上腕骨近位端骨折の概要

上腕骨近位端は『上腕骨頭〜外科頚』までを指します。
高齢者の転倒で生じやすく、骨転位が小さい症例は保存療法で良好な予後が得られる一方、転位が大きい・多部位の骨折では手術(髄内釘/プレート/人工骨頭)を検討します。
本稿ではNeer分類の要点と保存療法を基準とした時期別リハを中心に、装具・生活指導までまとめます。
疫学・受傷機転
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全骨折の約5%。60歳以上・女性に多い(骨粗鬆症)。
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受傷機転:転倒(肩を直接打つ/手をついて上肢伸展位)。
骨転位の定義と Neer分類

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骨転位:骨片間**>1 cm**の転位 or **>45°**の角状変形。
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Neer分類(4セグメント):①骨頭 ②大結節 ③小結節 ④骨幹
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1-part:いずれのセグメントも転位基準を満たさない。保存が基本/予後良好。
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2-part:1セグメントが転位(例:外科頚 or 大結節など)。
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3-part:2セグメントが転位(例:外科頚+大結節)。
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4-part:3セグメントが骨頭から転位。骨頭壊死リスク高。
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画像診断
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単純X線で多くは診断可能。
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推奨:True AP(Grashey)/肩甲Y/腋窩(可能なら)。
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CT:転位の評価・術前プランに有用。

治療選択(概略)
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保存療法:1-part中心。早期から安全域内での可動域を導入。
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骨接合術:2–3-partで転位が大きい/機能要求が高い場合にプレート固定・髄内釘など。
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人工骨頭置換:4-partや粉砕で整復不良/骨頭壊死ハイリスク。術後は外転装具で挙上困難を予防

時期別リハビリ(保存療法を基準)
※実際は骨折型・固定性・医師指示で調整。術後も進行の考え方は近似。
① 装具固定期(0–4週)
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固定:三角巾/バストバンド/ポジショニング。
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疼痛・腫脹管理:必要に応じてTENS/超音波(非骨折部への温熱は慎重)。
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患部外トレ:手指・手関節・肘関節の自動運動、握力維持。末梢循環の促進。
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肩のROM:
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肩甲骨の他動モビリティ(スキャプラ・クロック)0w–
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コッドマン体操 1w–(小振幅・痛みなし範囲)
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他動屈曲/外転〜90° 2w–(痛みとX線所見で調整)
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生活指導:寝返り・起き上がりのコツ、入浴・着替え動作。
② 装具除去期(5–8週)
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自動介助運動(AAROM):タオル拭き(Wiping ex) 5w–、滑車・杖補助。
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等尺性:棘上筋/棘下筋/肩甲下筋/大円筋を軽負荷で。
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肩甲帯:前傾・後傾、上方回旋のコントロール。
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可動域拡大:7w–で全可動域の自動運動へ移行(痛みが翌日に残らない強度)。

③ 抵抗運動期(8週以降)
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骨癒合を確認後、最終域ストレッチ・関節包モビライゼーション。
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筋力:チューブや軽負荷ダンベルで回旋筋腱板+三角筋→日常機能課題(腕上げ・持ち上げ)。
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動作再学習:肩甲上腕リズム、姿勢(胸椎伸展)、患側の使用量を段階UP。
進行基準(例)
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安静時痛 NRS ≤2/夜間痛の軽減。
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X線で骨癒合進行。
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可動域が前週より増加し翌日増悪なし。
装具とポジショニングのコツ
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三角巾:
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左右肩峰の高さを揃える
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肘屈曲90°以上
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前腕は回外位
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肘の引き込み防止(体幹に近すぎない)
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背臥位:上腕骨の下にタオル/クッションを入れ、上腕全体を支持→たわみ力と疼痛を軽減。

注意する筋と可動域
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早期は外転・外旋の過負荷で大結節牽引/インピンジメントに注意。
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大胸筋・大円筋・小円筋は短縮しやすい→軽圧リラクセーション併用。
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腋窩神経(外科頚骨折で注意)しびれ・三角筋萎縮の有無をチェック。
代表的合併症
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骨頭壊死(AVN)(高位分類・脱臼合併など)
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偽関節、肩関節硬縮(凍結肩)、肩峰下インピンジメント
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上腕二頭筋長頭腱炎、腋窩神経ニューロパチー など
よくある質問(FAQ)
Q. どのくらいで腕を上げられますか?
A. 骨折型と固定性で異なります。保存例の目安は2週頃から他動90°、5–7週で自動運動、8週以降で抵抗運動。翌日の痛みと画像所見で段階調整します。
Q. 夜間痛が強いです。
A. 背臥位で肩下クッション/抱き枕で軽い外転・前方挙上位/就寝前の温冷併用(炎症期は冷、亜急性以降は温)。疼痛増悪なら主治医へ。
Q. 家で注意する動作は?
A. 急な挙上・外旋の勢いは避け、荷重物の持ち上げは医師の許可まで控える。座位・立位でも三角巾位置をこまめに整えましょう。
最終更新:2025-10-15