脊椎圧迫骨折のリハビリ治療について解説していきます。
脊椎圧迫骨折の概要
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陳旧性を含む脊椎圧迫骨折の有病率は、60歳代で7-14%、70歳代で37-45%となっており、高齢者には非常に身近な骨折となっています。
腰が曲がっている高齢者のほとんどは、圧迫骨折にて背骨が潰れていることが原因のため、どれだけ多いかが容易に理解できるはずです。
骨折の発生には骨密度の低下が深く関わっているため、男性より女性の方が発生しやすく、約2倍程度とされています。
好発部位は胸腰椎移行部(Th12とL1)であり、次いでL2、L3、L4、Th11,Th10となっています。
病状経過
脊椎圧迫骨折は骨粗鬆症を基盤として発症することが多く、外傷などによって骨傷や微小骨折が生じることで起こります。
骨折が起こると激しい痛みを伴うことが予想されますが、実際には圧迫骨折の発生初期に痛みを伴うことは少ないと考えられています。
理由としては、骨内部(皮質骨の深層や海綿骨)には神経が分布していないため、内部にヒビが入っても痛みを感じることがないためです。
しかしながら、骨外部(骨膜)には神経が豊富に分布しているため、骨膜に損傷が起こると最高レベルの痛みが襲ってくることになります。
多くの場合は最初に骨内部に問題が起き、そのヒビが骨外部に波及するようにして進行するため、痛みの多くは2〜3日後に起こります。
もちろん受傷時に骨膜を損傷したケースでは受傷直後より疼痛が発症しますが、そのケースはわずかに16%と報告されています。
受傷後の治療
病院を受傷してくる患者のほとんどは激しい痛みが起きてからであり、損傷から数日ほどのタイムラグが存在しています。
圧迫骨折による椎体の圧潰は、受傷から10日後までがピークとなり、受傷6週までは進行しやすい状態が続きます。
このことを考慮して、骨折後の約1ヶ月は体幹ギプス固定とし、可能なら入院にて安静を保つようにします。
固定から1ヶ月後に骨癒合が進展しているようなら、硬性コルセットに変更し、自宅への退院が可能となります。
離床時期については様々な見解がありますが、胸腰椎移行部の骨折は圧潰が非常に進行しやすいので、食事とトイレ以外は2〜3週間のベッド上安静が推奨されています。
それ以外では早期離床が可能ですが、これは高齢者の場合はベッド上安静によるデメリットのほうが強いためです。
このことを考慮し、早期離床する場合は廃用症候群が進行しない最低限のレベルに止めることとし、患者毎に活動量は決めることが必要です。
圧迫骨折を引き起こす圧力
脊椎圧迫骨折を引き起こす圧力は、若者では800㎏程度ですが、高齢者では150㎏以下であり、骨粗鬆症を伴う場合はさらに小さい圧力で発生します。
なので、転倒などの具体的なエピソードがないまま、突然に発生しているケースも非常に多く見受けられます。
もちろん、なにもないのに圧迫骨折をきたしたとは考えられにくいため、痛みが出現する前の生活状況などを詳しく聴取しておくことが今後の予防策を考えるうえでも重要となります。
椎体骨折を起こしてしまうと、隣接椎体の骨折リスクは骨折がない場合より5倍ほど高くなるため、再骨折を起こさせないことが大切です。
発生部位によって安静度が異なる
胸腰椎移行部(Th12とL1)の骨折は圧潰が進展しやすいため、通常よりも長めに安静臥床することが必要であることは前述しました。
その理由として、胸腰椎移行部は最大前屈位で生来の後彎が増強し、最大後屈位でも前彎位をとりません。
よって、胸腰椎移行部には常に椎体前方へ圧迫が加わることになり、他の部位に比べて椎体圧潰が強く、楔状変形のリスクが高くなります。
それに対して、下部腰椎は可動域が大きいですが後彎位になりにくいため、一般的に楔状変形は起こりにくくなります。
圧迫骨折の簡易的な診断方法
- 骨粗鬆症の有無
- 急性の背部痛
- 起居動作時の疼痛
- 骨折棘突起に一致した強い叩打痛
上記の四つが当てはまる場合は、圧迫骨折の可能性が高いです。
画像診断
1.単純X線画像(レントゲン写真)
レントゲンでは急性期の圧迫骨折を見分けることは難しく、陳旧性との区別も専門家でない限りはほとんど判別できません。
しかしながら、椎体の圧潰度などは定量的に評価が可能なので、経過を追いながら撮影していくことが望まれます。
椎体の透過性をみることで骨粗鬆症(骨密度の低下)の進行度がある程度にわかるため、そのあたりに注目してから診ることも必要です。
2.MRI画像
圧迫骨折の確定診断はMRIが有用であり、骨折部には明確な信号変化がみられるので見落とすことはまずありません。
