肩腱板断裂のリハビリ治療

肩関節に痛みを起こす原因となりやすい腱板断裂について、その病態とリハビリ方法について解説していきます。

腱板構成筋

肩関節腱板構成筋

腱板は上腕骨頭を覆っている筋肉の停止部(腱)の総称で、骨頭を関節窩に引きつけて安定させる役割を持ちます。

腱板を構成する筋肉は前方から、①肩甲下筋、②棘上筋、③棘下筋、④小円筋の4つになります。

肩甲下筋と棘上筋の間には腱板が存在しない部分(腱板疎部)があり、上腕二頭筋長頭腱が通過しています。

肩甲骨関節窩を外側から見た図

骨頭の前方を覆う肩甲下筋は肩関節の内旋に、上方を覆う棘上筋は外転に、後方を覆う棘下筋と小円筋は外旋の動きに作用します。

腱板断裂の概要

腱板断裂の種類

腱板の中で最も断裂しやすいのは棘上筋腱で、次いで棘下筋腱、肩甲下筋腱となり、小円筋腱はほとんど断裂することはありません。

腱板の完全断裂は「棘上筋腱の完全断裂」を意味し、広範囲断裂は「棘上筋腱の完全断裂+棘下筋腱の1/3以上の断裂」を指します。

腱板断裂が起こる原因のほとんどは肩峰下インピンジメントであり、肩を挙上する際に上腕骨頭と肩峰の間で腱が挟み込まれることで損傷します。

そのため、肩の上げ下げを繰り返す仕事で発生しやすく、日常的に多く使用しやすい利き腕に好発するのが特徴です。

筋力の低下や腱の柔軟性が失われた中年以降に発生しやすく、力仕事が多い男性に起こりやすくなります。(男62%:女38%)

屍体を用いた腱板断裂の発生率に関する臨床研究では、高齢者の発生率は約40%で、その内の約20%は棘上筋腱の完全断裂と報告されています。

腱板は1度断裂すると自然治癒は望めないため、加齢に伴って受傷者数は増加していきます。

棘上筋腱が完全に断裂していても肩を挙げることができる場合が多いため、活動性の低い高齢者では手術はせずに保存的に治療していきます。

AHIの狭小化について

腱板断裂の確定診断には、MRI検査や超音波検査が有効で、腱板に断裂像がないかを確認していきます。

単純X線写真においても、肩峰骨頭間距離(AHI)の短縮や肩峰の骨棘が認められる場合は、腱板断裂を強く疑うことができます。

ただし、AHIの狭小化(6㎜以下)は部分断裂や完全断裂では起こらず、広範囲断裂のみに発生することが報告されています。

理由としては、棘上筋よりも棘下筋や肩甲下筋が上腕骨頭を下方に引きよせる作用があり、三角筋の張力と拮抗しているからです。

フォースカップル作用は非常に重要であり、腱板に機能不全が生じたり、三角筋が優位になると肩関節挙上時に上腕骨頭が上方に変位します。

そうすると肩峰下インピンジメントを発生させる原因となり、腱板断裂を起こすことにつながります。

腱板断裂は三角筋の上から触診することも可能で、指先にデーレ(陥凹)を確認することができます。

デーレの触診方法

徒手的検査法

1.ドロップアームテスト
意義)腱板断裂の判定
方法)他動的に肩関節を90度外転させ、手のひらを下に向けた状態にし、その位置から検者は手を離し、患者にゆっくり降ろすよう指示する
判定)患者が腕をゆっくり降ろせなかったり、脱力感を伴って上肢が降下すれば陽性
2.ペインフルアークサイン
意義)肩峰下インピンジメントの判定
方法)自動的に肩関節を外転するよう指示する
判定)外転60-120度の範囲でのみ肩の痛みが生じた場合は陽性

