肩関節と肩甲帯の構造と関節可動域の測定方法

肩関節と肩甲帯の構造と関節可動域について解説していきます。

肩関節の概要

肩関節(広義)は、①胸鎖関節、②肩鎖関節、③肩甲上腕関節、④肩峰下関節(第2肩関節)、⑤肩甲胸郭関節の5つから構成される複合関節です。

その中でも、最も関節可動域の大きい肩甲上腕関節を肩関節(狭義)として表現される場合が多いです。

①②③は解剖学的関節、④⑤は機能的関節として分類されます。

肩関節の構造

胸鎖関節

胸骨の鎖骨切痕と鎖骨の胸骨端から構成される鞍関節で、関節腔には関節円板が存在し、柔軟な可動性を有しています。

前後にある胸鎖靱帯が関節面を補強しており、肋鎖靭帯が鎖骨と第2肋骨を連結させて固定しています。

胸鎖関節

肩鎖関節

肩甲骨の肩峰と鎖骨の肩峰端から構成される平面関節で、肩関節の中で最も可動域が小さい関節です。

緩い関節包は上面が肥厚して肩鎖靱帯となっています。肩甲骨の烏口突起も烏口鎖骨靱帯によって鎖骨と連結しています。

これらの靱帯で結びつくことによって、肩鎖関節は胸鎖関節と連動して肩甲上腕リズムを可能にしています。

肩鎖関節

肩甲上腕関節

肩甲骨の関節窩と上腕骨の骨頭から構成される球関節で、人体に存在する関節の中で最も可動性が大きい関節です。

可動性を優先するために安定性を犠牲にしており、全関節の中でも脱臼する割合は断トツに高くなっています。(およそ80%)

その原因として、上腕骨頭の関節面は関節窩の関節面に対して3-4倍の大きさがあり、関節窩の深さも5㎜程度と非常に浅い構造となっています。

肩甲上腕関節

肩峰下関節(第2肩関節)

肩甲骨の肩峰と上腕骨の間でクッションの役割を果たす肩峰下滑液包のことを肩峰下関節と呼びます。

肩峰下滑液包は肩関節を挙上する際に、上腕骨頭と肩峰の間に滑り込み、クッションの役割を果たすことで滑らかな動きを実現しています。

肩甲上腕リズムなどの崩れで滑液包の挟み込み(インピンジメント)が起こると、滑液包が炎症を起こして痛みを誘発します。

肩峰下関節

肩甲胸郭関節

肩甲骨前面と胸郭背面から構成される肩甲胸郭関節は、靱帯や関節包は存在せず、筋肉の連結のみによって位置を保っています。

そのた、肩甲上腕関節の次いで可動域が大きく、周囲筋の緊張によって容易に肩甲骨のポジションが変化するといった特徴を有しています。

肩甲胸郭関節

肩関節の可動域と測定方法

運動方向 参考角度 基本軸 移動軸 参考図
屈曲 180 床への垂直線 上腕骨 肩関節屈曲・伸展の関節可動域(正常値)
伸展 50
外転 180 床への垂直線 上腕骨 肩関節内転・外転の関節可動域(正常値)
内転 0
外旋 60 前額面への垂直線 尺骨 肩関節内旋・外旋の関節可動域(正常値)
内旋 80
水平屈曲 135 矢状面への垂直線 上腕骨 肩関節水平屈曲・水平伸展の関節可動域(正常値)
水平伸展 30

屈曲では体幹後傾、伸展では体幹前傾、内外転では体幹側屈、内外旋では肩関節内転・前方突出、水平屈伸では体幹回旋といった代償運動に注意します。

外転では、約120度で上腕骨大結節が肩峰突起や烏口肩峰靱帯に衝突し、動きが制限されます。

そのため、それ以上の外転動作では上腕骨を外旋させて大結節を後方にずらしてから行う必要があります。

肩関節の動きに作用する筋肉(貢献度順)

