この記事では、前脛骨筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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前脛骨筋の概要
前脛骨筋は足関節背屈に最も貢献する筋肉であり、長趾伸筋と長母趾伸筋と共に下腿の前区画に囲まれています。
下腿の前区画はコンパートメント症候群(区域内の圧上昇)をきたしやすく、しばしば脛の痛みとして障害をきたします。
重心が踵方向に移動している患者では、前脛骨筋に潜在的なトリガーポイントを形成しており、緊張が亢進している場合が多いです。
前脛骨筋は遅筋線維(赤筋線維)が非常に豊富であり、立位では常に身体をコントロールしながら活動している筋肉のひとつです。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 深腓骨神経 |
髄節 | L4-S1 |
起始 | 脛骨の外側面、下腿骨間膜および下腿筋膜、筋間中隔 |
停止 | 内側楔状骨、第1中足骨底 |
栄養血管 | 前脛骨動脈 |
動作 | 足関節の背屈,内反、足底のアーチの維持 |
筋体積 | 130㎤ |
筋線維長 | 7.7㎝ |
速筋:遅筋(%) | 27.0:73.0 |
筋連結 |
大腿二頭筋短頭、長母趾伸筋、長趾伸筋、後脛骨筋、長母趾屈筋 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
足関節背屈 |
足関節内反 |
1位 | 前脛骨筋 | 後脛骨筋 |
2位 | 長趾伸筋 | 長母趾屈筋 |
3位 | 長母趾伸筋 | 長趾屈筋 |
4位 | - | 前脛骨筋 |
前脛骨筋の触診方法
母趾から小趾までを完全に屈曲位に保持した肢位からの足関節背屈運動にて、前脛骨筋腱を触診しています。
足趾を屈曲させておく理由としては、同じ区画に存在する長趾伸筋と長母趾伸筋の収縮をできる限りに抑えるためです。
トリガーポイントと関連痛領域
前脛骨筋のトリガーポイントは筋腹中央あたりに出現し、下腿前面から足背部の母趾側にかけて痛み(関連痛)を起こします。
アナトミートレイン
前脛骨筋はアナトミートレインの中で、SFL(スーパーフィシャル・フロント・ライン)に属しており、大腿四頭筋や短趾伸筋とも繋がっています。
下腿中央の断面図
下腿は4つの区画に分けられ、前脛骨筋は長趾伸筋や長母趾伸筋と共に前区画に位置しています。
前区画は、脛骨と腓骨を連結している骨間膜の前方、長趾伸筋と長腓骨筋の間を通過する筋間中隔の内方の区画を指します。
筋間中隔とは、筋膜と筋膜が接して出来た厚みのある壁で、それぞれの筋肉が個別に作用できるように設けられた隔壁です。
骨間膜とは、骨と骨の間を接続する線維性の膜組織で、脛骨と腓骨が骨間膜で連結することにより骨格の支持性を高めています。
ストレッチ方法
後方の脚のつま先を床につけたまま足の甲を下方に押しつけて、足関節を底屈させていきます。
筋力トレーニング
立位で足部を上げ下げする動作を反復します。
かかとを階段などの縁に置き、足先を垂らしてから実施するとより効果的です。
歩行時の筋活動
前脛骨筋は前遊脚期(PSw)の後半から荷重応答期までと、歩行中は非常に長く筋活動をしている重要な筋肉になります。
PSwからは求心性に収縮して足関節を背屈させることにより、つま先が地面に引っかからないように保持する働きがあります。
腓骨神経麻痺になると遊脚期の足関節背屈が不可(下垂足)となり、つま先が引っかからないように足を高く上げて鶏のように歩く鶏歩が出現します。
LRは足が床へ接地してから体重を半分程度かける時期であり、この時期の前脛骨筋は遠心性に収縮して足関節の底屈を調節しています。
前脛骨筋の収縮により、足部が床にストンと落ちることを防ぎ、衝撃を吸収しながらしっかりと地面を踏みしめることができるようになります。
前脛骨筋が関連する疾患
- 腓骨神経麻痺
- 前側慢性コンパートメント症候群
- 前脛骨筋腱断裂 etc.
腓骨神経麻痺
前脛骨筋の支配神経である腓骨神経に麻痺が生じると、足関節背屈の機能が失われて下垂足となり、代償的に鶏歩が起こります。
下垂足の治療法として、可逆性の神経麻痺の場合は前脛骨筋に電気刺激を与えて収縮を促す方法があります。
しかし、腓骨神経が完全に麻痺している場合は筋肉の収縮がみられず、その場合は治療が困難となります。
少しでも収縮がみられる場合は、足部を目で確認しながら前脛骨筋の収縮に合わせて力を入れるように意識してもらいます。
前側慢性コンパートメント症候
長距離ランナーに多い傷害のひとつであり、筋膜の硬化や肥厚、前区画に存在する筋肉(主に前脛骨筋)の肥大によって起こります。
コンパートメント症候群は筋肉の阻血による疼痛であるため、痛みの部位を限定して指すことが難しいです。
治療には筋膜リリースや前脛骨筋のストレッチングが重要であり、日頃から徹底させることが必要となります。