熱傷のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
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熱傷の概要
熱傷は「熱」により起こる全ての損傷を指します。深部にまで到達した熱傷は、治癒しても瘢痕やケロイドを残し、患者に精神的な苦痛を残すことになります。
入院が必要になる中等度以上の熱傷は、3,000人に1人程度の割合で、年齢的には乳幼児や学童がほとんどであり、家族の注意が不可欠といえます。
救急管理として、熱傷部位の衣服をすべて脱がせ、患部が汚染されている場合は流水によって清浄します。
その後、氷水につけたタオルを絞って患部に当てます。その際に、家庭薬であるクリームや軟膏などで患部を汚染させないようにします。
熱傷の原因
原因 | 受傷機転 | 重症度 | 特徴 |
熱湯 | 料理、ポッド | 軽度-中度 | ほとんどの熱傷原因 |
火傷 | 料理、火事 | 中度-重度 | 火のついた衣服などに触れて受傷 |
電気 | 電線、コード | 重度 | 表面から見るより損傷は大きい |
薬品 | 薬剤 | 重度 | 数時間にわたって徐々に壊死する |
受傷範囲の分類
受傷した範囲が体表面積の何パーセントにあたるかを計算するには、以下のLund-Browderの公式を使用します。
年齢(歳) | 0 | 1 | 5 | 15 |
A-頭部の1/2 | 9.5% | 8.5% | 6.5% | 4.5% |
B-片脚大腿の1/2 | 2.75% | 3.25% | 4% | 4.5% |
C-片脚下腿の1/2 | 2.5% | 2.5% | 2.75% | 3.25% |
深度の分類
第Ⅰ度熱傷 |
表皮は生存していて角質層などの表層のみが破壊された状態 |
浮腫、ヒリヒリとした痛みなどを伴う |
痛みは2-3日でおさまり、跡は残らない |
第Ⅱ度浅層性熱傷 |
一部表皮は生存しているが真皮上層まで達した状態 |
ピンク色の水疱痘が形成されて強い痛みがある |
感染がなければ2週間で治癒し、瘢痕を残さない |
第Ⅱ度深層性熱傷 |
表皮は破壊されて真皮深層まで達した状態 |
水疱底は白濁しており、知覚鈍麻により痛みはあまり感じない |
皮膚付属器から表皮が再生するのに30日以上かかり、瘢痕が残る |
第Ⅲ度熱傷 |
皮膚付属器まで完全に破壊されて壊死している状態 |
黒・黄褐色の焼痂を形成し、神経終末は破壊されて無痛状態 |
植皮による傷口閉鎖を必要とし、治癒には数か月かかる |
交感神経の緊張低下、冠動脈病変の進行を抑制 |
CRP、炎症性サイトカインの減少など炎症関連指標の改善 |
血小板凝集能、血液凝固能の低下 |
重症度の判定
熱傷の重症度は第1に受傷面積によって決定されます。
受傷面積が広いほど重症であり、血管の透過性が亢進し、血管外に血漿部分が漏出して血量減少の状態がひどくなってくるからです。
重症度は面積以外にも深度や部位、年齢、合併症の有無などを考慮して分類され、その判定法には「Artzの分類」や「Burn index」などが用いられます。
Artzの分類
1.重症熱傷 |
Ⅱ度:30%TBSA以上 |
Ⅲ度:10%TBSA以上 |
顔面,手,足のⅢ度熱傷 |
気道熱傷の合併 |
軟部組織の損傷や骨折の合併 |
電撃傷 |
2.中等度熱傷(一般病院で入院加療を要するもの) |
Ⅱ度:15-30%TBSA |
Ⅲ度:10%TBSA以下(顔,手,足を除く) |
3.軽症熱傷(外来で治療可能なもの) |
Ⅱ度:15%TBSA以下 |
Ⅲ度:2%TBSA以下 |
TBSA:total body surface area |
外科的治療
保存的治療は自然上皮化が期待できる第Ⅱ度浅層性熱傷と、ごく小範囲の第Ⅱ度深層性熱傷に限られます。
広範囲の第Ⅱ度以上の深層性熱傷では、デブリードマンや植皮手術が必須です。従来は、全身状態が落ち着く発生5日以降に手術は実施されてきました。
しかし、その間に壊死組織からの細菌感染拡大による全身性の敗血症、多臓器不全などで死亡する例が多く、近年では24時間以内に手術が行われる場合もあります。
デブリードマンは、広範囲を短時間に最小限の出血で切除できる筋膜上切除が多用されますが、欠点としては皮下脂肪や神経、血管を切除する必要があります。
神経や血管を切除することで知覚鈍麻や末梢浮腫といった機能的な低下、皮下脂肪切除による美容的な劣化が問題となります。
