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肩関節脱臼のリハビリ治療


肩関節脱臼のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

肩関節脱臼の概要

肩関節は全関節脱臼の50-85%を占めており、最も脱臼しやすい関節となっています。肩関節脱臼のほとんどは前方脱臼であり、その割合は95%以上です。

肩関節は広い可動域を有する反面、骨性支持に乏しく不安定になりやすい状態にあります。

そのため、転倒などの外力によって外転・外旋・水平伸展を強制された際に骨頭が関節窩に対し求心位を保つことができなくなり、前方脱臼を起こします。

スポーツでの外傷発生が多く、①ラグビー、②柔道、③レスリングの選手に頻発します。

肩関節の構造

Bankart損傷と再発率

初回前方脱臼患者の97%にBankart損傷がみられ、その全例において下関節上腕靭帯複合体損傷が認められたとの報告があります。

Bankart損傷とは脱臼によって起こった、肩甲骨にある関節唇の前下方部分の剥離損傷のことです。

関節唇は、関節窩の深さを高めて、関節の安定化に貢献します。関節唇があるおかげで、深さは縦で60%、横で120%も増加するといわれています。

Bankart損傷

上記でも述べましたが、肩関節は骨性支持に乏しいため、骨頭を固定するための安定化機構が破綻しやすい状況にあります。

一度でも脱臼してBankart損傷を起こすと、反復性脱臼のリスクが非常に高くなります。

その移行率は、20歳以下では66-100%、20-40歳では13-63%、40歳以上では0-16%と、初回脱臼年齢が低いほど発生率が高くなる傾向にあります。

肩関節

肩関節の安定化機構

肩関節には、関節包や関節唇などにて安定化をはかる「静的安定化機構」と、三角筋や上腕二頭筋、回旋筋腱板などにて安定化をはかる「動的安定化機構」が存在しています。

これらの2つの安定化機構によって、不安定性を補いながら骨頭を一定の方向に制動しています。

1.静的安定化機構
関節包(靱帯) 関節上腕靱帯は関節包が部分的に肥厚したもので、骨頭の変位を制動する
関節唇 関節窩の周囲を取り巻く線維軟骨性のリング。関節窩の深さの50%は関節唇が担っている
関節窩の傾斜 関節窩は垂線に対して約5度上方へ傾斜しており、靱帯と共同で骨頭の下方変位を制動する
関節腔の内圧 関節腔の内圧は陰圧であり、これが骨頭と関節窩の間の吸引力として働く
2.動的安定化機構
回旋筋腱板 回旋筋腱板により生じる筋力は、上腕骨頭を中心に向け、関節窩に安定させるように働く
その他の筋 三角筋は各方向に、上腕二頭筋長頭は外転・外旋位での前方安定性に寄与する

回旋筋腱板による安定化機構

回旋筋腱板(単に腱板とも呼ぶ)を構成する筋肉は、①棘上筋、②棘下筋、③小円筋、④肩甲下筋の四つになります。

下図を見ていただくとわかりやすいですが、これらの筋肉は上腕骨頭を囲むように付着しており、肩関節を安定化させるために貢献しています。

関節唇の剥離と同様に、腱板機能が低下することでも脱臼を起こすリスクは高くなります。

肩関節腱板

関節の不安定性が起こる理由

関節に不安定性が生じる原因として、①形態的な破綻、②器質的な緩み、③組織のアンバランスがあります。

正常な関節 器質的な破綻
関節包の短縮と肩の不安定性① 関節包の短縮と肩の不安定性④|形態的な破綻
器質的な緩み 組織のアンバランス
関節包の短縮と肩の不安定性③|器質的な緩み 関節包の短縮と肩の不安定性②|アンバランス

肩関節の安定化機構に関わる組織が器質的な破綻や緩みを起こすと、肩関節が不安定になるということは容易に理解できるはずです。

しかし、組織のアンバランスが不安定性を生むというのは少し理解しにくいので補足説明していきます。

例えば、野球肩では後方の関節包が短縮しやすいのですが、その状態では投球時に上腕骨頭を内旋させるときに長さが足りなくなります。

そうすると、上腕骨頭は内旋ができずに前方に向かう力が働き、結果として、腱板疎部が損傷して肩関節の前方への不安定感が増すことになります。

簡単にまとめると、関節包が硬いと骨頭は反対側にぶれてしまい、緩いほうへの負荷や不安定性が増加してしまいます。

肩関節脱臼の整復方法

ゼロポジション挙上法では、一人が患者の上腕骨頭を固定し、もう一人が腕を上方に引っ張り上げていきます。伸張していると徐々に周囲筋の緊張が緩んでいって整復されていきます。

スティムソン法では、患者にベッド上で腹臥位となってもらい、患側上肢を下に垂らしてもらいます。肘上あたりに重錘を取り付けて、しばらく伸張していくと筋群が緩んで整復します。

