トレンデレンブルグ徴候を改善するためのリハビリ治療

トレンデレンブルグ徴候(歩行)の原因と改善するためのアプローチ方法について、わかりやすく解説していきます。

トレンデレンブルグ歩行とは

トレンデレンブルグ歩行は別名「中殿筋歩行」とも呼ばれ、名前の通りに中殿筋が原因(筋出力低下)で起こる異常歩行を指します。

具体的には、下肢立脚期に骨盤を正中位に保つことができず、反対側の骨盤が下がってしまう現象をいいます。

とくに中殿筋は廃用性の萎縮が生じやすい筋肉であり、長期臥床後はトレンデレンブルグ歩行を引き起こす原因となります。

 

正常歩行時における中殿筋の活動

学校ではトレンデレンブルグ歩行が起きる原因は中殿筋の筋力低下だと教えられたかと思いますが、これは少し間違っています。

中殿筋の筋力(MMT)が正常でも、跛行は起きるからです。

ほとんどのケースでは筋力の問題よりも、出力がピークまでにかかる時間が遅延していることのほうが問題となっています。

股関節の角度|正常歩行時
中殿筋の筋活動|歩行周期

中殿筋はTSwの後期からLR期、MSt中期にかけて筋活動を発揮します。

一回の歩行周期が1.3-1.5秒程度なので、中殿筋が活動している時間はわずかに0.4-0.5秒という短い時間です。

健常者であれば、中殿筋の出力のピークは0.5秒以内にやってきますが、トレンデレンブルグ徴候の患者では3-5秒ほどかかります。

ピークまでにかかる時間が遅いために、必要な筋出力を求められたときに発揮することができず、対側の骨盤が下がることにつながります。

反応速度の低下はどうして起こるのか

反応速度が低下する理由として、以下の三点が考えられます。

①関節の不安定性

人体においては、ほとんどの関節において第三のテコの原理が働いていますが、第三の特徴は作用点の移動距離とスピードを高めることです。

変形性股関節症などで関節が摩耗し、支点が安定していない場合は、本来のスピードを出すことができない状況となります。

テコの原理|第三のテコ

②中殿筋の筋委縮

トレンデレンブルグ徴候は長期臥床後に起こりやすいとされていますが、その間に中殿筋が委縮してしまう影響が大きいと考えられます。

筋肉の萎縮は、筋力の立ち上がりまでの速度を低下させる原因となります。

③固有感覚の低下

筋肉の委縮は固有感覚(位置覚や運動覚など)を低下させる原因となり、固有感覚の低下は筋肉の反応速度を低下することにつながります。

固有感覚が低下する原因は筋委縮のほかに、①加齢、②過緊張、③疼痛、④血流障害、⑤交感神経の過活動などが報告されています。

④フィードフォワード機構の破綻

フィードフォワード機構とは、ある現象が起こる前に身体を備えることにより、その後に起こる現象の影響を極力少なくすることを指します。

長期臥床によって筋力が低下し、歩行感覚が以前と乖離してしまうと、従来のフィードフォワード機構では対応できず、跛行が起こってしまう原因となります。

一度跛行が起きてしまうと改善しにくいのは、跛行の状態で新しい身体イメージを確立してしまうためです。

術後2年以上かけて反応速度が回復

症例報告によると、股関節臼蓋形成不全で跛行が出現したために手術に至ったケースでは、術後早期に跛行の減少が認められたとしています。

しかし、完全に跛行が消失することはなく、退院して一年が経過したあとも跛行は消失していなかったとしています。

それからさらに一年後に診察した際は、跛行が消失しており、筋出力のピークまでの速度が改善していたことが報告されています。

このことから、除痛や関節の安定化にて跛行は早期に減少しますが、筋の反応速度の改善は長期間を要すると考察できます。

トレンデレンブルグ徴候に対するアプローチ

前述した反応速度を低下させる原因を考慮したうえで、そのアプローチの方法について解説していきます。

関節の安定化

まずは関節の不安定性からアプローチしていくことが望まれます。

症例報告のケースで考察すると、術後に跛行が軽減した理由は除痛と関節の安定化が達成されたことが大きいはずです。

関節の求心性を高めるにはインナーマッスルの強化が必要であり、方法としては、片脚立位で対側骨盤を挙上して保持する練習を実施します。

関節の安定化は、結果的に固有感覚の改善にも結びつきます。

筋力の立ち上がり速度の改善

前述したようにトレンデレンブルグ徴候の多くは、中殿筋の出力がピークに至るまでの遅延が原因です。

筋肉の瞬発力を高めるには、瞬間的に加速させやすい1RMの50%程度の抵抗を用いて、最大限の高加速度を生じさせて鍛える必要があります。

固有感覚の改善

固有感覚を改善するためには、筋委縮の改善、筋緊張の緩和、除痛、副交感神経の活性化などが有用となります。

アライメントが整えられることでも固有感覚は向上しますので、状態に合わせて補助具の検討なども行います。

フィードフォワード機構の再構築

固有感覚が改善することでフィードフォワード機構も自然と改善していきますが、より促進的に構築するために意識的に取り組む必要があります。

姿勢鏡などを取り入れたトレーニングなども、より多くの情報を与えることで調整していくことを促した方法になります。

中殿筋の反応速度の低下も考慮して、正しい姿勢を保ちながらの歩行練習を実施し、徐々に速度を上げていくようにします。

内転筋群のトレンデレンブルグ徴候

通常、股関節の内転筋群は立脚期に活動することはありませんが、中殿筋に筋出力低下があると、代償的に内転筋で下肢を支持しようと働きます。

そうすると起始側である骨盤が引き寄せられて反対側が落ち込むといった、いわゆるトレンデレンブルグ徴候を示します。

そのため、股関節内転筋の状態も確認しておくことが重要であり、歩行中の筋活動についても注意して見ていくようにします。

内転筋が過活動となると、拮抗筋である外転筋は緩んでしまうため、内転筋優位な支持機構を調整していくことも大切です。

トレンデレンブルグ歩行と股関節内転筋

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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