ここでは姿勢分析や姿勢矯正をしていく際に、是非とも覚えておきたいポイントをわかりやすく解説していきます。
この記事の目次はコチラ
- 1 安定した姿勢とはなにか
- 2 支持基底面と重心線の解説
- 3 運動連鎖について解説
- 4 矢状面から見た運動連鎖
- 5 前額面から見た運動連鎖
- 6 水平面から見た運動連鎖
- 7 運動連鎖で重心を調整できなかった場合
- 8 重心をどのようにして調節していくか
- 9 姿勢矯正についての考察
- 10 ヒトの重心線について理解する
- 11 正しい姿勢に戻すことは善か
- 12 姿勢矯正は可否について解説
- 13 矯正しにくい姿勢と矯正しやすい姿勢
- 14 慢性的な姿勢不良を起こしている原因
- 15 姿勢矯正のための3ステップ
- 16 姿勢の崩れを生む原因と対策
- 17 急性的な変化と慢性的な変化
- 18 変化量の大きさと矯正が成功する割合
- 19 その痛みは姿勢不良が原因か
- 20 姿勢を最適化する上で考慮すべきこと
安定した姿勢とはなにか
まずは最初に知っておいてほしいこととして、姿勢を矯正する理由は、「安定した姿勢」を手に入れるためです。
物体が安定するためには二つの条件が必要であり、ひとつは支持基底面が広いこと、そしてもうひとつが重心の高さが低いことです。
これを簡単に理解するために、まずは下の図を見てください。
青色(左)の物体と赤色(右)の物体がありますが、風が吹いたときにどちらが倒れそうかと質問したら、きっと赤色が倒れやすいと答えるはずです。
このようにヒトは無意識のうちにどのような姿勢が安定するかを知っており、日常の中で使い分けているといえます。
倒れにくい理由を物理学で説明するなら、支持基底面の広さと重心の高さで説明できるわけです。
実際には、さらに質量(重力)や摩擦係数の問題も関与していきますが、このあたりは後々に説明していきたいと思います。
支持基底面と重心線の解説
具体的に支持基底面を説明すると、接地している部位の間の面積を指します。
例えば、ヒトが床に立っている状態(立位)のときは、接地している右足裏から左足裏までが支持基底面になります。
次に重心ですが、簡単に書くと身体の質量の中心という意味です。
同じような形状をしていても、下部のほうが重い物体は倒れにくく、上部のほうが重い物体は倒れやすい状態にあります。
例えばですが、空のペットボトルと水の入ったペットボトルがあったとして、どちらが倒れやすいかと考えたらわかりやすいです。
当然ながら水が入ったペットボトルのほうが倒れにくく、その要素のひとつが重心の高さが低くなるからです。
次に重要なのは重心線という概念なのですが、こちらは重心から地面に対して垂直に下ろした線のことを指します。
身体が最も安定する姿勢というのは、重心の高さや支持基底面の広さに加えて、重心線が支持基底面のど真ん中にきている状態です。
なぜなら、重心線が中央に位置している場合、どの方向から外力を受けたとしても、重心が支持基底面から外れることが少ないからです。
この距離が非常に重要で、例えば左側に押されるような外力に耐えたいと考えているのなら、重心を右側に置いておくといいのです。
そうすることで支持基底面を広くとれますので、より安定することができます。
重心が支持基底面から外れた場合、外れた方向に倒れることになり、私たちは立つことができなくなります。
なので、安定するためには面をなるべく広くとり、重心を中心に置くことが大切です。
運動連鎖について解説
ここからはやや専門的な内容になりますが、なるべく一般の方にもわかりやすく解説していきます。
運動連鎖というのは、どこかひとつの関節が動いたら、それに連れて他の関節も動いていく状態をいいます。
連鎖には一定のパターンが存在するため、その流れを覚えておくだけで簡単に理解することが可能です。
それでは、まずはなぜ運動連鎖が起こるかについてですが、その問いに簡潔に答えるなら身体を安定させるためといえます。
