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脊髄損傷のリハビリ治療


脊髄損傷のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

脊髄損傷の概要

脊髄損傷(Spinal Cord Injury)は、交通事故などにより脊柱(脊髄)に強い外力が加わることによって発生します。

病態は脊髄実質の出血、浮腫を基盤とした挫傷と圧迫病変であり、損傷髄節以下に麻痺が出現します。

脊髄を含む中枢神経系は末梢神経と異なり、一度損傷すると再生されることはありません。

頚髄損傷

脊髄損傷の好発年齢

好発年齢は、20代と 50-60代にピークがある 2 峰性となっています。男女差は4:1で男性に多く発生します。

20代ではスポーツやバイク事故などが多く、50代以上では脊柱管の狭窄化を起因とした転落などの事故が多いとされています。

損傷レベル別の割合では、頚髄損傷が63%に対して胸・腰髄損傷は37%、麻痺の状態では、完全麻痺が40.7%に対して不全麻痺は59.3%となっています。

受傷原因(順位)

順位 原因 割合
1位 交通事故 43.7%
2位 高所からの落下 28.9%
3位 転倒 12.9%
4位 打撲・下敷き 5.5%
5位 スポーツ 5.4%
6位 その他 3.6%
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損傷部位と状態

完全麻痺と不全麻痺

脊髄損傷は「完全麻痺」と「不全麻痺」に大別できます。

脊髄ショック期は神経線維が完全に障害されていなくても、浮腫や出血などの循環障害によって完全麻痺を示すので診断が容易ではありません。

早期に完全損傷を推定する条件として、以下の項目が揃っている場合が挙げられます。

  1. 運動麻痺と知覚麻痺の高位の一致
  2. 運動麻痺と知覚麻痺で左右差がない
  3. 鼓腸、水様便の失禁、持続陰茎勃起、早期の褥瘡形成、麻痺域の浮腫
<脊髄ショックとは>脊髄損傷受傷直後に脊髄ショックと呼ばれる時期があり、損傷高位以下の反射の消失、弛緩性麻痺、尿閉、自律神経麻痺による徐脈、血圧低下、低体温が起こします。この症状は数日から数か月ほど続きます。このショック期を過ぎると弛緩性麻痺のままか、屈筋反射から痙性が出現し痙性麻痺となります。不全麻痺の場合は随意運動が回復してくる時期となります。

損傷部位を確定するまでの期間

受傷後に完全損傷を示しても、対麻痺は3週間、四肢麻痺は6週後までは回復の可能性があります。

また、受傷直後に不完全損傷を示すケースでは、6か月後に最終的な損傷程度と高位を決定することが推奨されています。

脊髄障害高位表示法

脊髄の障害部位を記述する場合、人によって解釈が異ならないように高位表示法が用いられます。

たとえば、第6頸髄損傷(C6)とは第6頸髄節の機能は残り、第7頸髄節以下の機能が消失していることを示しています。

高位診断で留意すべきことは、頸髄神経は8対で頸椎は7個であることです。

頸椎では、椎体の上を神経根が出るのに対し、第1胸髄神経根以下はすべて椎体の下から出ていることを理解しておく必要があります。

主要髄節と機能

C1-3

・残存筋:胸鎖乳突筋(C2-3)、僧帽筋(C2-4/副神経)
・横隔膜(C3-5)が働かないため人工呼吸器が必要
・日常生活は全面介助、呼吸でコントロールする電動車イスは可

C4

・残存筋:胸鎖乳突筋(C2-3)、僧帽筋(C2-4/副神経)
・動作可:頭部動作、肩甲骨挙上
・横隔膜が働くため自力呼吸が可能
・車椅子操作は基本介助、口や顎でのコントロールする電動車イスは可

C5

・残存筋:三角筋(C5-6)、上腕二頭筋(C5-6)、回外筋(C5-6)
・動作可:肩外転・伸展・屈曲、肘屈曲、前腕回外
・深部反射:上腕二頭筋出現
・自力での移乗不能、電動車イスと標準型車イスの併用
・寝返りや坐位は自力では不可

