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上腕骨近位端骨折のリハビリ治療


上腕骨近位端骨折のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

上腕骨近位端骨折の概要

上腕骨は上肢最大の長骨で、近位端は肩甲骨と肩甲上腕関節(肩関節)を、遠位端は尺骨と腕尺関節、橈骨と腕橈関節を構成します。

近位端とは身体の中心に近い部分のことで、上腕骨の場合は上腕骨頭から外科頸付近までを指します。

骨頭付近には解剖頸と外科頸があり、解剖頸は関節包が付着する部分、外科頸は大結節と小結節の下方で折れやすい部分(外科の対象となりやすい)です。

上腕骨後面|各部位の名称

上腕骨近位端骨折は、全身の骨折の中で約5%に相当し、そのうち87%は転倒で直接肩を強打した場合、上肢を伸展した状態で手を付いた場合に発生しています。

受傷者の七割以上は60歳以上の骨粗鬆症を伴う高齢者で、男女比は1:3で女性に好発します。

骨折の分類では、骨転位のない1-part骨折が多く、上腕骨近位端骨折の中で49-85%を占めています。

上腕骨近位端骨折の多くは骨転位が少なく、保存的治療によって骨癒合が得 られやすく、予後は良好とされています。

“【骨転位とは?】骨片間に1㎝以上の転位もしくは45度以上の角状変形を示すもの。骨片転位が1つなら2-parts骨折、2つなら3-parts骨折と呼ぶ。
上腕骨近位端骨折2

※青色:骨頭、赤色:小転子、黄色:大転子、緑色:外科頚

骨折の重症度分類(Neer分類)

上腕骨近位端骨折の重症度分類では、Neer分類が世界で最も多用されています。

方法として、上腕骨を①骨頭、②大結節、③小結節、④骨幹の4 つの部位に分け、それぞれの転位の有無と組み合わせで分類していきます。

特徴として、骨頭への血流の予後に影響を与える因子を判定するのに優れているとされています。

 1-part  2-part  3-part  4-part
Neer分類,1part Neer分類,2part Neer分類,3part Neer分類,4part
Neer分類,上腕骨,骨頭,大結節,小結節,骨幹,2part Neer分類,上腕骨,骨頭,大結節,小結節,骨幹,3part Neer分類,上腕骨,骨頭,大結節,小結節,骨幹,4part,粉砕骨折
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<1-part骨折の場合>
保存的療法が選択されることが多い
予後は良好
<2-parts/3-parts骨折の場合>
プレート固定術や髄内釘固定術が選択される場合が多い
骨転移があるので血行障害、骨頭壊死、偽関節、肩関節機能障害を合併する危険性がある
骨転位があっても保存療法を行う場合は多く、結果的に疼痛もなく健側の90%の可動域を獲得できる症例も多い
Neer分類では、小結節が骨折していると4-parts骨折に分類され、骨頭壊死の可能性が高いとされる
<4-parts骨折の場合>
骨頭が粉砕状で整復が困難
人工骨頭置換術が選択される場合が多い
術後の挙上困難を予防するために外転装具の使用が推奨される

検査方法

画像診断

単純X線写真のみで確定診断が可能となります。場合によっては、骨折の転位程度の評価が重要になるため、CT検査などで精査することもあります。

単独箇所骨折 (大結節骨折)  複数箇所骨折(外科頸+その他の部位)
画像診断,単独骨折,大結節骨折 画像診断,レントゲン,単純X線写真,複雑骨折

引用画像(1)

徒手的評価

  1. 疼痛評価(VAS/NRS)
  2. 感覚検査(末梢神経損傷の合併の有無)
  3. ROMテスト
  4. 指椎間距離の測定(母指と第7頸椎棘突起間の距離)
  5. MMT(肩関節に負担のかかる部位以外)、握力