身体が安定している状態とは、重心線が中央に位置している状態です。
重心線が中央にあると筋肉の無駄な収縮を必要としないため、疲労感が少ない姿勢となります。
また、筋肉に無駄な力が入っていなければ、急激な外力に対して即時に反応でき、柔軟に重心を移動させることができます。
スポーツ選手の身体がやわらかいのも、そのほうが大きな動きでも重心を安定させることができ、高いパフォーマンスを発揮できるからです。
姿勢を評価する際には、①前額面(前)、②矢状面(横)、③水平面(上)から考えることが基本ですが、運動連鎖の評価も同じです。
どの面からもそれぞれに特徴的な運動連鎖が存在するため、まずは基本について理解しておくことが重要です。
重心線がどのように移動し、周囲の関節がどのように動いたら相殺できるかを考えるだけなので、理解することはさほど難しくはありません。
矢状面から見た運動連鎖
上図は、矢状面から見た一般的な運動連鎖になります。
運動連鎖を簡単に書くと、足関節が背屈すると重心が前方に移動するので、膝関節が屈曲して重心を戻します。
膝関節が屈曲すると股関節が連動して屈曲するので、それに連動して骨盤が後傾していきます。
骨盤が後傾すると腰椎が屈曲するので脊椎が後弯し、脊椎が後弯すると重心が前方に移動するので、頭部が過伸展します。
これらの一連の流れはどこから起きても上下に波及していきますので、運動が連鎖するといった表現をなされます。
しかし実際は、健常者なら足関節が背屈になったからといって上行性に波及し、綺麗に頭部まで運動が連鎖するということはありません。
背屈角度がそれほど大きくない場合は体幹を伸展させて重心を戻すでしょうし、背屈角度が大きくても膝関節と股関節のみで対応します。
それが頭部まで波及するということは、運動連鎖を起こす主要部位に制限や筋力低下があり、調節が難しくなっていることが予測されます。
高齢者の場合は腰が曲がってしまい、体幹の伸展が引き出せないがために足部や膝部の問題が頭部まで波及することも非常に多いです。
矢状面においては、重心を前方に移動させる筋肉と後方に移動させる筋肉がありますので、以下の表にまとめてみました。
基本的には身体前面に位置する筋肉が重心を前方に移動させますが、股関節のみは後方の大殿筋が前方移動に貢献します。
部位 | 前方 | 後方 |
足関節 | 前脛骨筋 | ヒラメ筋 |
膝関節 | 大腿四頭筋 | ハムストリング |
股関節 | 大殿筋 | 腸腰筋 |
脊椎 | 腹直筋 | 脊柱起立筋 |
頸部 | 頸部屈筋群 | 頸部伸筋群 |
前額面から見た運動連鎖
上図は、前額面から見た一般的な運動連鎖になります。
運動連鎖を簡単に書くと、足関節が内反すると重心が外側に移動するので、膝関節が内反して重心を戻します。
膝関節が内反すると股関節が外転し、機能的脚長差が生じるので内反側に骨盤の傾斜が起こります。
骨盤が傾斜すると下位脊椎が側屈し、さらにそれを戻すために上位脊椎が反対側に側屈します。
上位脊椎が傾くと頭部の位置が正中位からずれてしまうため、頭部は上位脊椎とは反対側に側屈させて正中位を保持します。
極端な例ではありますが、このような機序をたどりながら、各部位で重心を調整しているケースもありえるということです。
実際には、足関節や膝関節の内反で機能的脚長差が生じても、骨盤の傾斜ではなく、反対側の下肢を屈曲させて調節したりします。
そのため、足関節の内反が頭部の位置まで連鎖的に波及するということ稀で、より下位にて調整し終えている場合が多いです。
前額面では、重心を左右に移動させる筋肉がありますので、そちらを以下の表にまとめてみました。
左側の筋肉が収縮した場合に、左右のどちらに重心が移動するのかを視点にしています。少し紛らわしいかもしれませんがご了承ください。
部位 | 左側 | 右側 |
足関節 | 後脛骨筋 | 腓骨筋 |
膝関節 | 鵞足 | 大腿筋膜張筋 |
股関節 | 内転筋群 | 中殿筋 |
脊椎 | 左脊柱起立筋 | 右脊柱起立筋 |
