回外筋(supinator)

回外筋の概要

回外筋の起始・停止:上腕骨外側上顆・尺骨近位部から起こり、橈骨近位外側面へ停止する走行図

回外筋は前腕背側上部の中央に位置する扁平な筋で、2層(浅葉と深層)に分かれており、その2層の間を橈骨神経深枝が通過しています 。前腕後外側の深層に位置し、表層は総指伸筋・短橈側手根伸筋・尺側手根伸筋などに覆われています 。 主作用は**前腕の回外(前腕を外向きにひねる動き)**で、橈骨に巻き付くように停止しているため、収縮により橈骨を回転させます 。また、回外運動時には橈骨輪状靱帯の緊張を高め、外側側副靱帯などとともに肘関節外側の支持性・安定性を高める重要な働きも持ちます 。


基本データ

項目 内容
支配神経 橈骨神経(C5–C6)
起始 上腕骨外側上顆、尺骨回外筋稜、外側側副靱帯、橈骨輪状靱帯
停止 橈骨近位1/3の橈側・掌側面、橈骨粗面と円回内筋付着部(回内筋粗面)の間の橈骨斜線
栄養血管 橈骨反回動脈、後骨間動脈(反回枝)
主な動作 肘関節の伸展を伴う前腕の回外
筋体積 34 ㎤
筋線維長 6.0 ㎝

触診方法(手順とコツ)

  • 肢位:手根・手指を中間位でリラックスさせた状態にします。回外筋固有の筋力を評価・触知したい場合は、**肘関節を最大屈曲(完全屈曲)**させます。これにより強力な回外筋である上腕二頭筋の筋長が緩み、働きが排除されるため、ほぼ回外筋単独の収縮を捉えることができます
  • ランドマークと手技:前腕を回外させながら、橈骨頭の尺側から尺骨(回外筋稜)の間で筋の収縮を触知します
  • コツ:前腕の回外運動に対して軽く抵抗をかけると、筋の収縮をより触知しやすくなります。表層の伸筋群が硬くなると誤認しやすいため、手指の伸展はリラックスさせます。

臨床的アプローチ(前腕回内制限の改善・リラクセーション)

前腕の「回内」の可動域が制限されている場合、回外筋の攣縮(痙縮)が原因となっていることが多く、橈骨輪状靱帯の緊張を高めて可動域を制限します。

  • 方法:患者の肘関節を「完全に屈曲した肢位」とし、上腕二頭筋の参加を排除します。その上で、自動介助運動によって回外運動を反復させ(シナプス反回抑制を利用)、最終域で回外筋の収縮を引き出させます。これにより回外筋が十分に弛緩し、その後の橈骨輪状靱帯のストレッチングや回内運動がスムーズになります

筋力トレーニング

  • 設定:座位で前腕を台上などに置き、肘関節を深く屈曲させます(上腕二頭筋の代償を防ぐため)
  • 動作:ダンベルやハンマーなどを軽量から把持し、回内位からゆっくり回外(2–3秒)→1秒保持→ゆっくり戻す。10–12回 × 2–3セット。
  • フォーム:肩関節の内旋や手関節の過緊張などの代償を抑え、回外そのものを狙います。疼痛があれば中止します。

トリガーポイント(TP)

  • 主訴・関連痛:肘外側のすぐ下(遠位)にトリガーポイントが形成されやすく、そこから手首や手背(特に母指と示指の間の水かき部分)にかけて広範囲に痛みや疼きを送ります
  • 誘因:反復する前腕回外作業(ドライバー、ドアノブ回し、ラケット操作)や、手首を酷使する作業によりストレスがかかります。

回外筋症候群(=後骨間神経障害)

  • 病態:回外筋の2層の間(Frohseのアーケード)を貫通する橈骨神経深枝(後骨間神経)が、回外筋によって絞扼されることで生じます
  • 所見:後骨間神経は純粋な運動神経であるため、感覚障害(しびれ)は伴わず、手指の伸展が困難になる(下垂指のようなMP関節の伸展制限)運動麻痺が生じます
  • 鑑別:外側上顆炎は上腕骨外側上顆の起始部に痛みが生じますが、回外筋症候群では外側上顆より遠位の回外筋部に圧痛があり、神経麻痺症状の有無が鑑別のポイントとなります

臨床での使い分け(回外の分担)

  • 肘屈曲90°・高負荷の回外:上腕二頭筋が強力な主動作筋として働きます
  • 肘完全屈曲位、または肘伸展位:上腕二頭筋の張力が低下するため、回外筋が主役として働きます。リハビリでは肘の屈曲角度を操作することで、ターゲットとする筋肉をチューニングします。

よくある質問(Q&A)

Q. 回外筋の痛みはどんな場面で出やすい?
A. ドライバー操作やドアノブ回し、テニスやバドミントンなどのラケットスポーツで、前腕を強く外側にひねる動作の反復で起こりやすいです。

Q. 外側上顆炎(テニス肘)との見分け方は?
A. 最大圧痛点が外側上顆そのものにある場合は外側上顆炎、そこから数cm手首側に下がった筋肉の膨らみ(回外筋部)に痛みがある場合は回外筋の過緊張や絞扼を疑います。指が伸ばしにくくなる症状があれば回外筋症候群(後骨間神経麻痺)の可能性が高くなります 。

Q. 上腕二頭筋の影響を抑えて回外筋だけをアプローチするには?
A. **「肘関節を最大まで曲げる(完全屈曲位)」**のが最大のコツです 。肘を曲げきることで上腕二頭筋がたわんで力が入りにくくなり、回外筋単独の動きを引き出したり、触診したりすることが容易になります 。


最終更新:2026-07-28