頸椎前方固定術(ACDF/前方除圧固定)の理学療法

頸椎手術の選び方(前方or後方)

  • 前方固定(ACDF/椎体部分切除+固定)=“前から直接どかす局所を安定化/前弯を作り直す”手術

  • 後方侵入の拡大術(椎弓形成術)=“後ろから通り道を広げる(脊髄を後方へ逃がす)”手術

どちらも脊髄・神経根の圧迫を取りますが、病変の位置・範囲・頸椎のアライメント(前弯/後弯)・症状の主座で使い分けます。


超要約の早見表

状況 前方固定が有利 椎弓形成術(後方拡大)が有利
病変の主座 前方(椎間板ヘルニア、前方骨棘、局所OPLL) 後方/全体(黄色靱帯肥厚、びまん性狭窄、連続型OPLLで広範囲)
レベル数 1–2椎間 多椎間(3レベル以上)
主症状 片側の神経根痛・手のしびれが強い/椎間孔狭窄 脊髄症(巧緻運動障害・歩行障害)優位
アライメント 前弯を再建したい/軽~中等度の後弯を矯正したい 前弯が保たれている(後弯が強くない)
OPLLの目安 K-line陰性、占拠率が高い(≒重度)→前方/前方併用 K-line陽性、占拠率が中等度で多椎間
付加価値 椎間孔拡大・前弯再建不安定の固定が同時にできる 可動域を温存しやすい(固定しない)・多椎間での侵襲を抑えやすい
よくある術後課題 嚥下違和感・嗄声、偽関節、隣接椎間障害 軸性頚部痛、C5麻痺、可動域の低下(一部)

※K-line=側面X線でC2後下縁―C7後下縁を結ぶ線。OPLLがこの線を超えて前に突き出る(陰性)と後方だけでは逃がしにくい、という臨床目安。

前方固定術の流れ(概要)

  1. 前頸部から進入(胸鎖乳突筋の内側ルート)

  2. 椎間板切除(discectomy)±必要に応じて椎体部分切除(corpectomy)

  3. 後縦靱帯・ヘルニア塊の除去、必要なら神経根出口も追加除圧

  4. 骨移植やケージ挿入で椎間を支え、症例によりプレートで固定

  5. 術後は頸椎カラーを一定期間(施設・固定性により数日〜数週間)

よくある合併症

嚥下違和感/嗄声(反回神経刺激)、移植骨・ケージの移動、不安定性、偽関節、血腫、感染、腸骨採骨部痛 など。多くは一過性ですが、増悪時はすぐ連絡。


理学療法の進め方(目安)

〈術前〉プレハブ

  • 教育:術後の注意点、カラー装着での起き上がり・食事・歩行の練習

  • 安全評価:歩行(痙性傾向・バランス)、手指10秒テスト等

  • 準備運動:手指~四肢のROM、軽い筋力・呼吸練習(横隔膜呼吸)

  • 転倒予防:ふらつきがある人は杖・手すり環境を確認

〈ベッド上期:術直後〜〉

目標:安静を守りつつ合併症を防ぐ

  • 四肢の軽い自動運動・足関節ポンピングでDVT予防

  • 頸部は保護(医師許可まで積極ROMは行わない)

  • 嚥下・嗄声の観察、痛みコントロール、深呼吸訓練

  • 腸骨採骨例は股関節周囲に負荷の強い運動を避ける

〈離床・移動期〉

目標:安全に立つ・歩く

  • 端座位→立位→歩行へ段階的に。カラー装着下で姿勢・バランス練習

  • 深部感覚低下や痙性がある人は小刻み歩行の協調練習

  • 上肢は肩~肘手の軽い自動運動(頸部へ不要なストレスは避ける)

〈ADL自立〜退院〉

目標:日常生活へ復帰

  • 歩行距離を漸増、四肢筋力の持久性トレ

  • 入浴再開後、医師許可範囲で頸部の緩やかなROM(痛み・しびれ悪化がないことを確認)

  • デスクワーク復帰や運転再開は主治医の許可のもと段階的に。重労働や強い首ひねりは骨癒合が得られるまで回避

レッドフラッグ:増悪する筋力低下、排尿障害、強い嚥下障害・嗄声、発熱・創部腫脹、激しい肩〜上肢痛の再燃は直ちに受診。


術後のセルフケア・禁忌(要点)

  • カラー装着中は前後屈・大きな回旋を控える

  • うつ伏せ読書・上向き天井作業・高所作業は不可

  • スマホは目線の高さに、長時間前かがみを避ける

  • 就寝はやや高めの枕で楽な姿勢に(無理な低枕はNG)

  • 咳・くしゃみ時は枕で頸前面を軽く支えると痛みが減る


まとめ

頸椎前方固定術は前方の圧迫を直接除去できる合理的な方法。骨癒合が最優先なので、頸部への過負荷を避けつつ早期離床と全身機能の維持を並行するのが理学療法の肝です。


よくある質問(Q&A)

Q1. 後方手術との違いは?
A. 前方は圧迫源(椎間板・OPLL等)を直視して取り除けるのが利点。後方は背側から脊柱管を広げる方法で、多椎間・後方優位の狭窄に適します。カーブや前弯の保ち方、合併症の種類が異なります。

Q2. カラーはどれくらい装着しますか?
A. 固定方法・骨質・術中安定性で変わります。数日〜数週間が一般的。指示が外れるまで自己判断で外さないこと。

Q3. しびれがすぐに消えません。失敗ですか?
A. しびれは神経の回復に時間がかかるため遷延することがあります。増悪や新たな筋力低下がなければ経過観察が多いですが、変化は必ず報告を。

Q4. いつから頸の運動を始めていい?
A. 医師の許可後に、痛みのない範囲で小振り・回数多めの持久性運動から。強いストレッチや抵抗運動は骨癒合確認まで待機。

Q5. 運転・仕事復帰の目安は?
A. 個別差が大きいです。一般にデスクワークは数週で段階復帰が多い一方、重量物運搬や高所作業は長めに制限されます。主治医の評価が必須。

Q6. 嚥下しづらい/声がかすれるのは大丈夫?
A. 前方進入で一時的に起こり得ます。徐々に改善することが多いですが、誤嚥・体重減少・悪化は早めに相談。

Q7. 採骨部(骨盤)が痛いのですが?
A. よくある訴えです。股関節屈曲での強負荷や側臥位での圧迫を避け、鎮痛と歩行フォーム調整で軽減します。

Q8. 家でできる運動は?
A. 毎日10〜20分の散歩、四肢の軽い筋持久運動深呼吸。頸部は指示された範囲のみ