膝関節は屈曲伸展の動きしかないので、厳密には重心移動をさせる筋肉ではありませんが、内反や外反といった動揺がある場合の制動に働きます。
鵞足は薄筋、縫工筋、半腱様筋、半膜様筋(文献によっては含める)の総称で、膝関節外反の際は矯正方向に作用します。
水平面から見た運動連鎖
上図は、前額面から見た一般的な運動連鎖になります。
運動連鎖を簡単に書くと、足関節が内反した場合ですが、この内反という動きは足関節の底屈と内転の複合運動になります。
足関節が内転すると下腿は連動して内旋し、その動きを相殺するようにして大腿骨は外旋します。
大腿骨の外旋で相殺しきれなかった場合は骨盤が前方回旋し、それに連動して腰椎も回旋していきます。
下位脊椎の回旋を相殺するようにして、上位脊椎は反対側に回旋が生じ、脊椎には捻れが生じるようになります。
上位脊椎が回旋すると頭部の位置がずれますので、さらにそれを相殺するようにして頭部の回旋が生じることになります。
こちらも極端な例ではありますが、このような機序をたどりながら、各部位で重心を調整しているケースもありえるということです。
運動連鎖が波及する機序は同じで、近位部の運動連鎖で波及がすぐに止まる場合もあれば、止めきれずに頭部まで影響を与えることもあります。
こちらも側屈と同じで、左側の筋肉が収縮した場合に、左右のどちらに回旋運動が生じるかを視点にしています。
少し紛らわしいかもしれませんがご了承ください。
部位 | 左回旋 | 右回旋 |
下腿 | 外側広筋 | 内側広筋 |
大腿 | 大殿筋,外旋筋群 | 中殿筋前部,大内転筋 |
体幹 | 右内腹斜筋 | 左内腹斜筋 |
頭部 | 右胸鎖乳突筋 | 左胸鎖乳突筋 |
運動連鎖で重心を調整できなかった場合
例えば、脊椎圧迫骨折のように椎間関節の可動性が失われている場合、どれだけ他の部分で補おうとしても困難な場合があります。
そうすると、重心線がそれ以上にずれないために引き戻そうとする力が働くようになるのですが、その力というのが筋肉の収縮になります。
筋肉が持続的に活動している状態は疲労感が蓄積されやすいため、その姿勢を長く保つことは困難です。
また、姿勢を固めてしまっているので静的な安定性はあるのですが、動的な場面では途端に動揺性が大きくなって不安定となります。
これらは結果的に易疲労性や転倒リスクといったところにつながり、さらなる悪循環をきたしていく原因にもなります。
運動連鎖によって重心を調整できたなら、筋肉の収縮による調整が必要ありませんので、易疲労性などは基本的に生じません。
しかし、本来のポジションとは異なる位置に移動させられているため、場合によっては骨の変形などを助長させることにもなりかねません。
また、筋肉によっては短縮位や伸張位で保持されるので、その期間が長引くと短縮や血流障害などを招いてしまうこともあります。
なので必ずしも調整できているからいいのではなく、できる限りに本来のポジションに戻していくことが大切であるともいえます。
重心をどのようにして調節していくか
例えば、膝関節に伸展制限があった場合、原因が周囲組織の短縮にあるのなら、その短縮を改善させることがベストな治療といえます。
しかし、伸展制限の原因が骨の変形などによる不可逆性の変化であった場合、膝関節にアプローチしたところで改善は望めません。
その場合は膝関節の改善は諦めて、それを代償しうる足関節や股関節の可動性、姿勢を保持するための筋肉の強化が優先課題となります。
周囲だけの調整では難しい場合、さらに遠位の関節や補助具を利用して重心を調整し、足りない分を筋力強化で補うといった感覚で実施します。
それが結果的には疲労感の少ない実用的な姿勢を獲得するということであり、運動連鎖を活用した姿勢調整につながっていきます。
姿勢矯正についての考察
前述した各方向のバランスを整える筋肉は、その動きに対して貢献度の高い一部の筋肉だけであり、もちろんですがその他にも多くの筋肉が関与しています。
