呼吸を勉強していく上で、最低限に知っておきたい略語や図などについてわかりやすく解説していきます。
この記事の目次はコチラ
肺の構造と名称
肺は左右に位置しており、左肺は心臓が位置するためにやや小さい構造となっています。肺全体の大きさは、成人男性で1060g、女性で930gほどです。
さらに肺を拡大してみていくと、以下のような構造となっています。
名称 | 機能 |
気管 | 空気の通り道 |
気管支 | 気管から分岐した先(第4胸椎の高さで左右に分岐) |
肺胞 | ガス交換を実際に行っている場所 |
肺細動脈 | 静脈血を肺胞に送り込んで二酸化炭素を渡す |
肺細静脈 | 肺胞から酸素を取り込んで動脈血に変換する |
心臓 | 肺細静脈から動脈血を受け取って全身に酸素を送る |
横隔膜 | 収縮することで肺に酸素を取り込む |
最初に覚えておきたい大文字
文字 | 意味 | 日本語 | 英語 |
V | 量 | ボリューム | volume |
C | 量の和 | キャパシティ | capacity |
E | 呼気 | エクスハレーション | expiratory |
I | 吸気 | インハレーション | inspiratory |
F | 強制 | フォース | forced |
P | 圧 | プレッシャー | pressure |
D | 拡散 | ディフュージョン | diffusion |
R | 抵抗 | レジスタンス | resistance |
R | 予備 | リザーブ | reserve |
耳にしたことがある単語が多いので難しいものは少ないかと思いますが、覚え方のコツとして、「E」はEXIT(出口)、「I」はIN(入口)の頭文字と考えてください。
呼吸における出口は吐き出す方向で、入口は吸い込む方向です。「R」はふたつの場合が存在しますが、前後の意味合いを理解することで区別は可能です。
小文字の意味
略語では、上記の代表的な大文字の横に小文字がついてある場合があります。それらは大文字の部分の補足説明(測定部位や測定条件)としての意味を持っています。
例えば、「Vt」は一回換気量という意味ですが、「t」は「V」の補足説明ですので、何かの量(V)であることが推測できます。
「t」はtidalの頭文字で、波が寄せては引くという意味を持っており、呼吸の吸ってから吐くまでの一回の流れを波になぞらえて命名されています。
このような法則と意味合いを理解してから略語を覚えていくと、ただ暗記するだけよりも頭に残りやすくなります。
実際に図を見てから考えてみる
下図はスパイログラムといって、スパイロメーターという測定機器を使用して肺活量などを計測した場合の基本図になります。
右側に略語が書かれていますが、意味合いを読み取りながら確認してみてください。
例えば、「IRV」がなにの略語かを考えていく場合、「I」はインなので吸気、「R」はレジスタンスの抵抗?それともリザーブの予備?となるはずです。「V」はボリュームなので量と予測できます。
スパイログラムでは呼吸量を計測していますので、抵抗量というのはおかしいため、吸気予備量が正解であると導くことができます。
他にもこの図から、強制的に息を吐き出してもRV(予備量:残気量)が肺内に残るのだとか、全肺気量では残気量も含めるのだとかが読み取れます。
スパイログラムで読み取れる数値と基準値
略語(英語) | 意味 | 基準範囲 |
TV(=Vt) | 1回換気量 | 500mL |
tidal volume | ||
ERV | 呼気予備量 | 1000ml |
expiratory reserve volume | ||
IRV | 吸気予備量 | 2000-3000ml |
inspiratory reserve volume | ||
TLC | 全肺気量 | 5500-6000ml |
Total lung capacity | ||
FVC | 強制呼出肺活量 | 3500-4500ml |
forced vital capacity | ||
RV | 残気量 | 1000-1500ml |
reserve volume | ||
IC | 深吸気量 | 2500-3500ml |
inspiratory capacity | ||
FRC | 機能的残気量 | 2000-2500ml |
