肩腱板断裂のリハビリ治療

腱板とは

  • 上腕骨頭を包み、骨頭を関節窩へ求心化して安定させる腱の総称。

  • 構成:①肩甲下筋 ②棘上筋 ③棘下筋 ④小円筋。

  • 肩甲下筋と棘上筋の間には腱板疎部(上腕二頭筋長頭腱が走行)。

どこが切れやすい?

  • 最多:棘上筋腱 → 次いで棘下筋腱、肩甲下筋腱。小円筋はまれ。

  • 「完全断裂」=通常は棘上筋腱の完全断裂を指す。

  • 「広範囲断裂」=棘上+棘下 1/3 以上の断裂。

主な発症機序

  • 肩峰下インピンジメントが中心。反復挙上作業・利き腕に多い。

  • 中年以降、筋力低下や腱の劣化でリスク上昇(男性にやや多い)。

  • 一度断裂すると自然修復は期待しにくい

インピンジメントを招く要因

  1. 上腕骨外旋の不足(大胸筋・広背筋・大円筋・肩甲下筋の過緊張/前方関節包・烏口上腕靱帯の硬さ)。

  2. 烏口上腕靱帯の滑走不全(小胸筋と連結しやすく癒着を起こしやすい)。

  3. 表層筋(三角筋)優位で腱板の求心化が負ける。

フォースカップルの破綻

  • 三角筋=骨頭を上方へ引く力

  • 腱板群=骨頭を下方へ牽引+求心化

  • 腱板機能不全/三角筋優位 → 上方偏位 → インピンジメント

画像所見と診断の勘所

  • MRI/エコーで断裂像を確認(T2高信号=液体貯留)。

  • 単純X線:肩峰骨頭間距離(AHI)短縮や肩峰骨棘で疑う。

    • AHI**≦6mmの狭小化は広範囲断裂で生じやすい**。棘上筋単独では狭小化しにくい(棘下・肩甲下の下方牽引が弱まると狭小化が起こる)。

症状の特徴

  • 運動時痛より夜間痛を主訴に受診する例が多い。

  • 仰臥位で上腕骨頭が前方へ出やすく、肩関節が伸展位となり間隙が狭くなる → 虚血性疼痛

夜間のポジショニング

  • 仰臥位:肘下にタオルを入れ肩・肘を軽く屈曲

  • 側臥位:患側を上にし、抱き枕で内転・伸展を避ける。

保存と手術の考え方(概略)

  • 活動性が低い高齢者:保存療法が第一選択(鎮痛・可動域・腱板筋力)。

  • 高作業/スポーツ負荷で機能制限が強い場合:手術(縫合・再建)を検討。

  • いずれも再発予防の運動学的指導が鍵。

リハビリの実際(保存・術後共通の基本)

  • アライメント調整

    • 小胸筋・肩甲下筋・烏口上腕靱帯周囲の組織リリース

    • 上位胸椎伸展・肩甲骨後傾/内転の獲得。

  • 腱板トレーニング

    • とくに棘下筋の外旋筋力とタイミング。

    • 三角筋の過活動を避け、骨頭の求心化を意識。自動介助にて肩関節外転運動を反復する。

  • 安全な外転運動の反復

    • 側臥位で外旋誘導しつつ外転。外転90°までは肩甲骨の上方回旋を抑制的にガイド。

  • 日常動作指導

    • 高所作業:踵上げ・台の使用で挙上角度を減らす。

    • 重量物は体幹へ近づけて抱える。腕だけで踏ん張らない。


よくある質問(Q&A)

Q1. 断裂しても腕を上げられるのはなぜ?
A. 三角筋など表層筋で代償できるためです。ただし骨頭の上方偏位が起こりやすく、痛みや摩耗の温床になります。

Q2. 断裂は自然に塞がりますか?
A. 腱板は血流が乏しく自然治癒は基本的に期待できません。痛みの軽減と機能維持は保存療法で可能なことも多いです。

Q3. どの運動が安全ですか?
A. 外旋を伴う軽負荷の外転や等尺性での腱板収縮の練習が有用。痛みを誘発する高挙上や反復的な上方作業は回避します。

Q4. 夜間痛が強いときのコツは?
A. 肩・肘を軽屈曲位に保ち、抱き枕やタオルで内転・伸展を避ける。寝具を高めにし頭頸の前方突出を抑えるのも一案。

Q5. 画像でAHIが狭い=必ず断裂ですか?
A. いいえ。骨形状や姿勢の影響も受けます。MRI/エコーでの確認と臨床所見の総合判断が必要です。

Q6. 予防できますか?
A. 胸椎伸展・肩甲骨後傾、外旋可動域の維持、腱板優位の運動制御(三角筋過活動を抑える)でリスクを下げられます。


最終更新:2025-10-05