手術療法

手術の適応については、Neer分類や合併損傷の程度などで決定されます。

手術方法は、鋼線を用いる簡易なものから、髄内釘やプレートを用いた固定法、人工骨頭置換術が選択される場合もあります。

プレート固定法 髄内釘固定法  人工骨頭置換術 
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引用画像(1)

時期別のリハビリテーション

治療法の選択(保存療法,骨接合術,人工骨頭置換術)によって、リハビリの開始時期に多少の違いはみられます。

しかし、治療プログラムの内容については大差がありませんので、その基準となる保存療法における時期別の訓練プログラムを以下に記載します。

1.装具固定期(受傷又は術後から約4週間)
安静固定 三角巾、バストバンド、ポジショニング
物理療法 超音波療法、TENS
筋力強化 患部外トレーニング
関節運動 肩甲骨の他動ROMex(0w-)、コッドマン体操(1w-)、肩屈曲・外転90度までの他動運動(2w-)
2.装具除去期(約5-8週間)
物理療法 超音波療法
筋力強化 骨折部周囲の低負荷運動(肩甲骨周囲筋、肩甲骨前後傾ex、回旋筋腱板の等尺性運動)
関節運動 Wiping ex(5w-)、肩関節の自動介助運動(5w-)、全可動域の自動運動(7w-)
3.抵抗運動期(8週間以降)
筋力強化 骨折部周囲の負荷運動
関節運動 最終域でのストレッチ・モビライゼーション