forced reserve capacity |
TLC(全肺気量)は、「T」トータル「L」ラング(肺)「C」キャパシティの略で、口から吐ける量(肺活量)以外の残っている量(残気量)まで含めた合計になります。
フロー・ボリューム・カーブ
呼吸器疾患は大きく閉塞性と拘束性に分類できます。どちらに属しているかを判断するために、この図は有用となります。
気道が閉塞している場合は、呼吸の流量は大きく障害されませんが、流速は障害されることになります。肺が拘束している場合は流量(容量)が低下します。
具体的には、1秒率が70%未満の場合を閉塞性障害、肺活量が予測値に対して80%未満の場合を拘束性障害に分類されます。
1秒率とは、深く息を吸い込んで一気に吐き出した空気の総量に対し、最初の1秒間で吐き出した量の割合です。正常では70%以上となります。
閉塞性障害のフロー・ボリューム・カーブ
閉塞性障害をきたす代表的な疾患には、①COPD、②肺気腫、③慢性気管支炎、④気管支喘息などがあります。
フロー・ボリューム・カーブで見てみると、呼気・吸気ともに流速の減少が認められます。また、全体として流量もやや低下します。
拘束性障害のフロー・ボリューム・カーブ
拘束性障害をきたす代表的な疾患には、①肺線維症、②間質性肺炎、③悪性腫瘍、④気胸などがあります。
フロー・ボリューム・カーブで見てみると、呼気・吸気ともに流速の減少はみられませんが、流量が大きく低下しています。
間質とは、正常な肺胞の外側にある壁の部分を指します。ここに炎症が起きてしまうと壁が肥厚してしまい、肺が十分に膨らまなくなってしまいます。
例えるなら、風船のゴムが分厚いものが間質性肺炎です。分厚いゴムは膨らませることが難しくなり、ガス交換としての役割も失っていきます。
安静呼吸の流れについて理解する
安静吸気は、横隔膜と外肋間筋の収縮によって肺に空気を取り込みます。その際に、横隔膜が下にさがることで胸の中はマイナスの圧力がかかります。
圧力がマイナス方向に働くと、肺内では外側へ広がる圧力が発生し、気管(支)や肺胞は膨らむことになります。
反対に安静呼気では、横隔膜が弛緩して上に戻ることで、胸の中の圧力はプラス方向に働きます。(完全なプラスにはなりません)
そうすると、これまで外側に働いていた圧力から解放されて、内側に戻る圧力が発生し、肺の空気を気管(支)に押し戻すことが可能となります。
ガス交換の4条件
呼吸(ガス交換)の動きについては上述しましたが、正常なガス交換を可能にするためには四つの条件が必要となります。それぞれが可能となり、はじめて正常な呼吸を達成できます。
換気
実際にガス交換を行っているのは肺ではなく肺胞になります。肺胞の中に存在する空気を新鮮に保つためには、一定以上の換気(空気の入れ替え)が必要です。
拡散
肺胞の空気と肺毛細血管の間を酸素と二酸化炭素が移動するのが拡散です。両者の間のガス濃度差を平衡させるようにガスが移動します。
拡散がうまく行えていない場合、どれだけ空気を吸い込んでも酸素を血液に取り込むことができずに酸欠に陥ることになります。
血流
拡散可能な肺毛細血管が広がっている肺胞表面を拡散面積といい、大きさは約60-70㎡になります。そこには毎分5リットルもの大量の血液が流れ込んでいます。
そのため、肺毛細血管は血流による負担が大きくなるので、いくつかの負担を軽減する機構が備わっています。
そのひとつが血管壁の伸展性であり、肺毛細血管の平均血圧はわずか15mmHgしかなく、血管抵抗は大循環の1/10程度しかありません。
さらに予備力が大きいため、運動時や肺切除後など血流量が増えてもこの値は変わりません。この血流に病的な変化が起こるとガス交換が障害されることになります。
換気血流の適合
換気が血流の値より大きい場合、換気が無駄に使われて効率が低下します。このことを死腔効果といいます。
反対に、血流の値が大きい場合、血液が十分に動脈血化されなくなります。このことを短絡効果といいます。
換気量と血流量が適合しているときが、最も効率的に呼吸が行えている状態となります。
呼吸の中枢は延髄にある
通常、呼吸運動は無意識に行われていますが、その指令を出しているのが延髄にある呼吸中枢になります。
気管支の平滑筋にある伸展受容器や呼吸筋の筋紡錘、頸動脈小体や大動脈小体の化学受容器から得られた情報を延髄で統合し、指令を出すことで調節しています。