方向 筋肉
屈曲 三角筋(前部)、大胸筋(上部)、上腕二頭筋、前鋸筋
伸展 広背筋、大円筋、三角筋(後部)、上腕三頭筋(長頭)
外転 三角筋(中部)、棘上筋、前鋸筋、僧帽筋
内転 広背筋、大胸筋(下部)、大円筋、上腕三頭筋(長頭)
外旋 棘下筋、小円筋、三角筋(後部)
内旋 肩甲下筋、大胸筋、広背筋、大円筋
水平内転 大胸筋、三角筋(前部)、上腕二頭筋
水平外転 広背筋、三角筋(後部)、大円筋

肩関節周囲の靭帯

1.肩甲上腕関節周囲の靱帯
肩関節の靱帯
 2.胸鎖関節周囲の靱帯
胸鎖関節の靱帯
靱帯 機能
烏口上腕靱帯 上腕骨頭の変位を制動
関節上腕靱帯 上腕骨頭の安定化、関節包の深層に位置する
烏口肩峰靱帯 上腕骨頭の保護
肩鎖靱帯 肩鎖関節の固定、可動性制限
円錐靭帯 肩鎖関節の安定化、菱形靭帯と合わせて烏口鎖骨靱帯と呼ぶ
菱形靱帯 肩鎖関節の安定化、円錐靭帯と合わせて烏口鎖骨靱帯と呼ぶ
上肩甲横靭帯 靱帯の下を肩甲上神経、上を肩甲上動脈が通る
胸鎖靱帯 胸鎖関節の補強
肋鎖靭帯 鎖骨の挙上を抑制
鎖骨間靱帯 鎖骨の外側端が押し下げられた時に胸骨の挙上を防ぐ
上腕横靭帯 結節間滑液鞘(上腕二頭筋長頭腱)を結節間溝に固定

肩鎖関節を制限する靭帯

肩鎖関節のCPPは肩甲骨回旋位、LPPは中立位になります。

運動方向 烏口鎖骨靱帯 上肩鎖靱帯 下肩鎖靱帯
円錐靭帯 菱形靱帯
肩甲骨外転 +
肩甲骨内転 + + +
肩甲骨挙上 +
肩甲骨下制 + + +
肩甲骨上方回旋 + + +
肩甲骨下方回旋 +

胸鎖関節を制限する靭帯

胸鎖関節のCPPは挙上位、LPPは中間位になります。

運動方向 前胸鎖靱帯 後胸鎖靱帯 鎖骨間靱帯 肋鎖靭帯
挙上 +
下制 +
前方牽引 +
後方牽引 +

肩関節の安定化機構

肩関節には、周囲組織(関節包や関節唇など)にて安定性を高める静的安定化機構と、周囲筋の緊張にて安定性を高める動的安定化機構があります。

これらの安定化機構によって、肩関節は不安定性を補いながら、骨頭を一定の方向に制動することを可能としています。

1.静的安定化機構

関節包・靱帯 関節上腕靱帯は関節包が部分的に肥厚したもので、骨頭の変位を制動する
関節唇 関節窩の周囲を取り巻く線維軟骨性のリング。関節窩の深さの50%は関節唇が担っている
関節窩の傾斜 関節窩は垂線に対して約5度上方へ傾斜しており、靱帯と共同で骨頭の下方変位を制動する
関節腔の内圧 関節腔の内圧は陰圧であり、これが骨頭と関節窩の間の吸引力として働く

2.動的安定化機構

回旋筋腱板 回旋筋腱板により生じる筋力は、上腕骨頭を中心に向け、関節窩に安定させるように働く
その他の筋 三角筋は各方向に、上腕二頭筋長頭は外転・外旋位での前方安定性に寄与する