ゼロポジション挙上法 スティムソン法
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脱臼の合併症

1.旧性脱臼

旧性脱臼とは、脱臼が整復されずに放置されたものです。関節包の損傷部は瘢痕化し、逸脱した関節端と癒着します。

さらに関節周囲の筋群も線維化し、その機能を失うことになります。治療には、観血的整復術が必要となります。

2.反復性脱臼

反復性脱臼とは、外傷脱臼を契機に比較的軽度の外力や関節運動によって、当該関節が繰り返し脱臼するようになった状態をいいます。

肩関節に高頻度に発生します。多くの場合、初回脱臼時に損傷された上腕骨頭、関節窩、関節唇が修復されずに陳旧化していることが原因となります。

3.神経麻痺

前方脱臼では、脱臼方向に腋窩動静脈や腕神経叢が存在し、脱臼位の骨頭によって強い圧迫や伸展を受けます。

速やかな整復によって神経や血管の圧迫、伸展は除去されますが、神経麻痺は約50%と高確率に発生します。麻痺は高齢者に生じやすく、特に腋窩神経麻痺が多いです。

内旋固定と外旋固定

受傷後の保存療法に関して、従来の内旋位固定(三角巾)では再脱臼率を減少させるという報告は少ないのが現状です。

近年では、剥離部を圧着できる下垂位外旋固定により再脱臼率が減少したとの報告もあり、外旋位固定に注目が集まっています。

肩関節外旋位では、骨頭を関節窩に押し付けた肢位のため、損傷した関節唇などの治癒を促す効果があると考えられています。

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固定方法別の治癒率

バンカート病変の治癒率は内旋固定で20.8%、装具による外旋固定で65.2%と報告されています。

また、24か月後にスポーツ復帰できたのは外旋固定で83.8%、内旋固定で31.5%です。

このことからも、再脱臼の予防や肩関節の安定性には、バンカート部は極めて重要な働きを担っていることがわかります。

運動療法として、腱板機能訓練や肩甲骨を含めた協調性訓練の必要性は指摘されつつも、再脱臼の予防に有効とされる運動療法の報告はほとんどありません。

不安定性の残存によりスポーツ動作等に支障をきたす場合は、Bankart病変を再接着させる手術が最も効果的とされています。

また、弛緩した関節包の緊張を元に戻す手術や脱臼方向に関節外から補強を加えるような手術が実施される場合もあります。

鏡視下Bankart修復術について

鏡視下Bankart修復術は反復性肩関節脱臼に対して最も多く行われている術式です。

後方ポータルから関節内を鏡視し、前方に作成した2ヶ所のポータルから手術器具を挿入してBankart損傷を修復していきます。

肩関節窩|Bankart損傷

スーチャー・アンカーを3,4本ほど関節窩辺縁に打ち込んで固定し、アンカーと一体化している縫合糸を用いて、剥離した靱帯に緊張を持たせて縫合固定していきます。

縫合部が本来の強度を有するまでには3,4ヶ月を要し、元の競技レベルに復帰するためにはさらに3-6ヶ月程度かかります。

肩関節窩|Bankart修復術

リハビリテーション

文献等より考慮すると、脱臼後に損傷した関節包が治癒する期間(約3週)は下垂位外旋固定装具を装着して安静を保ちます。

その後、動的安定機構を司る周囲筋の強化を集中的に実施することが望ましいと報告されています。

具体的には、上腕骨頭の前方偏位を防ぐために、肩甲下筋の筋力強化と後方関節包の柔軟性改善が治療の第一選択になります。

しかし、エビデンスのある脱臼に対する治療法は乏しいのが現状であり、ケースに合わせて対処することが求められます。

バンカート修復術後の流れ

期間 内容
0-4週 振子運動、自動運動
4-6週 スリング除去、背臥位で肩屈曲140度/外旋45度まで(自動・他動)
6-12週 段階的にROM拡大、筋力強化は肩関節90度以下で実施
12週以降 積極的な筋トレを許可
6か月後 スポーツ復帰

治療のポイント

反復性肩関節脱臼はそのほとんどが特定の肢位で不安定性を呈するため、体幹や肩甲胸郭関節の機能を向上させて肩甲上腕関節にかかる負担を吸収させます。

肩甲胸郭関節の機能は姿勢からの影響を強く受けるため、下肢や体幹の機能改善も間接的に肩関節の安定性を向上させます。

回旋腱板筋トレーニングの方法

1.肩関節外旋(棘下筋/小円筋)
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【方法】肘関節を90度屈曲位にて脇にタオルを挟み、落ちないように注意しながらチューブを外側に引っ張る運動を反復します。
2.肩関節内旋(肩甲下筋/大円筋)
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【方法】肘関節を90度屈曲位にて脇にタオルを挟み、落ちないように注意しながらチューブを内側に引っ張る運動を反復します。
3.肩関節外転(棘上筋)
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【方法】肩甲棘と上腕骨軸が適合する「scapular plane」上(前額面より約30-45度前方に位置した面)で外転運動を実施します。

肩甲帯固定訓練の方法

1.ボールを壁に押しつける
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【方法】上肢で壁にゴムボールを押しつけて、上下左右に動かしていきます。
2.四つ這いで肩甲骨を操作する
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【歩法】四つ這いにて肘関節を伸展させ、体重を上肢に乗せながら身体を前後左右に動かしていきます。
3.ダンベルを使用した肩甲帯トレーニング
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【方法】背臥位にてダンベルを握り、肩関節を90度屈曲します。その姿勢から、さらに上方に突き出します。前鋸筋、小胸筋を強化します。

胸郭のストレッチング

胸椎及び胸郭の柔軟性を向上させるために、背部の肩甲骨下角あたりに枕やクッションを置き、胸椎の前彎を強調するようにします。

その際に、施術者が肩上方から圧を加えることで、より強力的にストレッチすることも可能です。

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手を肩のラインに置いて床に膝立ちし、指を前に向け、膝が股関節の下になるように四つ這いになります。

背中を丸めて上に上げ、頭を前に下ろし、腹部を押し上げます。続けて、頭を上に挙げ、骨盤を下に傾け、脊椎を前彎するように反らしていきます。

 脊椎を後彎する  脊椎を前彎する
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生活指導(禁忌姿勢)

術後3ヵ月間までは、肩甲骨の線よりも後ろで手を使う動作は禁忌になります。

具体的には、手を後ろについて体を支えたり、ブラジャーのホックを付ける動作なども控えるべきです。以下にとりがちな姿勢を掲載していますので、注意してください。

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参考資料/引用画像


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在はフリーランスとして活動しています。詳細はコチラ
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