脊柱起立筋とひとくちに言っても、いくつも筋肉の総称であり、脊椎の高さやアライメントによっても貢献度は異なりますので考慮が必要です。
姿勢矯正の基本は筋トレとストレッチであり、その関節を動かしたい方向に働く筋肉は強化し、姿勢を崩している方向に働く筋肉はストレッチしていきます。
そのためには、まずは骨のアライメントの状態を評価し、次に周囲筋の緊張度合いや痛みなどを確認していきます。
そこから実際にどの筋肉を治療対象としていくかを決めていくようにします。
最後にひとつだけ覚えておいてほしいことは、なぜアライメントが崩れているのかを考えることです。
例えば、痛みからの疼痛回避によって崩れている(無意識に崩している)のであれば、矯正することが逆効果になる場合もあります。
そのため、その姿勢は矯正するべきなのか、矯正できるものなのかは常に頭に入れながら取り組んでいくことが大切です。
ヒトの重心線について理解する
身体の各部位が正常な位置にある場合は、以下の図に示すポイントを重心線が真っ直ぐと通過しています。
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ヒトの脊椎は緩やかなS字カーブを描いており、それによって背骨にかかる負荷を緩和しているので、カーブの度合いについても確認します。
緩やかなカーブが確認でき、上図のポイントが重心線上にきている場合は、いわゆる正しい姿勢がとれていると判断できます。
この姿勢が良しとされる理由は、①筋肉(軟部組織)への負担が少ないこと、②骨(関節)へ負担が少ないことが挙げられます。
ポイントが少しでも重心線からずれていたら、姿勢を保持するために抗重力筋が働いてしまうことになり、疲労感の強い姿勢になります。
実際には、身体はいくつもの骨で分節的に構成されているため、どんなに素晴らしい姿勢でも、多少の筋収縮は起こっています。
筋収縮を完全になくすためには分節(関節)を無くせばいいのですが、それだと動くことができないので生きていけません。
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そのため、厳密に表現するなら「姿勢保持筋の活動が少ない姿勢」が正しい姿勢のひとつの条件であるといえます。
次に骨への負担ですが、もしも骨がずれていると荷重面積が減少してしまい、一箇所に負担が集中するような状態となります。
そうなると関節の摩耗を早めてしまい、結果的にあらゆる障害を引き起こす原因になります。
これらのことより、正しい姿勢というのは筋肉へも骨へも負担の少ない姿勢のことを指すのだと理解していただけるといいかと思います。
正しい姿勢に戻すことは善か
個人的には正しい姿勢とか良い姿勢という表現は嫌いで、なぜならそれが必ずしもその人にとっての最善の姿勢とは限らないからです。
先ほどの図を使って説明すると、赤部分に損傷があった場合、正しい姿勢に戻したら圧は分散されて確かに痛みは楽になります。
しかし、下図の右端のように圧がかかる部位を調整すると、損傷部分への機械的刺激をさらに減らすことができます。
そうすることで別の部分の負担は増えることになりますが、損傷部分の治癒は早まることになります。
なので個人的には、まずは痛みへのアプローチが最も重要なため、正しい姿勢に戻すことよりも損傷部分の免荷を優先したいところです。
矯正すべき姿勢というのは、痛みの原因が取り除かれた後も継続する歪んだ姿勢や、慢性的な姿勢不良で形成された状態に限ります。
姿勢矯正は可否について解説
姿勢矯正は簡単に可能です。それを感じてもらうために、皆さんにも今すぐに実施できる矯正方法を実践していただきたいと思います。
まず両手を合わせた状態をとり、左の指を伸びろと念じながら右手で矢印の方向に滑らせていき、この動作を20回ほど繰り返します。
終わりましたら、もう一度同じポーズをしてもらい、左右の指の長さを見比べてみてください。
どうでしょうか。左の指のほうが長くなっていませんか?
