多発性筋炎/皮膚筋炎の概要
多発性筋炎(polymyositis:PM)皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)は、自身の免疫異常により、本来外敵を排除するための免疫系が自らの細胞や組織を誤って攻撃してしまい、筋肉に炎症が起きている病態を指します 。
本疾患では主に体幹や四肢の近位筋(肩周囲や股関節周囲など)に対称性の筋力低下と筋痛、易疲労性が生じ、皮疹を伴う場合は皮膚筋炎と診断されます。
- 疫学: 男女比は1:3で女性に多く、中年期に発症のピークがあります。国内の患者数は約1.7万人と報告されています。
- 予後規定因子: 合併症としての間質性肺炎(ILD)悪性腫瘍の合併リスクが高いため、年齢に応じた全身のスクリーニングが必要です。
病態と主な症状
- 免疫学的特徴:
- PM: 主にCD8+ T細胞が筋線維内へ浸潤し、筋線維を直接傷害します。
- DM: 主にCD4+ T細胞や補体が関与する血管周囲の炎症であり、微小血管障害を介して間接的に筋線維が傷害されます。
- 筋症状: 立ち上がり、階段昇降、洗髪といった近位筋の筋力低下が目立ちます。血液検査ではCK(クレアチンキナーゼ)、LDH、ALDなどの筋原性酵素の著明な上昇が認められます 。
- 皮膚症状(DM): まぶたの紫紅斑(ヘリオトロープ疹)、指関節伸側の紅斑(ゴットロン徴候)、前胸部のVサインなどが特徴的です。
- 合併症:
- 間質性肺炎(ILD): 肺胞壁の肥厚や線維化によりガス交換が障害され、乾性咳嗽や労作時の息切れが生じます 。
- 心病変: 心筋炎や不整脈に注意が必要です。
診断と治療の柱
- 診断基準: 厚生労働省(1992年)やBohan & Peterの基準に基づき、皮膚症状、近位筋力低下、筋酵素上昇、筋電図、筋生検、自己抗体(抗Jo-1抗体など)を総合して判定します 。
- 薬物療法: 副腎皮質ステロイドが第一選択となります。重症例ではステロイドパルス療法や免疫抑制薬(タクロリムス、メトトレキサートなど)を併用します。
- 注意点(ステロイド筋症): ステロイドの長期・大量投与により、二次的な**ステロイド筋症(steroid myopathy)**を来すことがあります。これはCK値が正常範囲内であっても、下肢近位筋を中心にさらなる筋力低下や筋萎縮(特にタイプII線維の萎縮)が進行するのが特徴です 。
リハビリテーションの実践指針
原則は**「低負荷・短時間・高頻度」**であり、炎症の指標であるCK値や自覚症状のモニタリングが不可欠です。
- 筋力強化運動:
- CK値が基準値付近で安定してから開始します。
- **遠心性収縮(筋肉が伸びながら力を出す動作)**は筋線維への機械的ストレスが強く、微細損傷やCK上昇を招きやすいため避けるべきです 。等尺性または求心性収縮を中心に構成します。
- 強度目安はRPE 11–13(やや楽〜ややきつい)とし、翌日に疲労を残さない範囲で行います。
- 持久力トレーニング:
- ウォーキングや自転車エルゴなどを低負荷で実施します。ILD合併例では**SpO₂(経皮的酸素飽和度)**を監視し、90%未満にならないよう酸素投与や負荷調整を行います 。
- 関節可動域(ROM)運動と拘縮予防:
- 急性期は炎症悪化を避けるため愛護的に行います。長期安静例では尖足予防のために足底板の活用も検討されます。
- 呼吸リハビリテーション: ILD合併例に対し、胸郭可動域運動や腹式呼吸の指導を行い、呼吸効率の向上を図ります 。
- 生活指導(エネルギー節約術:EC): 作業を細分化し、休憩を計画的に挟むことで、限られた筋エネルギーを効率的に使用するよう指導します。
よくある質問(Q&A)
Q: 運動を中止すべきサインは?
A: 強い筋痛、急激な脱力感、CK値の再上昇、SpO₂の低下や息切れの増悪、動悸・胸部不快感がある場合は直ちに中止し、医師に報告してください 。
Q: どの自己抗体に注意が必要?
A: 抗Jo-1抗体はILDや関節炎の合併、抗MDA5抗体は急速進行性ILDのリスク、抗TIF1-γ抗体は悪性腫瘍の合併に関連が深いとされています。
Q: 入浴の際の注意は?
A: 高温・長時間の入浴は疲労を増大させます。ぬるめのお湯で短時間を心がけてください。
最終更新:2026-05-22