しかし、急性期には信号がまだ出ていない場合も度々みられます。
その場合は、さらに一週間ほど時間を空けて撮影してみると、綺麗に信号変化が現れる場合が多いです。
脊椎圧迫骨折を判定する方法
レントゲン写真を用いて、椎体骨折を判定する方法として、定量的評価法(QM法)と半定量的評価法(SQ法)のふたつがあります。
それぞれの判定方法と、メリットやデメリットについて解説します。
定量的評価法
QM法(Quantitative Measurement)は、脊椎のレントゲン写真を用いて、椎体の圧潰率を確認する方法です。
椎体を前縁(A)、中央(C)、後縁(P)の三箇所に分けて、それぞれの圧潰率を計算していきます。
扁平椎に関しては、A・C・Pの全てが圧潰していますので、上位または下位椎体と比較して計算することになります。
下位にいくほど椎体は大きくなりますので、それを考慮しながら、どちらと比較したかまで記載することが求められます。
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メリット | 変化を数値で捉えることができる |
デメリット | 計測が必要なために評価に時間を要する |
レントゲン写真を撮影時のポジショニングの影響を受けやすい | |
椎体の形態的変化がなくても椎体骨折と診断される場合がある | |
一部の治験を除いてほとんど実施されていない |
半定量的評価法
SQ法(Semiquantitative Method)は、脊椎のレントゲン写真を用いて、椎体窩と椎体面積の減少率を目視で確認する方法です。
見るだけで直感的に評価できるため、QM法のように時間をとられることもありません。
また、簡便にも関わらず信頼性は確認されており、現在ではほとんどの臨床場面でSQ法が使用されています。
判定はグレード0から3で実施し、グレード1以上で椎体骨折と判定します。
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メリット | QM法と比較して簡単に評価ができる |
QM法ほど患者のポジショニングや画像の拡大率が影響しない |
デメリット | グレードによる判定のために軽微な進行はわからない |
直感的に判断するために読影トレーニングを要する | |
グレード0と1の判定に苦慮する場合が多い |
脊椎の読影はより重要となる
高齢者において、明確な脊椎圧迫骨折をきたしたことがない場合でも、椎体の圧潰が進行しているケースは非常に多いです。
骨粗鬆症の診断基準(2012年度版)では、脆弱性椎体骨折の既往があれば骨密度の値に関係なく骨粗鬆症の診断が確定できるようになりました。
具体的には、転倒などの普通は折れるほどではない外力で大腿骨近位部骨折や椎体骨折をきたした場合は、その時点で骨粗鬆症となります。
それ以外の部位に脆弱性骨折をきたした場合は、骨密度を検査してYAMの80%未満で骨粗鬆症となります。
脆弱性骨折をきたしていない場合でも、骨密度のYAMが70%未満で骨粗鬆症となり、薬物療法を開始することが強く推奨されています。
手術療法/薬物療法
手術適応の場合
- 不安定性が残存する症例
- 椎体圧潰率50%以上
- 20°以上の後弯変形の症例
- 脊髄・馬尾神経症状のある症例
- 膀胱直腸障害のある症例
手術の効果
経皮的椎弓根的に椎体内圧を減圧する方法では、疼痛は顕著に軽減され80%以上で1週間以内に歩行が可能となったという報告もあります。
また、減圧術による合併症は特にないとされています。
セメントを注入する方法 | 金具で固定する方法 |
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薬物療法の効果
骨粗鬆症と診断された時点で、その全例に薬物療法を開始することがガイドラインで強く推奨されています。
理由としては、生存率が落ちる、他の椎体骨折を起こしやすい(大腿骨近位部骨折の場合は対側が折れやすい)からです。
以下の表は、ガイドラインに掲載されている骨粗鬆症治療薬の有効性の評価一覧です。
骨粗鬆症治療薬は数多く存在していますが、椎体骨折の再発に対して効果があるとされている評価Aの薬剤を選択すべきです。
評価Aの薬剤はいくつか存在していますが、さらに具体的に書くと骨形成促進剤であるテリパラチドから開始してください。
理由としては、先に骨吸収抑制剤であるビスホスホネート製剤から開始してしまうと、薬をやめたときに骨密度が急激に低下してしまうからです。