関節内インピンジメントとの鑑別

肩峰下インピンジメントと類似した症状に関節内インピンジメントがありますが、ここを鑑別することは治療を行うために非常に重要です。

前述したように、肩峰下インピンジメントは上腕骨頭と肩峰が最も接近する角度である外転60〜120度で痛みが生じます。

外転120度を超えると圧迫が解除されて疼痛は消失し、腱板断裂のみでは可動域制限は起こらないので正常可動域まで挙げることが可能です。

それに対して、関節内インピンジメントは最終可動域で発生することが特徴で、拘縮が存在していることから可動域制限が認められます。

関節内インピンジメントが起こる原因を理解するためには、トランスレーション理論を知る必要があります。

簡単に説明すると、関節周囲に硬さがあると関節を動かしたときに骨頭が硬くない側にブレて、骨頭と関節窩の間で関節唇などが挟み込まれて痛みが生じる現象をいいます。

臨床的に多いケースとしては、棘下筋や後方関節包が硬くなっていることで結帯動作や水平屈曲運動に制限をきたしやすいです。

その場合は上腕骨頭が前方にブレてインピンジメントを起こすため、肩関節前方に痛みを訴えることになります。

小円筋や後下方関節包が短縮している場合は、肩関節の最終屈曲位で挙上制限をきたすことにつながります。

肩峰下インピンジメントは前方組織が硬いことが問題なのに対して、関節内インピンジメントは主に後方組織の硬さが原因であることが多いです。

腱板炎との鑑別

ドロップアームテストが腱板断裂の判定に用いられることは前述しましたが、断裂が存在しなくても陽性となる場合があります。

それは腱板や肩峰下滑液包に強度の炎症が存在するときで、その場合は痛みで筋出力が発揮できないために起こります。

炎症が原因の場合は、ステロイド注射で疼痛が消失するため、実施後は上肢の保持や外転が問題なく行えるようになります。

もしも純粋に腱板断裂による筋力低下が原因の場合は、注射後もドロップアームテストは陽性となってしまいます。

リハビリテーション

腱板断裂(肩峰下インピンジメント)を起こしやすい人の特徴として、①上腕骨外旋の不足、②前・下方関節包の短縮、③三角筋の優位が挙げられます。

肩甲上腕関節の外旋を制限する因子としては、以下の表を参考にしてください。

肩峰下インピンジメントは主に肩峰と大結節が衝突することで起こりますが、衝突を避けるためには上腕骨の外旋が必要です。

そのため、外旋を制限する収縮組織及び非収縮組織の柔軟性を獲得することが治療をしていくうえで重要となります。

下方関節包の短縮については、最も肩峰下インピンジメントを起こしやすい外転運動でさらに接触圧を高めてしまいます。

腱板断裂などが原因で腱板が正常に機能していない場合は、三角筋が優位に働くことになり、前述したフォースカップル作用が働かずに上腕骨頭が上方偏位してしまいます。

これらの問題を解決するためには、①筋・筋膜のリリース、②関節モビライゼーション、③腱板トレーニング、④自動介助での外転運動を行います。

まずは筋・筋膜のリリースですが、筋緊張を緩和させるためにはマッサージや筋膜マニピュレーションが有効です。

肩甲下筋や小胸筋、烏口上腕靱帯などを中心にリリースしていくことで上腕骨外旋の動きを引き出していきます。

関節モビライゼーションは、前方関節包や前下方関節包を中心に伸張していきます。

前方関節包を伸ばすためには、背臥位にて上腕骨頭を外旋位で保持し、骨頭を前方に持ち上げるようにしてグイグイと伸ばしていきます。

前下方関節包を伸ばすためには、背臥位にて肩関節を約90度外転位に保持し、骨頭を下方に押し込んでグイグイと伸ばしていきます。

腱板トレーニングで最も重要なのは棘下筋であり、棘下筋が機能していない状態で肩関節を外旋させると三角筋後部が優位に働き、骨頭が上方変位して痛みや軋轢音が生じます。

そのため、可能な限りに棘下筋は促通させることが重要であり、タッピングなどの刺激を加えながら収縮運動を実施していきます。

これらの問題を十分に改善させたうえで引っかかりのない肩関節挙上運動を学習する必要があり、その方法として、側臥位にて上腕骨を外旋誘導しながらの自動介助運動を反復します。

その際に広背筋の緊張が入りやすいケースが多いので、広背筋腱に圧迫を加えながら実施すると痛みも少なくできるはずです。

就寝時のポジショニングについて

腱板損傷の症例では夜に痛みで目が覚めたり、朝起きたら肩が痛くなるといった訴えが多く聞かれます。

原因としては、小胸筋の緊張亢進にて仰臥位で上腕骨頭が前方突出し、結果的に肩関節が伸展位に保持されます。

伸展位になると烏口肩峰弓下間隙が狭小化し、肩関節の血流が乏しくなって虚血状態を起こします。

対処法として、就寝時は上腕骨の下にタオルを置き、肩関節と肘関節が軽度屈曲位となるようにポジショニングします。

 

肩関節の安楽姿勢:仰臥位1
肩関節の安楽姿勢:側臥位1

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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