毎日ウォーキングしているにも関わらず、お尻の筋肉(大殿筋)のハリ感が全くない患者を臨床ではよく見かけます。
そういう方は必ずといっていいほど歩き過ぎで身体を痛めており、本人はそのことを理解していない傾向にあります。
先日に担当した患者を例に挙げると、痛みの訴えは大腿後面外側から膝窩外側にあり、膝関節を深く曲げることができませんでした。
これは大腿二頭筋の異常な緊張が原因でしたが、それを招いたのは大殿筋の筋出力低下と歩行量の増加にありました。
大殿筋の主な作用は股関節伸展ですが、もしも大殿筋が機能していない場合は、代償として大腿二頭筋が活動することになります。
大腿二頭筋が疲労すると痛みを誘発したり、膝関節の深屈曲時に異常な収縮を起こして可動域を制限することにつながります。
それでは、どうして大殿筋のハリ感がなくなったのか(萎縮したのか)ですが、多くの場合は腸腰筋の短縮が影響しています。
腸腰筋は大殿筋の拮抗筋であり、腸腰筋が短縮すると股関節伸展の可動域が制限され、そのために大殿筋の活動が低下します。
日常的に活動できなくなった大殿筋は徐々に萎縮していき、代償として働き続ける大腿二頭筋は硬くなっていくわけです。
このような悪循環に陥らないためにも、ただ歩くのではなく、しっかりと大殿筋が収縮できるフォームで歩くことが必要となります。
どのような歩き方が大殿筋を使用し、他の筋肉の無駄な活動を最小限に抑えられるかについてですが、ポイントはたったのひとつで「骨盤を動かすこと」です。
競歩選手の歩き方をみてみるとわかりやすいですが、骨盤はしっかりと動いているのに対して、上半身はほとんど動いていません。
決して大股で歩いているわけではなく、下肢の振り出しは骨盤を動かすことで自然と振り子のように前に出ています。
しっかりと骨盤を回旋させるためには、支えている脚が安定し、かつ股関節に外旋力(反対側の骨盤を前に推進する力)が生じる必要があります。
それらはまさに大殿筋の作用であり、それがお尻を使って歩かなければならない理由となるわけです。
ここでは大殿筋の機能不全による大腿二頭筋の問題を書きましたが、他にも広背筋や脊柱起立筋、腸脛靭帯など多くの組織に影響を与えます。
そのため、大殿筋がしっかりと活動できる土壌を作ることは重要であり、そこを整えてから歩き方を指導してみてください。