肩関節の関節唇について

肩関節の関節唇はとくに重要で、非常に浅い構造をしている関節窩の深さを高めて、関節の安定化に貢献します。

関節唇があるおかげで、深さは縦で60%、横で120%も増加するといわれています。

また、肩関節が脱臼するのに要する力は100㎏前後ですが、関節唇が損傷している状態ではわずか10㎏ほどで脱臼したとの報告もあります。

肩甲骨の関節窩

肩甲帯の概要

肩甲帯とは、肩甲骨と鎖骨を合わせた状態を呼びます。肩甲骨は主に筋肉によって支えられており、第2肋骨から第7肋骨の範囲に位置しています。

 1.前方から見た肩甲骨
肩甲骨前面
 2.側方から見た肩甲骨
肩甲骨側面
3.後方から見た肩甲骨
肩甲骨後面

肩甲骨内縁は胸椎より5-6㎝ほど外側に位置しています。肩甲骨は前額面に対して約30度の角度を持ち、肩甲骨に対して鎖骨は60度の角度にあります。

肩甲骨の可動性は、上下方向に10-12㎝、内外側に15㎝ほど動かせます。

肩甲骨が動く方向

肩甲骨は非常に多様な動きをすることが可能で、それにより上肢の自由な動きを補助しています。

 1.肩甲骨の運動方向①②③(後方から見た図)
肩甲骨の動き
 2.肩甲骨の運動方向④(側方から見た図)
肩甲骨の動き②

肩甲帯の動きに作用する筋肉(貢献度順)

方向 筋肉
挙上 僧帽筋(上部)、肩甲挙筋、大菱形筋、小菱形筋
下制 僧帽筋(下部)、小胸筋
外転 前鋸筋、小胸筋
内転 僧帽筋(中部)、大菱形筋、小菱形筋
上方回旋 僧帽筋、前鋸筋
下方回旋 大菱形筋、小菱形筋、小胸筋

肩甲帯の関節可動域と測定方法

運動方向 参考角度 基本軸 移動軸 参考図
屈曲 20 両側の肩峰を結ぶ線 頭頂と肩峰を結ぶ線 肩甲骨屈曲・伸展の関節可動域(正常値)
伸展 20
挙上 20 両側の肩峰を結ぶ線 肩峰と胸骨上縁を結ぶ線 肩甲骨挙上・下制の関節可動域(正常値)
引き下げ 10

肩甲帯の動きは他動的測定に苦慮する動きであるため、被験者の自動的な動きに加え検者の他動性によって最終域まで動かしてから測定します。

とくに引き下げの運動は可動範囲が狭いため、体幹の側屈による代償運動が入りやすいために注意が必要です。

肩甲上腕リズム

上肢を挙上する動作は、主に可動性の大きな肩甲胸郭関節と肩甲上腕関節の共同的な運動によって行われています。

肩甲上腕関節の外転と肩甲胸郭関節の上方回旋の間には挙上リズムが存在し、その比率は2:1となります。

これを肩甲上腕リズムと呼んでおり、肩関節180度外転時は肩甲上腕関節が120度、肩甲胸郭関節が60度を担っていることになります。

肩甲上関節と肩甲胸郭関節の動きは常に2:1というわけではなく、肩関節の外転角度によって大きく動く関節は異なっています。

1.肩関節外転0-30度

肩甲骨は下制していきます。肩関節の外転はほとんど肩甲上腕関節だけで起こっています。

30度

2.肩関節外転30-60度

肩甲骨は上方回旋していきます。外転では30度以上、屈曲では60度以上から肩甲上腕リズムが反映されます。

60度②

3.肩関節外転60-90度

肩甲骨は下内側方向へ移動していきます。肩甲上腕リズムは規則性が崩れ、肩甲上腕関節の動きが大きくなります。

90度

4.肩関節外転90-120度

肩甲骨は大きく上方回旋していきます。肩甲上腕関節よりも肩甲胸郭関節の方が貢献度が高いです。

120度

5.肩関節外転120-180度

肩甲上腕リズムにて肩関節は外転していきます。

150度

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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