患部固定

骨癒合には、①骨折部の接合、②固定、③血流、④適度な圧迫刺激といった癒合の四条件が必要となります。

骨折部を接合して患部を固定させるためには、三角巾やバストバンドを使用して上腕骨の動きを制限する場合が多いです。

三角巾を装着する場合のポイントとして、以下の四つを意識すると良肢位に保持することができます。

  1. 左右の肩峰の高さを一致させる
  2. 肘関節屈曲は90度以上確保する
  3. 前腕は回外位に保持する
  4. 肘関節の引き込みがないように位置させる

座位や立位では三角巾などを利用してポジショニングを行いますが、背臥位の場合はタオルやクッションを利用して良肢位を保持します。

ポイントとして、上腕骨全体を支持するように調節することで、上腕骨にたわむ力が生じなくなり、疼痛や転位のリスクを下げることができます。

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物理療法

電気刺激療法(TENS)や超音波療法は骨形成を促進させる効果が期待されるため、使用が可能な場合は実施しても良いかと思われます。

TENSを仮骨形成の前段階である炎症期(受傷早期)より実施することで、痛みや骨形成に対して比較的良好な結果が得られることが報告されています。

電極は骨折部位を挟み込むように配置し、筋収縮の伴わない感覚閾値前後で実施します。頻度は1日2回、毎回30分、3日間続けます。

超音波療法は非温熱効果を利用するため、基本的に1MHzで骨折部に対して照射するようにします。

治療効果として、修復期の仮骨形成を促進する効果が期待できるため、形成が完了する約7週まで実施します。頻度は1日1回、毎回20分です。

筋力強化

筋力トレーニングに関しては、いくつかの段階があるのですが、第一段階(0-4週間)は患部に負担のかからない筋肉(患部外)の収縮運動を実施します。

廃用予防といった意味合いもあるのですが、どちらかというと固定されて血流が落ちている患部に向けて、周囲筋が収縮することで血流量を上げることが目的です。

血流量が上がることで骨癒合は促進されます。とくに末梢部は循環不全で浮腫などを起こす可能性もあるので、自主練習として指先などは動かすように指示します。

第二段階(5-8週間)は患部周囲の筋収縮を促していきますが、骨折部を離開する方向に働く筋肉の収縮はまだ控えます。

周囲筋の中でも離開に働く影響が少ない筋肉を中心に運動します。この時は萎縮が進行しているはずなので、廃用予防といった意味合いも増してきます。

第三段階(8週以降)は骨癒合がある程度に完了していますので、骨折部を離開する方向に働く筋肉に対しても収縮運動を行っていきます。

8週間ほど収縮しないように調整しているはずなので、筋萎縮はかなり進んでいるかと思います。なので、低負荷の運動から筋力改善を目指していきます。

以下に、上腕骨近位端に起始や停止を持つ筋肉について掲載しますので、骨折部の場所と見合わせて参考にしてみてください。

上腕骨近位部に起始がある筋肉

筋肉 起始部
上腕三頭筋外側頭 上腕骨後面(橈骨神経溝より外側)
上腕三頭筋内側頭 上腕骨後面(橈骨神経溝より内側)

※上腕三頭筋は起始の一部を上腕骨に持つ

上腕骨近位部に停止がある筋肉

筋肉 停止部
三角筋 三角筋粗面
大胸筋 大結節稜
広背筋 小結節稜
大円筋 小結節稜
小円筋 大結節下部、肩関節包
棘上筋 大結節上部、肩関節包
棘下筋 大結節中部、肩関節包
肩甲下筋 小結節・小結節稜の上部

関節可動域運動

安静臥床によって関節可動域制限が起こりやすい方向は決まっていて、肩関節の場合は外転・屈曲・外旋といった方向が制限されやすくなります。

また、制限に伴って大胸筋や大円筋、小円筋といった筋肉が短縮しやすい傾向にあります。

そのため、術後は炎症が悪化しないようにコントロールしながら、これらの関節可動域に制限が起きないようにアプローチしていきます。

とくに大胸筋などの緊張は骨折部を離開する方向に働く場合もあるため、軽い圧迫刺激などを加えて十分にリラクセーションを図っておきます。

骨癒合が完了後(8週以降)は、骨折部に負担をかけられるため、関節可動域の最終域でのストレッチングが実施できるようになります。

この時期は安静に伴って関節包が拘縮しており、関節包の拘縮はとくに関節可動域の最終域を制限しています。

そのため、最終域にてストレッチングやモビライゼーションを実施して関節包の伸張性を高めたり、癒着剥離を行い、最終域の獲得を目指します。

コッドマン体操について

直立姿勢から肩関節周囲筋群の緊張を軽減させた状態で体幹を前屈し、前かがみの姿勢から下垂している上肢を振り子のように揺らす運動です。

これは1934年にcodmanが発表した運動理論で、重力を利用することで肩関節を屈曲させ、周囲の筋スパズム除去と支持組織の伸張性拡大が図れます。

別名で「stooping ex」や「振り子運動」と呼ばれることも多いです。

骨癒合が完成しないうちは患部を離開させてしまう恐れがあるため、実施する際には十分な注意が必要となります。

早期に行う場合は重りは使用せず、三角巾は付けたままに実施します。

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Wiping ex について

Wipingとは、ハンカチなどで「拭く」という意味の「wipe」の現在進行形になります。

リハビリにおいては、机などにタオルを置いて拭く動作を指す場合が多く、「雑巾がけ」などと呼ばれています。

この運動は、反対側の上肢からの誘導が可能であり、筋収縮をあまり使用しないため、離開の危険性も少なく肩関節の運動を実施できます。

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回旋筋腱板のトレーニング

回旋筋腱板(棘上筋,棘下筋,小円筋,肩甲下筋)の筋力強化を行う場合、代表的なのはセラバンドを用いた方法です。

セラバンドがなくても反対側の上肢にて抵抗をかけることにより、筋力トレーニングは可能です。強い負荷はアウターマッスルが収縮してしまうため、ごく軽度の負荷(2-3㎏)で実施します。

肩関節外旋では主に棘下筋と小円筋が、肩関節内旋では肩甲下筋が働きます。

筋付着部である上腕骨の大結節や小結節に剥離骨折がある場合は、収縮時痛を起こすことがあるので、その場合は骨癒合が不十分として禁忌とします。

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在はフリーランスとして活動しています。詳細はコチラ
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