C6

・残存筋:長・短撓側手根伸筋(C5-7)、円回内筋(C6-7)
・動作可:手関節背屈・撓屈、前腕回内
・深部反射:腕橈骨筋出現
・手関節背屈の有無は予後に関連、手指機能は不能
・車イス操作はノブつきリムなどで一部介助から自走レベル
・移乗はトランスファーボードで自立も可、坐位でのプッシュアップが可
C6 C6⑦ C6⑤

C7

・残存筋:上腕三頭筋(C6-8)、撓・尺側手根屈筋(C6-8)
・動作可:肘関節伸展、手関節機能は完全可能
・深部反射:上腕三頭筋出現
・手指屈曲はtenodesis actionで弱く、母指機能も不完全
・車椅子操作は自立レベル
・寝返り、起き上がり、坐位での移動が可
プッシュアップ 起き上がり C7③

C8

・残存筋:浅指屈筋(C7-T1)、深指屈筋(C8-T1)、総指伸筋(C6-8)
・動作可:手指屈曲は完全で実用的握力となる
・指の内外転、つまみ動作は不完全
・ベッド上動作、トランスファー、身の回り動作は自立

T1

・残存筋:短母指外転筋(C7-T1)、小指対立筋(C8-T1)
・動作可:上肢機能は完全となる

T2-12

・残存筋:肋間筋(T10-11)、腹直筋(T5-12) etc.
・下位に行くほど肋間筋、腹筋、傍脊柱筋が多く加わる

L1

・残存筋:腸腰筋(L1-3)
・動作可:腸腰筋はまだわずかに機能するのみで弱い

L2

・残存筋:腸腰筋(T12-L3)、内転筋群(L2-4)
・動作可:股屈曲はは十分、内転は弱い
・深部反射:膝蓋腱反射消失

L3

・残存筋:内転筋群(L2-4)、大腿四頭筋(L2-4)
・動作可:股内転は十分、膝伸展は弱い可能
・深部反射:膝蓋腱反射減弱
・短下肢装具に松葉杖か1本杖を使っての歩行が可
・車椅子の方が実用的である場合も多い

L4

・残存筋:大腿四頭筋(L2-4)、前脛骨筋(L4-5)
・動作可:膝伸展は十分、足関節背屈・内反が可能
・深部反射:膝蓋腱反射出現、アキレス腱反射消失

L5

・残存筋:中殿筋(L4-S1)、大殿筋(L4-S2)、内側膝屈筋群(L4-S1)
・動作可:股関節外転が可能、伸展は弱い(大殿筋はほぼ機能しない)
・歩行時に十分な底屈が可能であれば、装具なしでも歩行は可

S1

・残存筋:大殿筋(L4-S2)、外側膝屈筋群(L4-S2)
・動作可:膝屈曲、足指伸展
・深部反射:アキレス腱反射出現
・足指屈曲は乏しい、大殿筋・下腿三頭筋の機能は不十分

損傷レベル別ADL自立度

残存機能レベル 人数 平均年齢 自立した割合(単位:%)
寝返り 起き上がり 更衣 直角移乗 横移乗 車椅子駆動 排尿動作 排便動作 自動車運転
C4 14 36.0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
C5A 10 33.5 0 0 0 0 0 60 0 0 0
C5B 21 29.0 24 10 19 10 0 86 5 0 0
C6A 16 23.9 47 40 60 25 6 94 20 7 9
C6B1 15 24.7 73 67 73 67 27 100 40 7 14
C6B2 19 27.7 89 89 89 95 69 100 81 25 41
C6B3 24 27.9 96 96 100 98 70 100 76 67 35
C7A 3 40.0 100 100 100 100 100 100 100 100 67
C7B 1 47.0 100 100 100 100 0 100 100 0 0
C8A 6 34.2 80 83 80 83 80 100 80 80 40
C8B 13 28.3 92 92 92 92 83 100 92 92 50

脊髄損傷の評価尺度

フランケル分類とASIA機能評価尺度

Frankel分類は歴史が長く、現在でも使用されている分類法です。ASIA機能障害尺度と同様にA-Eの5段階に分類されますが、C,Dで意味合いが異なります。

1.Frankel分類

A 完全麻痺 損傷高位以下の運動知覚完全麻痺
B 知覚のみ 運動完全麻痺で知覚のみ軽度の残存
C 運動不全 損傷部以下の筋力は若干残存しているが実用性なし
D 運動あり 損傷部以下の筋力は残存しており歩行可能(補助具あり可)
E 回復 筋力及び知覚は正常。反射異常はあっても可

