熱傷のリハビリ治療

熱傷の概要と応急処置

熱傷(やけど)は、皮膚の連続性が失われた**創傷(wound)**の一種です。入院を要する中等度以上の熱傷は乳幼児や学童に多く、家族による注意が不可欠です。

応急処置として最も重要なのは冷却です。衣服や装飾品を外し、流水で10〜20分冷却(氷や氷水は凍傷の恐れがあるため避ける)してください。自己判断でクリームや軟膏を塗らず、化学熱傷の場合は大量の流水で直ちに洗い流す必要があります。

熱傷の原因と特徴

熱傷の原因は、接触した物質や温度によって損傷の進行や特徴が異なります。

原因
受傷機転
特徴
熱湯
料理、ポット
家庭内で最も頻度が高い。45℃程度の低温でも長時間接触で受傷する(低温熱傷)
火炎
料理、火事
衣服の着火などで広範囲化しやすい。70℃以上の高温では1秒未満の接触で重度化する
電気
電線、コード
電撃傷と呼ばれ、深部組織の損傷が見た目より広いことが多い
薬品
酸・アルカリ
組織壊死が進行しやすく、直ちに大量の洗浄が必要

受傷範囲(TBSA)の分類

重症度を決定する大きな要因が**受傷面積(Total Body Surface Area; TBSA)**です。成人では「9の法則」、小児では「5の法則」や、年齢に応じて各部位の割合を調整する「Lund-Browderの図表」が用いられます 。

  • 9の法則(成人): 頭部9%、片上肢9%、体幹前面18%、後面18%、片下肢18%、陰部1%で算出 。
  • 5の法則(幼児): 頭部20%、左右下肢を各15%とするなど、小児の体型に合わせた割合を使用 。
Lund–Browder 図:年齢別の体表面積比率
年齢(歳) 0 1 5 15
A-頭部の1/2 9.5% 8.5% 6.5% 4.5%
B-片脚大腿の1/2 2.75% 3.25% 4% 4.5%
C-片脚下腿の1/2 2.5% 2.5% 2.75% 3.25%

深度・重症度の判定

熱傷の重症度は、面積、深度、部位、年齢、合併症(気道熱傷など)で決まります。深度が深いほど、皮膚の再生能力が失われ、瘢痕化が進みます。

分類
損傷部位
症状・痛み
治癒過程・瘢痕
第Ⅰ度
表皮の角質層
紅斑、腫脹、ヒリヒリした疼痛
2〜5日で軽快し、瘢痕は残らない
第Ⅱ度(浅層)
真皮上層(乳頭層)
水疱形成、強い痛み、灼熱感
感染がなければ1〜3週間で治癒。瘢痕は残りにくい
第Ⅲ度(深層)
真皮深層
水疱底が白濁。知覚鈍麻で痛みは比較的軽い
再上皮化に3〜5週間を要し、肥厚性瘢痕が残りやすい
第Ⅲ度
皮膚全層・皮下組織
無痛(神経終末が破壊)。硬化、炭化
自力での治癒は困難で植皮術が必要。著明な瘢痕を残す

外科的治療

深層性熱傷や広範囲な熱傷では、感染や敗血症のリスクを回避するため、デブリードマン(壊死組織の除去)と植皮術が基本となります 。

  • 筋膜上切除: 広範囲を短時間で切除できるが、機能面や美容面での課題が残る。
  • 接線切除: 30%以下の熱傷において、真皮や皮下組織を温存しつつ壊死組織を削り取る手法。

リハビリテーションの実践

リハビリの目的は、瘢痕・拘縮による関節可動域制限を最小化し、機能を保持することです 。特に皮膚損傷が関節周囲に及ぶ場合、肉芽組織が線維化し、強力な収縮力を伴う瘢痕拘縮へと発展します 。

① 呼吸理学療法

受傷後早期、特に気道熱傷の疑いがある場合やICU管理下では、無気肺・肺炎の予防が最優先です 。

  • 体位ドレナージと排痰: 重力を利用した痰の移動を促し、必要に応じてスクイージング(呼気時の胸郭圧迫による流速向上)やタッピングを実施します 。
  • 定時実施: 看護師と連携し、2時間ごとの体位変換と吸引、6〜8時間ごとの排痰法を徹底します。

② ポジショニングとスプリント装着

熱傷部位の抗変形肢位(変形を防ぐ位置)での保持は、浮腫の軽減と将来的な拘縮予防に直結します 。

  • 浮腫管理: 患部を心臓より高く挙上し、弾性包帯などによる圧迫(compression)を併用します 。
  • 各部位の予防肢位例:
    1. 頸部: 伸展5〜10°(枕を使わずタオルで調整)。
    2. 肩関節: 外転90°以上、屈曲15〜20°。
    3. 肘・膝関節: 伸展0°(真っ直ぐに伸ばす)。
    4. 手手指: 手関節背屈35°、MP関節屈曲60〜80°、PIP/DIP伸展0°(機能的把握位の保持) 。

③ 関節可動域運動(ROM)

入院初期から開始し、炎症が鎮静化した後は、組織の滑走性を引き出す操作が重要です 。

  • 早期の介入: 皮膚の修復過程において、組織間に癒着が生じる前に愛護的な運動を開始します 。
  • 部分浴の活用: 浮力により動かしやすくなり、創洗浄の効果も期待できます。
  • 持続伸張の重要性: 瘢痕拘縮に対しては、短時間のストレッチよりも、スプリントや装具を用いた長時間(30分以上)の持続的伸張が有効であるというエビデンスがあります 。

④ 生活指導と社会参加

広範囲熱傷の治療は数か月から数年に及ぶこともあります 。

  • スキンケア: 治癒した皮膚の洗浄、保湿、セルフマッサージを徹底し、皮膚の柔軟性を維持します 。
  • 心理的支援: 瘢痕醜形による社会復帰への不安に対し、家族や多職種が協力して支援を継続することが不可欠です。

最終更新:2026-05-03