回外筋(supinator)

回外筋の概要

回外筋の起始・停止:上腕骨外側上顆・尺骨近位部から起こり、橈骨近位外側面へ停止する走行図
回外筋は前腕後外側の深層に位置し、表層は総指伸筋・短橈側手根伸筋・尺側手根伸筋などで覆われます。
主作用は**前腕の回外(前腕を外向きにひねる動き)**で、肘関節の伸展には直接寄与しません。肘屈曲位では上腕二頭筋が強力な回外筋となるのに対し、肘伸展位・低負荷域では回外筋が優位に働きます。回外時には橈骨輪状靱帯や外側側副靱帯複合体の張力が高まり、外側安定性にも有利に作用します。

基本データ

項目 内容
支配神経 橈骨神経
髄節 C5–C6(C6優位、)※まれにC7関与の報告
起始 ① 上腕骨外側上顆
尺骨回外筋稜
橈側側副靱帯・橈骨輪状靱帯
停止 橈骨近位1/3の外側・前面・後面(周巻状に付着)
栄養血管 橈骨反回動脈、後骨間動脈(反回枝)
主な動作 前腕回外(肘位や負荷により上腕二頭筋と役割分担)
筋体積 34 ㎤
筋線維長 6.0 ㎝

触診方法(手順とコツ)

  • 肢位:肘90°屈曲、前腕中間位→回外抵抗。肩は軽度屈曲で上腕二頭筋の関与をやや減らす。

  • ランドマーク橈骨頭の直遠位・外側腕橈骨筋の後縁の深部に意識を向ける。

  • 手技:橈骨頭外側部を軽くピンチし、回外に軽い抵抗をかけると、深層で索状の硬化を触知しやすい。

  • 鑑別:表層のECRB/EDCが硬くなると誤認しやすい。手関節の背屈テンションを最小限に保ち、回外そのもので硬化を確認。

ストレッチ方法

  • 伸展位(0–20°)で上腕二頭筋を短縮させ、二頭筋の影響を減らす

  • 前腕回内方向へゆっくり誘導

  • 軽度屈曲で代償抑制

  • 時間15–30秒 × 2–3セット(痛み0–2/10の範囲)

筋力トレーニング

  • 設定:座位で前腕を台上、肘90°

  • 動作:ダンベルやハンマーを軽量から把持し、回内→ゆっくり回外(2–3秒)→1秒保持→戻す10–12回 × 2–3セット

  • フォーム:肩内旋代償・手関節過緊張を抑え、回外そのものを狙う。疼痛があれば中止。

トリガーポイント(TP)

  • 主訴前腕近位背外側の深い痛み〜母指側手背への放散(ときにPIN様のしびれ・握力低下)

  • 誘因反復する前腕回外+手関節背屈抵抗作業(ドライバー・ドアノブ回し・ラケット・キーボード/マウス)や長時間の回外位・前腕の圧迫

よくある病態と鑑別

回外筋症候群(=後骨間神経障害)

  • 病態後骨間神経が**回外筋の入口(Frohseのアーケード)**などで絞扼。

  • 誘因:回外+把持の反復、長時間の前腕回外位作業、工具使用。

  • 所見伸筋群の筋力低下(MCP伸展や母指伸展)感覚障害は乏しい(後骨間神経は運動枝)。

  • 誘発抵抗回外テスト中指伸展テストで痛み/脱力。

  • 鑑別

    • 外側上顆炎:最大圧痛は外側上顆近傍

    • 回外筋症候群:最大圧痛は外側上顆から遠位3–5cm(橈骨頭遠位〜回外筋部)。

  • 介入:負荷調整、正中位〜軽回内での作業設計後骨間神経グライド、前腕伸筋群の過緊張緩和、段階的な回外筋強化。難治例はブロック注射や手術的減圧を検討。


臨床での使い分け(回外の分担)

  • 肘屈曲位・高負荷・素早い回外上腕二頭筋が主役

  • 肘伸展位・低〜中負荷・持続回外回外筋が主役
    → リハやトレーニングでは、肘位と負荷速度で狙いの筋をチューニング。


よくある質問(Q&A)

Q1. 回外筋の痛みはどんな場面で出やすい?
A. ドアノブやペットボトル、ドライバー操作、ラケット・道着の回外+把持の反復で起こりやすいです。

Q2. 外側上顆炎との簡便な見分け方は?
A. 最大圧痛点が上顆直上なら外側上顆炎上顆から3–5cm遠位の橈骨頭周囲なら回外筋/ラジアルトンネルを疑います。抵抗回外での増悪も参考に。

Q3. 上腕二頭筋の影響を抑えて回外筋を鍛えるには?
A. 肘をやや伸展し、軽量負荷でゆっくり回外。肩内旋の代償を抑え、手首は中間位を保つと回外筋に入りやすいです。

Q4. ストレッチで痺れが出るときは?
A. 神経牽引の可能性があるため中止し、神経スライダーなど軽刺激に変更。持続的なしびれ・筋力低下は医療機関へ。


最終更新:2025-10-11