重症筋無力症(myathenia gravis:MG)のリハビリ治療

重症筋無力症のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

重症筋無力症の概要

重症筋無力症(myathenia gravis:MG)は、神経筋接合部におけるアセチルコリンノの科学的伝達障害により、骨格筋の筋力低下・易疲労性を生じ、寛解憎悪・日内変動を示す疾患で、自己免疫疾患のひとつでもあります。

なぜ自己抗体が生成されるかは不明ですが、MGでは胸腺の異常(過形成、胸腺腫)を伴うことが多いとされており、それらの関与が考えられています。

MGの発症率などについて

有病率は10万人あたり11.8名であり、日本の患者数は20,000人以上です(2013年時点)。男女比は1:2で女性に多いです。女性では20-30歳、男性では50歳代で発症する例が多いです。

また、5歳未満に発症の波があり、全体の7.0%を占めています。後期発症MGが増加傾向であり、遺伝要素はありません。

重症筋無力症の予後

長期予後は免疫療法の普及によって改善していますが、寛解率は20%未満とされています。仕事や生活に支障がない軽症の割合は50%以上となっています。また、急性悪化して死亡する症例も減少傾向となっています。

重症筋無力症診断基準2013

A.症状(下記症状は易疲労性や日内変動を呈する)

  1. 眼瞼下垂
  2. 眼球運動障害
  3. 顔面筋力低下
  4. 構音障害
  5. 嚥下障害
  6. 咀嚼諸具合
  7. 頸部筋力低下
  8. 四肢筋力低下
  9. 呼吸障害

B.病原性自己抗体

  1. アセチルコリン受容体(AChR)抗体陽性
  2. 筋特異的受容体型チロシンキナーゼ(MuSK)抗体陽性

C.神経金接合部障害

  1. 頑健の易疲労性試験陽性
  2. アイスパック試験陽性
  3. 塩酸エドロホニウム(テンシロン)試験陽性
  4. 反復刺激試験陽性
  5. 単線維筋電図でジッターの増大

D.判定(以下のいずれかの場合、重症筋無力症と診断する)

  • Aの1つ以上があり、かつBのいずれかが認められる
  • Aの1つ以上があり、かつCのいずれかが認められ、他の疾患が鑑別できる

重症筋無力症の分類(Osserman)

分類 備考
小児型 新生児型、若年型  -
成人型 Ⅰ型 眼筋型 軽症で予後良好
Ⅱa型 全身型(軽症) 徐々に発症。眼症状に始まり骨格筋・球筋に広がる
Ⅱb型 全身型(中等症) 徐々に発症。眼症状に中等度の骨格筋・球筋の筋力低下
Ⅲ型 電撃型(急性激症型) 重度の筋力低下が急激に発症し、呼吸筋麻痺に伴う死亡例が多い
Ⅳ型 晩期重症型   -
Ⅴ型 筋委縮型   -

重症筋無力症の症状

筋力低下

  • 眼筋の筋力低下に伴う眼瞼下垂から発症することが多い(初発症状の72%)
  • 易疲労性のため運動で症状が憎悪し、休憩で回復が認められる
  • 下肢より上肢に筋力低下は起こりやすい

筋力低下に伴う症状

  • 外眼筋の筋力低下によって複視や眼瞼下垂が起こる
  • 舌・咽頭などの球筋の筋力低下によって嚥下障害や構音障害が起こる

筋肉の特徴

  • 筋委縮を伴わないことが多い
  • 心筋や平滑筋の筋力低下や疲労性を生じない

重症度の評価(MG-ADLスコア)

0点 1点 2点 3点
会話 正常 間欠的に不明瞭もしくは鼻声 常に不明瞭もしくは鼻声、理解は可能 聞いて理解するのが困難
咀嚼 正常 固形物で疲労 柔らかい食べ物で疲労 経管栄養
嚥下 正常 稀にむせる 頻回にむせるため、食事の変更が必要 経管栄養
呼吸 正常 体動時に息切れ 安静時に息切れ 人工呼吸を要する
歯磨き 正常 努力を要するが休憩を要しない 休憩を要する できない
立ち上がり なし 軽度、ときどき腕を使う 中等度、常に腕を使う 高度・介助を要する
複視 なし あるが毎日でない 毎日だが持続的でない 常にある
眼瞼下垂 なし あるが毎日でない 毎日だが持続的でない 常にある

重症筋無力症の治療方法

主な治療は薬物療法と胸腺摘出術になります。薬物療法で、、抗コリンエステラーゼ薬やステロイドを中心に使用します。

クリーゼなどの状態が急激に悪化した場合は、血液浄化法やステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量投与などが行われます。

胸腺的手術は、胸腺腫例や胸腺過形成だけに限らず、全身型例にも適応されることがあります。

<クリーゼとは>重症筋無力症では、症状が急激に悪化して呼吸困難をきたす場合があり、この状態をクリーゼと呼びます。原因としては、感染や過労、妊娠、高熱などが挙げられています。

リハビリテーション

筋力強化

  • 易疲労性に配慮し、負荷の高いトレーニングは避ける
  • 筋力強化の効果を出すには午前中が推奨される
  • 運動前後や筋力、翌日の疲労感などを細かくチェックしながら負荷量は決定する

持久力トレーニング

  • 歩行や自転車エルゴなどの低負荷で実施できる練習にて行う
  • 症状が安定したMG症例では、嫌気性代謝閾値レベルの負荷強度が推奨される

生活指導

  • 家族や周囲に病気を理解してもらい、疲労時は休息がとれるようにする
  • 福祉用具の活用なども考慮して生活全体をデザインしていく

仕事を続けることができるのか

治療により症状がコントロールできている場合は、仕事を続けることは可能です。ただし、過労は症状を憎悪させてしまう恐れがあるため、十分な休養をとることが大切です。

体温上昇も憎悪させる因子となるため、夏場などの屋外での仕事は推奨されません。職場にはこれらのことを十分に理解していただき、配慮してもらうことで継続することができます。

飲酒や喫煙について

アルコールは薬物の代謝に影響を与えることが知られており、MGでは薬物のコントロール不良となる可能性も考えられるため、基本的には控えることが前提となります。

また、喫煙に関しても悪化の報告例があることより、禁煙を勧めることになります。

重症筋無力症での妊娠と出産

妊娠や出産がMGに影響を与えることが知られており、妊娠初期と出産後三カ月で憎悪する場合が多いと報告されています。また、妊娠の中後期は安定している場合が多いとされています。

MGは平滑筋への影響がないため、経膣分娩による出産が可能です。遺伝性疾患ではありませんが、一過性筋無力症と呼ばれる症状が20%の新生児に出現することがあるため、担当医師にしっかりと相談しておくことが大切です。

おわりに

重症筋無力症に対するアプローチとして、疲労が少ない時間帯にリハビリを実施することが基本になります。

現在は治療薬や治療法の進歩に伴い、生命予後も著しく改善しています。症状が安定している症例に関しては、生活範囲の拡大が行えるように、十分な管理のもとに前向きな目標を掲げて取り組んでいくことが求められます。

参考資料


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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