胸郭出口症候群のリハビリ治療

胸郭出口症候群の概要

胸郭出口症候群(thoracic outlet syndrome:TOS)冷感や鈍痛が発生するのも特徴です 。 病態は力学的ストレスによって以下の3つに大別され、臨床ではこれらが複数組み合わさった**「混在型」が約75.4%**を占めるとされています 。

  • 圧迫型(18.7%):主にいかり肩などで隙間が狭くなり生じる
  • 牽引型(6.1%):なで肩などで神経が引っ張られて生じる
  • 混在型(75.4%):複数の部位で圧迫と牽引の両方が関与する

腕神経叢と血管が通過する3つの「トンネル」(絞扼部位)

圧迫部位
解剖学的位置と構造
主なメカニズムと特徴
① 斜角筋隙
(斜角筋症候群)
前壁が前斜角筋、後壁が中斜角筋、底面が第1肋骨で構成される三角空間
デスクワーク等で頸部疲労が蓄積し斜角筋が過緊張すると、第1肋骨が引き上げられてトンネルが狭小化します腕神経叢と鎖骨下動脈が通過しますが、静脈は通らないため神経症状が優位となります
② 肋鎖間隙
(肋鎖症候群)
上面が鎖骨、底面が第1肋骨で構成される骨性トンネル
**なで肩(鎖骨の下制)**や、上肢挙上による鎖骨の後方回旋によって隙間が狭くなり、腕神経叢と鎖骨下動静・静脈が絞扼されます。神経障害に加えて静脈うっ滞や腫脹が出やすくなります
③ 小胸筋下間隙
(過外転症候群)
上面が小胸筋、底面が烏口鎖骨靭帯などで構成される線維性トンネル
上肢を挙上(外転)すると、腕神経叢などがこのトンネルを支点として方向を変えるため、強い負荷がかかります。洗車やつり革に捕まる動作などで発症しやすくなります

胸郭出口症候群|斜角筋隙

胸郭出口症候群|肋鎖関節

胸郭出口症候群|小胸筋下間隙

腕神経叢の分岐パターンと絞扼部位③

※10〜20%の割合で、第7頸椎の横突起が伸びた「頸肋(けいろく)」という骨の異常が存在し、それが圧迫の原因になることもあります。


姿勢(アライメント)と症状の関係

TOSの発症には、不良姿勢が密接に関与しています。

  • なで肩(牽引型):鎖骨が下制し、肩甲骨が「外転・下方回旋・前傾」した状態です。重力によって上肢が下方に引き下げられる力に過剰に拮抗するため、腕神経叢に強い「牽引力」が加わり発症します。胸椎の過後弯(猫背)や頸椎の前弯減少を伴うことが多いです
  • いかり肩(圧迫型):鎖骨が挙上し、肩甲骨が上方回旋・内転位となります。この姿勢では斜角筋隙が狭小化し、腕神経叢への「圧迫力」が増加します

臨床像と主な徒手検査法(誘発テスト)

画像診断だけでなく、症状を再現・軽減させる徒手検査が極めて重要です。

  • Morleyテスト:鎖骨上窩を圧迫し、局所の痛みや放散痛をみる
  • Adsonテスト:頸部を患側に回旋・伸展して深呼吸させ、橈骨動脈の拍動減弱をみる(斜角筋の関与)
  • Edenテスト:胸を張らせて両肩を後下方へ牽引し、脈拍減弱をみる(肋鎖間隙での圧迫)
  • Wrightテスト:肩関節を外転・外旋させ、脈拍減弱をみる(小胸筋下間隙の圧迫)
  • Roosテスト:Wrightテストの肢位で手指の屈伸を3分間行い、疲労感やしびれの出現をみる
  • 肩引き下げテスト:肩甲骨を下方に牽引して症状が増悪するかをみる(牽引型の判断に重要)

治療とリハビリテーションの戦略

保存療法(リハビリテーションなど)が第一選択となります。手術は保存療法が無効な場合や、頸肋などの明らかな器質的要因がある場合に検討されます。

1)  牽引型(なで肩・不良姿勢)へのアプローチ

牽引型TOSの治療目標は、肩甲骨を正しい位置(内転・上方回旋・後傾位)に矯正し、腕神経叢を弛緩させることです。

  • 前胸部の柔軟性改善:小胸筋や前斜角筋などの短縮は肩甲骨の不良姿勢(前傾など)を助長するため、リラクセーションやストレッチを優先して行います
  • 固定筋の機能改善(筋力強化):肩甲骨を良い位置に保持するため、僧帽筋(中部・下部線維)や菱形筋群の筋力強化が不可欠です

2) 圧迫型(いかり肩)へのアプローチ

  • 斜角筋群のリラクセーション:前斜角筋や中斜角筋の緊張を緩和し、斜角筋隙での圧迫力を軽減します。斜角筋のトリガーポイント治療も有効とされる場合があります

3) 共通のアプローチと日常生活指導

  • 頸椎の可動性改善:頸椎の回旋可動性低下が神経の絞扼を助長することがあるため、頸椎の動きを引き出すアプローチも重要です
  • 日常生活の指導
    • 牽引型:重いショルダーバッグを避ける、肩甲骨を引き上げるよう意識する。
    • 圧迫型:長時間のデスクワーク等での前方頭位(頭が前に出る姿勢)を避ける。
    • 過外転症候群:長時間のつり革把持や、頭上での作業を避ける

Q&A

Q. 胸郭出口症候群は自然に治りますか?
A. 軽症例では姿勢改善や適切なリハビリテーション(筋力強化やストレッチ)で改善することが多いですが、放置すると慢性化しやすいため、専門的な評価と治療が必要です 。

Q. 神経が障害されるとどうなりますか?
A. 手指のしびれや冷感、痛みのほか、進行すると筋萎縮(母指球や小指球など)が出現し、握力の低下や物をつかみにくくなる運動障害が起こります 。

Q. 手術はよく行われますか?
A. 基本的には保存療法が中心です。しかし、頸肋などの骨異常がある場合や、保存療法を続けても強い痛みや筋萎縮が改善しない少数の重症例に対しては、第1肋骨切除術などの手術が検討されます 。


最終更新:2026-07-27