実施前 | 実施後 |
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なにも知らない患者さんはこれだけでビックリするのですが、実はこのカラクリはとても簡単です。
そもそも、ヒトの関節というのは普段からやや曲がった姿勢をとっており、伸びきるという状態はほとんどありません。
なぜなら、伸びきってしまうと身体のパフォーマンスが急激に低下してしまうからです。
ストレッチを入念にやり過ぎると筋出力が低下することが報告されていますが、これも伸ばしすぎたことによるパフォーマンス低下のひとつです。
上述した方法は、指の3つの関節をストレッチしたことにより、関節が伸びきった状態になっていると考えてもらうとわかりやすいはずです。
また、左手を伸ばしてもらったのにも理由があり、多くの人で利き手よりも非利き手のほうが指が若干長い傾向があるのです。
姿勢矯正は、いくつかの関節が密集している部位ほど効果が出やすいので、その代表格である脊椎ほどターゲットにされやすい部位です。
そのため、「背骨の歪みを矯正します」といった整体院が非常に多いのです。
矯正しにくい姿勢と矯正しやすい姿勢
矯正しやすい姿勢というのは、不良姿勢となってからの時間が短く、ずれの大きさが少なく、原因が明確なものです。
猫背のような長い期間をかけて形成された姿勢は、簡単に修正することなんてまず出来ません。
それをたった数回の治療で「これだけ良くなりました」と広告に出す整体院やセミナー団体などはまず信用しないほうがいいでしょう。
しかし、絶対に不可能というわけではありませんので、矯正することでどのようなメリットがあるかを考え、患者に説明しながら根気よく続けることが大切です。
慢性的な姿勢不良を起こしている原因
慢性的な変化は原因が明確でない場合がほとんどですが、姿勢不良を引き起こしている原因は主に筋肉や筋膜といったインバランスの問題です。
そのため、姿勢を改善する方向に働く筋肉を強化し、姿勢を崩す方向に働く筋肉をストレッチすることが原則になります。
また、筋肉に問題があると感覚受容器が鈍くなってしまい、従来のイメージ通りに姿勢を保持できなくなります。
そのため、筋肉へのアプローチに加えて、姿勢鏡などを用いて感覚に対するフィードバックを高める練習も併行して実施していくことが有用です。
姿勢矯正のための3ステップ
1.アライメントを整える
対象部位 | 筋・筋膜、関節包 |
矯正方法 | ストレッチ、関節モビライゼーション、組織間リリース、補助具 |
治療目的 | ズレた骨の位置を矯正する、疼痛除去 |
2.アライメントを保持する
対象部位 | 筋肉 |
矯正方法 | 矯正した姿勢を保つ筋収縮を反復 |
治療目的 | 矯正時間の延長 |
3.アライメントを継続する
対象部位 | 姿勢制御に関わる全て |
矯正方法 | 正しい姿勢での運動動作を学習 |
治療目的 | 不良姿勢の再発予防 |
人体が崩れた姿勢(ずれた重心)を整える方法は、①筋収縮、②
部位にもよりますが、①の場合は筋肉の負担が、②の場合は関節の負担が増加します。
姿勢の崩れを生む原因と対策
- 筋力(緊張)の不均衡
- 疼痛回避
- 関節の構造的変化
- 身体的要因(肥満,妊娠など)
- 不良姿勢の習慣化 etc.
