は年単位。完全断裂や関節内靱帯ではさらに長期。

Q2. ずっと固定しておけば安全?
A. 長期不動は逆効果。コラーゲン配列の成熟を阻害し、強度は30–75%低下する報告も。短期固定後に適切量の運動刺激が必要。

Q3. 再建術をすればすぐ元通り?
A. いいえ。移植腱は初期に壊死期を経て長期リモデリング。復帰ロードマップは保守的に。

Q4. 反復捻挫が治らない
A. 靱帯の“伸び”+固有感覚低下+運動学の崩れが複合。足部〜体幹の連鎖位置覚トレを系統的に。


まとめ

  • 靱帯は少血管・感覚豊富な“関節ブレーキ”。うねり構造で生理範囲内は許容、超過で強抵抗→断裂

  • 適切量の早期運動刺激が治癒を促進、長期不動は強度低下

  • 関節内靱帯・完全断裂・再建例では保守的に段階負荷固有感覚再建が鍵。

  • ACLなどでは二次損傷予防=将来の関節保護