2.ASIA機能障害尺度

A 完全麻痺 S4-5の知覚・運動ともに完全麻痺
B 不全麻痺 S4-5を含む神経学的レベルより下位に知覚機能のみ残存
C 不全麻痺 損傷部以下の筋力は残存しており主要筋群の半分以上が筋力3未満
D 不全麻痺 損傷部以下の筋力は残存しており主要筋群の半分以上が筋力3以上
E 正常 筋力及び知覚は正常。反射異常はあっても可

ASIAの重症度スケール

43回PT問題22

上の表はASIA重症度スケールを実施した結果であるが、①C7の運動機能不全(右)、②触覚脱失・鈍麻(右)、③痛覚脱失(左,C7のみ左右)が読み取れます。

よって、この患者はブラウンセカール症候群に特徴的な脊髄不全であることがわかります。

支配神経

知覚神経(デルマトーム)

脊髄障害の早期では触覚、痛覚はほぼ同レベルですが、症状固定期には痛覚に対して触覚は上位よりの代償により下降することが多々あります。

なので、レベル診断には痛覚検査が最も適しています。

デルマトーム|表面 C4 肩、鎖骨上部
C5 三角筋下部
C6 母指、示指
C7 中指
C8 環指、小指
T1 前腕肘尺部
T2-T8 前胸壁
T4 乳頭
T6 剣状突起
デルマトーム|裏面 T10
T12 鼠径部
L1 大腿前面上1/3
L2 大腿前面中1/3
L3 大腿前面下1/3、膝
L4 下腿、足脛側
L5 足背足底脛側
S1 足背足底腓側
S2以下 臀部、肛囲

深部反射

脊髄ショック期にはすべての反射は消失しますが、ショック期を過ぎると障害部以下の痙縮とともに深部反射が亢進し、病的反射も出現します。

痙性麻痺は頸髄損傷、胸髄損傷に多く、弛緩性麻痺は腰髄損傷に多くみられます。脊髄レベルと反射の関係性は以下になります。

深部反射 C4 C5 C6 C7 L1 L3 L4 S1
上腕二頭筋 ×
腕橈骨筋 × ×
上腕三頭筋 × × ×
膝蓋腱 × × × × ×
アキレス腱 × × × × × × ×

表在反射

表在反射 中枢レベル
腹壁反射 T8-12
堤睾筋反射 T12,L1,L2
足底反射 S1,S2
球海綿体反射 S3
肛門反射 S5

脊髄の構造と障害部位別の症状

脊髄
部位 機能
脊髄視床路 反対側の温覚・痛覚と触覚の一部
脊髄後角 温覚・痛覚
中心灰白質 両側の温覚・痛覚(分節性)
外側皮質脊髄路 同側の随意運動
前皮質脊髄路 随意運動
脊髄後索 同側の深部感覚・触覚

脊髄前部障害

脊髄前半の障害
  • 前脊髄動脈閉塞症候群
  • 障害レベルの弛緩性麻痺、障害レベルより下の痙性麻痺(下肢)
  • 障害レベル以下の温痛覚脱失
  • 後索を走る深部感覚は正常

脊髄後索障害

脊髄後索の障害
  • 脊髄瘻(せきずいろう)
  • 深部感覚の脱失(Romberg徴候陽性)
  • 表在感覚は正常

中心管付近の障害

中心管付近の障害
  • 脊髄空洞症
  • 両側の分節性温痛覚脱失
  • 深部感覚は正常

ブラウン・セカール症候群

ブラウン・セカール障害
  • 脊髄外傷ではほとんど発生しない
  • 障害側の痙性麻痺と反射亢進
  • 障害側の損傷レベル以下の深部感覚の脱失
  • 障害側の損傷レベルの全知覚脱失と弛緩性麻痺
  • 反対側の損傷レベル以下の温痛覚脱失