上記の5つが、姿勢の崩れを生む主な原因ですが、それらを取り除くことが姿勢を矯正するためには必要となります。
中でも最もアプローチしやすいのが筋力(緊張)に対する部分です。
姿勢矯正は案外簡単で、例えば骨盤の前傾を修正しようと考えた場合、骨盤を前傾させる筋肉を伸ばし、後傾させる筋肉を強化したらいいのです。
骨盤を前傾させる筋肉 | 骨盤を後傾させる筋肉 |
脊柱起立筋 | 腹直筋 |
腸腰筋 | 大殿筋 |
大腿直筋 | ハムストリング |
不良姿勢の原因が筋肉による割合が大きい場合、それだけですぐに姿勢は矯正できます。
ただし、その持続時間は非常に短く、すぐに元の姿勢に戻ってしまいます。
急性的な変化と慢性的な変化
不良姿勢が長期間を経ながら形成されていった場合(不良姿勢の習慣化)、身体はすでにその姿勢で最適化されています。
そのため、矯正してもすぐに元の状態へと最適化されることになります。
ここを矯正するというのは、野球選手がバッティングフォームを変える以上に難しいです。(無意識ですので)
ただし、不良姿勢が短時間で急激に形成された場合は、リハビリ時間のみの運動でも矯正できる可能性が高いです。
それは姿勢の崩れの原因が神経性や疼痛性である場合が多く、不良姿勢の習慣化も起こっていないからです。
そのため、不良姿勢が形成されるまでの期間はきわめて重要になります。
変化量の大きさと矯正が成功する割合
不良姿勢が完成するまでの期間と同じぐらい大切なのが、変化量の大きさです。
側弯症や猫背のように、パッと見てすぐにわかるズレ(マクロな変化)は、ほとんどの場合は矯正が不可能です。
例えば、あのウサイン・
世界レベルのアスリートが実践するトレーニングでも矯正不可能なのに、施術時間のみで矯正するなんてもちろん不可能です。
ただし、見てすぐにはわからないほどの小さなズレ(ミクロな変化)に関しては、矯正できる可能性は高いと考えられます。
これはあくまで矯正が成功するかの話であり、マクロな変化だからアプローチする必要がないというわけではありません。
その痛みは姿勢不良が原因か
姿勢のズレが限局的な負担を増加させ、組織損傷を引き起こす可能性は極めて高いのですが、そこにも少し疑問点が残ります。
テレビなどで腰痛の原因が不良姿勢にあると声高らかに豪語する施術家は多いですが、実際は脊椎の彎曲度合いと腰痛はほとんど関係ないことがいくつもの研究で証明されています。
このブログでは何度も書いてますが、背骨のレントゲンを見ただけで痛いかどうかなんて医者にもわからないことです。
ましてや、姿勢を見ただけでわかるわけがありません。
さらに、目で見てわかるほどの変化でも腰痛差がないのに、それがミクロな変化であるなら、より痛みに関係しているとは考えにくいはずです。
もちろん変化量の大小で痛みが決まるわけではないのですが、変化量が大きいほうが負担が一部に集中する割合が高くなるのも事実です。
姿勢を最適化する上で考慮すべきこと
例えば、右足に痛みがあって荷重をかけることができない場合、左足に荷重を大きくかけているので重心は左方にズレてしまいます。
はたして、この立位姿勢は問題でしょうか。もちろん違いますよね。
本人は疼痛を回避するためにわざとそのような姿勢をとっており、それを問題だからといって右足に荷重をかけたら、痛みは悪化してしまいます。
姿勢を戻す前にまず考慮しなければならないことは、どうしてその姿勢となったかの原因を探し出すことです。
それを見つけずして姿勢矯正はするべきではありません。
はじめは疼痛回避による不良姿勢だったものが、不良姿勢の習慣化によって崩れてしまっている場合もあります。
疼痛がすでに解消されているものであれば、アプローチしても問題ありませんが、現在も疼痛が問題になっているのなら、まずはそこを取り除くことが課題となります。
ここまでの文章を読んでいただけたなら、姿勢を整えることがどれだけ重要であり、どれだけ難しいものかが理解してもらえたかと思います。
猫背のような長年の姿勢不良を、たった数回の治療で「これだけよくなりました!」と宣伝している施術家たちは、はっきり言って詐欺師も同然です。
もちろん明確な原因があり、短期的に急激な変化を起こしている猫背なら改善も可能ですが、普通はまずあり得ません。
そこをぜひ理解していただけたら幸いです。
姿勢矯正が難しい慢性的な変化に関しては、
例えば、慢性腰痛を起こす最大の原因は、「同一姿勢の継続」にあるので、定期的に身体を動かして除圧することや、自主的な矯正運動を繰り返すことが有用と考えられます。
また、足底板などの補助具を利用してアライメントに変化を起こし、圧が集中している部分をずらすことも効果的です。
姿勢矯正にこだわるのではなく、除圧に目を向けるほうが痛みなどに関しては即効性のある効果が期待できます。
どの方法が最適なのかは、専門家が正しく評価をしない限りはなかなか判断がつかない部分だと思います。
そのことを理解していただき、姿勢矯正は必要に応じながら実施していくようにお願い致します。