広背筋(Latissimus dorsi)

広背筋の概要

広背筋の起始停止

広背筋は人体最大級の背面筋。上腕を伸展・内転・内旋させ、上肢を固定すると体幹の引き上げや咳などの強制呼気を補助します。短縮しやすく、短縮時は**肩屈曲・外転の終末域が出にくい/屈曲で腰が反りやすい(腰椎過伸展代償)**のが典型です。

基本データ

項目 内容
支配神経 胸背神経
髄節 C6-8
起始 ①第6(または7)胸椎から第5腰椎にかけての棘突起(胸腰筋膜を介して)
②正中仙骨稜
③腸骨稜の後方
④第9(または10)〜12肋骨、肩甲骨の下角
停止 上腕骨の小結節稜
栄養血管 肩甲下動脈の胸背枝
動作 肩関節の伸展,内転,水平外転,内旋
筋体積 550
筋線維長 38.2
速筋:遅筋(%) 49.550.5

運動貢献度(順位)

貢献度 肩関節伸展 肩関節内転 水平外転 肩関節内旋
1 広背筋 広背筋 広背筋 肩甲下筋
2 大円筋 大胸筋(下部) 三角筋(後部) 大胸筋
3 三角筋(後部) 大円筋 大円筋 広背筋
4 肩甲下筋   大円筋

臨床キモ:腋窩で大円筋と混同しやすい。広背筋腱は“大円筋の前方”を回って結節間溝の床へ向かうイメージで鑑別。

広背筋の触診方法

  • 姿位または腹臥位で肩屈曲90°+内旋抵抗をかけると下外側縁が盛り上がり触れやすい。

  • 腋窩で大円筋(小結節稜へ)と誤認しやすい。広背筋腱は大円筋の前方を回り結節間溝の床へ走るイメージで鑑別。

ストレッチ方法

  1. 四つ這いアルミホイール(肘つきチャイルド)
     肘を床、胸を沈めて体幹をやや後方へ。肩屈曲を稼ぎつつ頸椎は軽い伸展。

  2. 仰臥位オーバーヘッド
     膝屈曲で骨盤後傾を作り腰椎伸展代償をブロック。腕を耳の横へゆっくり挙上。

  • チェック:膝伸展や腰椎伸展で可動が“急に”伸びるなら、広背筋依存の代償を疑う。小胸筋短縮/胸椎後弯も合わせて評価。

筋力トレーニング

  • ヒンジロー/ワンハンドロウ/ラットプル:肩甲帯の過度な前傾・すくみ上がりを避け、**上腕を体幹に“引き付ける感覚”**を優先。

  • 肘はやや体側寄りの軌道、胸郭は開きすぎず、腰椎の過伸展はNG

トリガーポイント(TP)

  • 主訴肩甲骨下角中心の上背部痛後腋窩〜肩後外側の鈍痛。腕の**内側〜尺側(薬指・小指側)**に放散する違和感/だるさ(大円筋や斜角筋TPと重なりやすい)

  • 誘因繰り返すプル系動作、頭上リーチや前傾+手を伸ばす作業の反復、長時間の前方頭位・猫背でのPC作業、激しい咳/呼吸器症状、杖・松葉杖の使用、重い荷の運搬

  • 関連記事:大円筋・広背筋のトリガーポイント(TP)

アナトミートレイン

  • BFL(バック・ファンクショナル・ライン):対側大殿筋↔同側広背筋で投球・やり投げなど下肢→上肢の力伝達を担う。

    • 腹筋群が弱いと腰椎過伸展→椎間関節痛の温床。

広背筋:筋膜:BFL

  • SFAL(表在前アームライン):大胸筋・上肢屈筋群とともに短縮優位になりやすい。定期的に伸張を。

広背筋:筋膜:SFAL

  • 同側FL:体操の吊り輪・水泳のプルで体幹安定+上肢牽引を支える。

広背筋:筋膜:同側FL

よくある臨床シナリオ

  • 投球障害肩(後方痛):肩甲骨下角部の広背筋起始部でストレイン。柔軟性確保とBFL再教育が鍵。

  • 肩関節拘縮:広背筋短縮で肩屈曲・外転・水平内転が詰まる。腋窩の軟部解放→関節モビリティで即時改善例あり。

  • 筋筋膜性腰痛:BFLの牽引連鎖で反対殿部に響く関連痛。局所リリース+スタティックストレッチが有効。


Q&A

Q1. 広背筋は呼吸に関与しますか?
A. はい。上肢固定位では胸郭を引き下げる・体幹を引き上げるなどにより、咳などの強制呼気や深呼吸を補助します。

Q2. 肩屈曲で腰が反る患者、原因は?
A. 広背筋短縮や小胸筋短縮、胸椎後弯で肩屈曲の可動が足りず腰椎で代償。骨盤後傾で代償を止めて検査を。

Q3. 大円筋との簡単な鑑別は?
A. 停止部で判定:大円筋=小結節稜(内側唇)、広背筋=結節間溝の床。腋窩前壁で触診ラインを追う。

Q4. 伸張時に肩がすくむのは?
A. 広背筋の緊張に加え僧帽筋上部優位や肩甲上方回旋のコントロール不良。前鋸筋・下部僧帽筋の促通を併用。


最終更新:2025-10-07