そのため、骨吸収抑制剤の効きが悪くなったからという理由で骨形成促進剤にスイッチしても、骨密度の低下を防ぐことができません。
反対に骨形成促進剤を先に使用した場合は、途中で中止しても骨密度の低下は起こらないため、そこからスイッチしても問題は生じません。
テリパラチド薬は日本での投与期間上限(2年間)が限られているため、できる限りに骨形成促進剤を最初に続けてください。
薬剤 | 商品名 | 効果 | 副作用 |
テリパラチド薬 | フォルテオ | 骨形成促進、骨密度上昇 | 吐き気、便秘、脱力感 |
テリボン | |||
ビスホスホネート薬 | ダイドロネル | 骨吸収抑制、骨密度上昇 | 胃腸障害、吐き気 |
ボナロン | |||
ベネット | |||
ボノテオ | |||
SERM(選択的エストロゲン受容体作動薬) | エビスタ | 骨吸収抑制、女性限定 | 乳房のはり、ほてり |
ビビアント | |||
活性型ビタミンD3薬 | アルファロール | カルシウム吸収を補助 | まれに高カルシウム血症 |
ロカルトロール | |||
エディロール | |||
ビタミンK2薬 | ケイツー | 骨質の悪化を防止 | ほぼなし |
グラケー |
リハビリテーション
時期別の治療プログラム
1.安静期(強い疼痛が伴う期間で約1-2週間)
方法 | 内容 | ||||||
薬物療法 | 鎮痛薬、骨形成促進薬 | ||||||
装具療法 | 体幹ギプスの装着、硬性コルセットの作成 | ||||||
生活指導 | ベッド上での安静臥床、生活動作の制限 | ||||||
運動療法 | ベッドサイドにて廃用予防トレーニング |
2.ADL拡大期(疼痛が落ち着いてきた約2-6週間)
方法 | 内容 | ||||||
薬物療法 | 骨形成促進薬 | ||||||
装具療法 | 硬性コルセットへの移行 | ||||||
生活指導 | 体幹屈曲動作の制限、歩行量の制限 | ||||||
運動療法 | 離床後のトレーニング |
3.骨癒合後の予防トレーニング(6週以降)
方法 | 内容 | ||||||
薬物療法 | 骨形成促進薬→骨吸収抑制薬 | ||||||
装具療法 | コルセットの離脱 | ||||||
運動療法 | 椎間関節の可動域改善、胸郭の柔軟性向上 |
ベッド上での安静姿勢
骨折部位や年齢によって安静レベルは異なるため、ここではベッド上での安静臥床が必要なレベルに仮定して解説します。
通常、胸腰椎移行部の骨折では2〜3週間の安静臥床が必要となりますが、その時の姿勢もとても大切な要素です。
背臥位では、椎体前方は離開される方向に力が加わるため、骨癒合を促すという意味では不向きといえます。
そのため、背臥位ならベッドを20〜30度ほどギャッジアップすることにより、骨折部を軽く密着でき、骨癒合不全を防ぐことが期待できます。
また、側臥位も臥床姿勢としては有用で、骨折部に離開ストレスが加わりにくいことが挙げられます。
一度潰れてしまった背骨は二度と元に戻らないので、ここでの生活指導や圧潰予防は極めて重要な役割といえます。
安静期の運動と対応
ベッド上での安静時期では、廃用症候群が進行しないように出来る範囲での運動が必要となります。
筋萎縮しやすい部位は概ね決まっており、とくに内側広筋と中殿筋の筋力低下は防ぐことが必要です。
また、臥床中に静脈血栓が起きないようにしっかりと足関節の底背屈運動を実施することも有用です。
ADL拡大期の運動と対応
ベッドからの離床が許可されてからは、歩行車などの歩行補助具を用いて、徐々に歩行量を増やしていくことが必要です。
この時期に痛みが軽いからといって積極的に歩かれる患者がいますが、そういった方は再び骨折が骨膜に波及して激痛を起こします。
たとえ痛みが軽くなっても骨膜より内部は治癒していない可能性が高いため、骨折部の治癒が完了するまでは活動量を上げすぎないように制限を加えることが大切です。
再骨折を予防するためのリハビリ
再骨折を予防するためには、骨折部位のある椎間関節の屈曲を抑えることが必要不可欠といえます。
具体的には、圧迫骨折がある部位より下位の椎間関節(または股関節)の屈曲域を高めることにより、圧迫骨折した部位が過度に屈曲しないように調整していくことが大切です。
例えば、胸腰椎移行部の圧迫骨折はカイホロードシスなどのS字弯曲が強いヒトで起こりやすいですが、腰椎の屈曲モビリティは低下しています。
そのため、腰部脊柱起立筋群(多裂筋も含む)をマッサージしたり、椎間関節モビライゼーションを行うことで屈曲モビリティを引き出します。
反対に胸椎は伸展モビリティが低下しやすいので、胸椎の伸展運動を行うことで脊椎のバランスを整えていきます。