肘関節の構造と関節可動域の測定方法

肘関節の構成(3関節1関節包)

肘関節

肘は単一の関節包で包まれた3関節の複合体です。

  1. 腕尺関節(HU):上腕滑車 × 尺骨滑車切痕 … 蝶番関節(屈曲・伸展)

  2. 腕橈関節(HR):上腕骨小頭 × 橈骨頭窩 … 球状に近い関節(屈曲・伸展、前腕回内外に連動)

  3. 近位橈尺関節(PRUJ):尺骨橈骨切痕 × 橈骨頭(環状面) … 車軸関節(回内・回外)

現場ではHU/HRを「肘関節」、PRUJを「前腕の回内外関節」と分けて説明することがありますが、いずれも同じ関節包内です。

肘関節|前面肘関節|後面

 

肘関節の可動域と測定方法

運動方向 参考角度 基本軸 移動軸 参考図
屈曲 145 上腕骨 橈骨 肘関節屈曲・伸展の関節可動域(正常値)
伸展 5
回内 90 上腕骨 手指を伸展した手掌面 前腕回内・回外の関節可動域(正常値)
回外 90

肘関節の屈曲・伸展の測定で、前腕の回外位がとれない場合は、測定時の前腕の肢位を記録しておきます。

回内では肩関節の外転と内旋、回外では肩関節の内転と外旋の代償運動が起こらないように注意が必要です。

手指の屈曲拘縮などによって手指伸展が不可能な場合は、移動軸を「橈骨と尺骨の茎状突起を結ぶ線に平行で前腕遠位端背側面(回内)または掌側面(回外)」にして測定します。

主要筋(貢献度の目安)

  • 屈曲:上腕二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、長橈側手根伸筋、円回内筋、橈側手根屈筋、短橈側手根伸筋

  • 伸展:上腕三頭筋、肘筋

  • 回内:円回内筋、方形回内筋(補助:橈側手根屈筋)

  • 回外:上腕二頭筋、回外筋(補助:長母指外転筋、長母指伸筋)

回内外は肘90°屈曲位で上腕骨を体幹に固定すると、肩の代償を抑えやすいです。

肘関節の靱帯と機能

1.前方から見た肘関節周囲の靱帯
肘関節の靱帯前面|各部位の名称
2.後方から見た肘関節周囲の靱帯
肘関節の靱帯後面|各部位の名称

1) 内側側副靱帯(UCL/MCL)

  • 構成前斜走束(前部)/後斜走束(後部)/横束(横走)

  • 機能外反(valgus)制動、腕尺関節の安定

  • 起始・停止(要点)

    • 前部:内側上顆前面 → 尺骨鉤状突起(主たる外反制動:伸展域は前方線維、屈曲域は後方線維)

    • 後部:内側上顆下後面 → 肘頭内側縁

    • 横束:肘頭 ↔ 鉤状突起(主に補助)

  • 臨床:投球で高負荷。Moving Valgus StressMilking maneuverで評価。

2) 外側側副靱帯複合体(LCL complex)

  • 構成橈側側副靱帯(RCL), 外側尺側側副靱帯(LUCL), 橈骨輪状靱帯

  • 機能内反(varus)制動腕橈関節の安定後外側回旋不安定性(PLRI)の防止(特にLUCL

  • 短縮・癒合:輪状靱帯との連続性により全域でROM制限が出ることあり。

3) 橈骨輪状靱帯(Annular ligament)

  • 機能橈骨頭を尺骨切痕に保持(PRUJの要)

  • 小児:牽引で橈骨頭が靱帯から**逸脱(肘内障)**しやすい。

4) 方形靱帯(Quadrate ligament)

  • 機能PRUJ下界の支持、回内外最終域の安定化

  • 付着:尺骨橈骨切痕下縁 ↔ 橈骨頚

肘関節|前面|靱帯

肘角(Carrying angle:運搬角)

  • 伸展・回外位で前額面上約10–15°外反(個人差・性差あり)。

  • 意義:物を運ぶ際に前腕が体幹から離れ、大腿と干渉しにくい

  • 異常外反肘(≈30°以上)/内反肘(≈5°以下・いわゆる“ガンストック変形”)。

外反肘 内反肘
外反肘 内反肘

肘内障(輪状靱帯逸脱)

  • 機序:幼児の手を急に牽引 → 橈骨頭が輪状靱帯から半脱臼

  • 症状:疼痛で上肢をだらりと下げ前腕回内位で保持

  • 対応:通常は徒手整復で即時改善、後遺症は稀。再発予防に牽引しない抱え方を指導。

正常 肘内障
肘内障正常 肘内障

引用元:日本整形外科学会

臨床でのチェックポイント

  • 疼痛誘発:外反ストレス(UCL)、内反ストレス(LCL)、PLRIテスト(Pivot-Shift of the Elbow)

  • 神経走行尺骨神経(内側上顆後方=肘部管)、橈骨神経(外側で分岐し後骨間神経へ)、正中神経(円回内筋間)

  • 機能域:ADLで多いのは屈曲30–130°/回内外合計100°(いわゆる“機能的肘可動域”)


よくある質問(Q&A)

Q1. 前腕の回内外はどの肢位で測る?
A. 肘90°屈曲位で上腕を体幹に固定。肩の回旋代償を最小化できます。

Q2. 投球で痛むのはなぜ?
A. バルガスストレスが内側に集中しUCLへ負荷。投球フォームの見直し、前腕回内筋群の強化、肩甲体幹連動の最適化が必須です。

Q3. 伸びきらない/曲がらない時の注意点は?
A. 骨性ブロック(骨棘・遊離体)や関節包拘縮輪状靱帯短縮など原因は多彩。エンドフィールと画像所見を併せて評価します。

Q4. 肘内障はクセになりますか?
A. 幼児期は再発しやすいですが、成長とともに頻度は低下。手を上方へ急に引っ張らない生活指導が有効です。

Q5. 回内外で手首が痛む…
A. 肘でなくDRUJ(遠位橈尺関節)やTFCCの問題も。疼痛部位・荷重での痛みの有無を切り分けます。

Q6. 検査で何をまず見る?
A. 観察(肘角・腫脹・熱感)→ 可動域と代償 → ストレステスト(内外側) → 神経学的所見の順で系統的に。


最終更新:2025-09-08