受傷面積が30%以下の中等度熱傷では、真皮組織や皮下組織の温存を図る連続分層切除、接線切除が用いられます。
リハビリテーション
熱傷へのリハビリの目的は、皮膚瘢痕と拘縮による関節可動域制限を最小限にし、機能的肢位を保持することにあります。
そのためには、患者自身がセルフケア活動に参加することは必須であるため、障害への理解や生活指導を行うことも大切です。
一般的なプログラムとしては、①呼吸理学療法、②ポジショニング、③スプリント、④関節可動域運動、⑤早期離床を目的とした生活動作練習などがあります。
引用画像(1) |
呼吸理学療法
受傷後早期の集中治療室では、循環管理に加えて、上気道の高度な浮腫や気道熱傷などのために気管内挿管されています。
この段階から開始されるリハビリは、無気肺や肺炎などの呼吸合併症を予防するための呼吸理学療法、熱傷を罹患した関節の可動域維持が中心となります。
具体的な方法として、2時間ごとの体位変換と気道内吸引、6-8時間ごとの排痰法を行います。定時の実施が不可欠ですので、看護師と連携しながらの実施となります。
排痰法は痰の貯留部位を聴診で確認し、同部位にスクイージングやタッピング、バイブレーションなどを加えていきます。
スクイージング
呼吸介助としても実施される方法で、呼気時に胸郭をスクイージング(しぼる)ことで、呼吸を楽にしたり排痰を促す方法です。
呼気流速が加速するため、貯留した痰を中枢気道へと移動させることができるとされ、タッピングよりも気道分泌物を移動させるには効果的と考えられています。
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タッピング
その原理はとても簡単で、痰が存在している部分を上から叩いて喀痰排出を促すという方法です。
お椀状に手を丸くして、1秒間に3回のペースで叩いていきます。あまりに弱く叩いても効果はないので、ある程度の強さが必要になります。
タッピングは痛みを伴うこともあるので、本人に確認しながら実施する必要があります。
体位ドレナージとの併用
タッピングやスクイージングといった手技は、基本的に体位ドレナージと併用して実施することが望ましいとされています。
詳しくは体位ドレナージ(排痰法)の方法に記載していますので、そちらでの確認をお願い致します。
原理としては、貯留している痰を重力で中央の気管に移動させるように姿勢を調整し、そこから刺激を加えて移動量を増やすといった考え方になります。
ポジショニングとスプリント装着
熱傷に対しては、ポジショニングによって将来的に予測される皮膚性拘縮や変形および瘢痕形成を予防し、機能障害を最小限に食い止めることが必要です。
良肢位に保持するためにはスプリントを使用して抗変形肢位に固定し、浮腫の減少と最大循環を維持しながら拘縮の予防に努めます。
具体的には、以下の肢位が推奨されています。
熱傷部位 | 予防肢位 |
頸部 | 伸展5-10度 |
胸部 | 拡張位 |
肩関節 | 屈曲15-20度,外転90度以上 |
肘関節 | 伸展0度 |
手関節 | 中間位または背屈35度 |
手指関節 | PIP関節伸展0度,MP関節屈曲60-80度 |
股関節 | 腹臥位または伸展0度,外転20-30度,回旋0度 |
膝関節 | 伸展0度 |
足関節 | 背屈0度 |
※頸部は枕を使用せずタオルを使用することで予防肢位に、胸郭は背中にタオルを挿入することで予防肢位に調整する
関節可動域運動
自動運動や他動運動は入院時からできるだけ早く開始され、外来リハにおいても継続的に実施していく必要があります。
関節可動域運動は部分浴にて実施することで、浮力を使用した自由な運動が実施でき、創部の洗浄や壊死組織の除去も可能となります。
また、末梢循環が維持でき、肉芽組織の形成も促進されるといった利点があります。
瘢痕組織が形成されている間は患部の関節可動域運動は困難なので、患者は昼夜スプリントを使用し、機能的な可動域を維持するように努めます。
生活指導と社会参加
広範囲熱傷に対する治療は長期に渡り、瘢痕醜形などの後遺症が患者の自立、社会復帰に大きな障害となる場合が多いです。
そのような心理面を考慮した支援を行っていくことも、セラピストには重要な役割となっています。
少しでも状態を良好に保つため、スキンケアとして毎日の洗浄、皮膚を柔らかくするためのセルフマッサージ、良肢位の保持は大切です。
そのためにも、患者や家族の協力は必要であり、セラピストには十分な説明と指導が求められます。
引用画像/参考資料
- 理学療法ジャーナル 34巻 2号 pp. 89-94(2000年2月)