はじめに
同じ“マッサージ”でも、どの層を狙うかで目的・方法・強度が変わります。本稿では、一般的な4手技(軽擦・強擦・圧迫・叩打)を皮下/浅筋膜・深筋膜・筋の3層で使い分け、禁忌・評価指標・処方の決め方まで一気通貫で整理します。
まず層を決める:層別ターゲティングの考え方
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皮下/浅筋膜(Subcutis/Superficial Fascia):循環・浮腫・疼痛緩和、皮膚‐筋膜の滑走改善
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深筋膜(Deep Fascia):滑走不全・短縮感・張力バランスの調整
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筋(Muscle Belly):筋緊張/トーン調整、トリガーポイント様の圧痛低減
コツ:痛み>硬さなら浅層から、可動域制限>痛みなら深層寄り。ただし強度は症状と日常活動量で微調整。
4手技×3層の使い分け(実践表)
| 手技 | 主対象層 | 目的 | 目安強度/テンポ | 1部位の目安時間 | 主な適応 | 禁忌・注意 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 軽擦 | 皮下/浅筋膜 | 循環促進・疼痛緩和・リンパ還流 | 軽圧/ゆっくり(呼吸同調) | 1–3分 | 浮腫、急性痛の入口、クールダウン | 皮膚感染・急性炎症の直上、深部静脈血栓疑い |
| 強擦 | 深筋膜 | 滑走改善・癒着対策 | 中~やや強圧/ゆっくり小振幅 | 60–120秒 | 硬結感・可動域末期のつっかえ | 抗凝固療法・骨突出部への過圧、急性期は回避 |
| 圧迫 | 筋 | トーン調整・圧痛軽減 | 中圧維持 15–60秒 | 2–5回/ポイント | 局所筋過緊張、トリガーポイント様圧痛 | 神経走行直上・血管圧迫、痺れ誘発は中止 |
| 叩打 | 皮下/筋 | 賦活(短時間)・覚醒 | 軽~中/短くリズミカル | 10–30秒 | ウォームアップ後の賦活 | 急性痛、骨粗鬆症部、術後直後、過敏体質 |
目安圧:軽圧=皮膚がほんのり動く、中圧=皮下〜筋膜が追随、強圧=痛み閾値を超えない範囲で“重さ”を感じる。痛みはNRS 2–3/10以内を原則。
手順テンプレ(評価→介入→再評価)
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事前評価:
- 痛み(NRS/VAS)、圧痛閾値(PPTが測れれば理想)、ROM、機能テスト(例:SLR、肩挙上、スクワット) -
層の選択:
- 皮下/浅筋膜→軽擦
- 深筋膜→強擦
- 筋→圧迫(必要に応じ叩打は短時間) -
ドーズ設定:
- 圧は“心地よい~やや強い”手前(NRS 2–3)
- 1部位3–6分、全体15–20分目安 -
再評価:
- 直後のNRS、ROM終末感、機能テスト
- 変化乏しければ層/手技/テンポを変更 -
セルフケア処方:
- ストレッチ/呼吸/軽運動を併用して再発リスク低減
部位別ミニプロトコル(例)
1. 肩甲帯(デスクワーカーの肩こり)
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軽擦:僧帽筋上部~肩甲挙筋ライン 1–2分
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圧迫:最圧痛点に15–30秒×2–3回(痺れ誘発なしを確認)
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強擦:肩甲上角周囲の深筋膜に小振幅 60–90秒
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仕上げ:軽い叩打 10–15秒
→ 再評価:頸側屈ROM、挙上時の終末感
2. 大腿外側(ランナー)
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軽擦:大腿外側全体 1分
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強擦:外側広筋とITB縁の滑走改善 60–120秒
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圧迫:圧痛ポイント 20–30秒×2
→ 再評価:片脚スクワット、階段下降の違和感
3. 腰背部(起床時こわばり)
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軽擦:胸腰筋膜上を広く 2分
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強擦:棘突起間ではなく筋膜面に小振幅 60–90秒
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呼吸同調:吸気で圧を緩め、呼気で沈める
→ 再評価:前屈・伸展の終末感
よくある失敗と回避策
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深層を狙うのに“強く・速く”揉む → 反射的防御収縮で逆効果。遅いテンポ+静圧に切替。
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神経・血管直上へ長時間の圧 → しびれ/拍動感が出たら即中止、位置をずらす。
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“痛いほど効く”の誤解 → NRS 2–3を越えると交感神経優位で反跳痛リスク。
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評価を省略 → 介入前後で同じ指標を必ず取る(NRS/ROM/機能1つずつ)。
自主トレ併用(処方カード)
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呼吸×軽擦:1分間、吸気で力を抜き、呼気で首肩をストンと落とす
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深筋膜セルフフリクション:指腹で小さくゆっくり30–60秒、痛み2–3/10
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筋圧迫セルフ:テニスボールで壁押し20–30秒×2、しびれが出たら中止
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+10分の歩行:交感/副交感のバランスを戻して再緊張を防止
FAQ
Q1. 強いほど効きますか?
A. いいえ。最適は痛気持ちいい手前(NRS2–3)。強すぎると反射的緊張や反跳痛が出やすいです。
Q2. 何分くらいが効果的?
A. 1部位3–6分、全体15–20分が目安。長すぎると内受容過敏が残ることがあります。
Q3. もみ返しを避けるには?
A. 浅層→深層の順、遅いテンポ、介入後に軽運動と水分が基本です。
Q4. 叩打はやった方がいい?
A. 賦活目的なら短時間。急性痛や術後直後、骨脆弱部は避けます。