時期別プログラムについて

脊髄損傷のリハビリでは、損傷レベルや本人の状態によって多種多様なアプローチが考えられるので、ここで全てを挙げることは困難です。

なので、一般的に推奨されているプログラムの流れを下記に掲載したいと思います。

安静固定期(受傷後8-12週まで)

方法 内容
運動療法 他動運動(伸張運動)、自動介助運動、自動運動
筋力強化 漸増的抵抗運動(必要に応じて)
生活指導 ADL(臥位での自助具利用など)、ポジショニング
廃用予防 肺理学療法、合併症の対策(褥瘡、呼吸など)

離床前期

方法 内容
筋力強化 漸増的抵抗運動、プッシュアップ動作
神経教育 血管運動神経調節の再教育、姿勢感覚の再教育
生活指導 自己管理の指導、教育、基本動作訓練、ADL訓練
家族指導 家族・介護者への教育指導

離床後期

方法 内容
筋力強化 残存能力強化と代償機能の確立
移動練習 車椅子、歩行
生活指導 職業訓練、住宅改修の検討、在宅復帰トレーニング

リハビリテーション

関節可動域運動

脊髄損傷のリハビリテーションの目的は、限られた知覚情報、力源を有効に利用し、どのようにして効率的な日常生活動作を獲得するかがポイントになります。

また、関節可動域障害を予防し、改善はすることも重要です。特に肩甲上腕関節、胸鎖関節、肩甲胸郭関節、肘関節、手関節、股関節、脊柱の可動性は重要であり、これらの制限は日常生活動作を著しく低下させてしまうので注意が必要です。

ポジショニング

脊髄損傷の急性期では、安静の強制と感覚障害の影響によって褥瘡を合併しやすい期間です。そのため、ブロックマットなどを用いた除圧と定期的な体位変換が必要になります。

また、それぞれの肢位別の負担のかかりやすい部位を理解しておくことで、その部分への除圧を意識しながら調整していきます。具体的には以下になります。

肢位 褥瘡好発部位
仰臥位 後頭部、肩甲骨部、肘頭部、仙骨部、尾骨部、踵部
腹臥位 膝蓋骨部、腸骨棘部
側臥位 大転子部
坐位 坐骨結節部、尾骨部

基本動作訓練

座位保持

脊損患者では、床上では主に長坐位が基本になります。しかし、体幹筋群の麻痺が著明である場合、骨盤を正中位に保持することが困難となります。

そのため、両坐骨と尾骨の3点が床に接する3点支持により座位を保持します。その場合、ハムストリングスの緊張は座位保持安定に必要となります。

しかしながら、プッシュアップ動作では阻害因子となるため、両因子を考慮してSLRは90°程度にとどめることが理想です。

位での移動

座位での移動は主に上肢のプッシュアップになります。プッシュアップ動作は、以下の4相に分類することができます。

この4相のような手順はひとつの「型」として重要であり、特に第1相の確率が動作獲得には極めて重要になります。

第1相 体幹を鉛直方向へ挙上する
第2相 体幹のバランスを取りながら、動的に腰部を後上方へ引き上げる
第3相 腰部を最高に保つ
第4相 体幹のバランスを取りながら、動的に腰部を下げ、床に腰を降ろす

これらの動作には体幹筋や上肢筋群の筋力、体幹や股関節の可動性が必要になります。また、前述したようにSLRの可動性が極めて重要になります。

阻害因子とならないように、十分なストレッチが必要になります。

寝返り

上位損傷者の場合、上肢を振って慣性を利用することで寝返りを行います。

その際に、体幹回旋の可動性を確保し、肩甲骨の前方突出によって肩甲帯を丸めることにより、寝返りを効率的に行えるようにします。

過度な体幹回旋は下肢まで力が伝わらなくなる恐れもあるため、適度に獲得しておく必要があります。

起き上がり

肘の伸展筋群が麻痺している場合、上肢を使った起き上がりが困難となります。

その場合、寝返りを取り入れた起き上がりや、仰臥位から直接起き上がる方法などを指導して、患者が少ない労力で効率的に起き上がれる方法を指導していきます。

プッシュアップ

肩外旋、肘伸展、前腕回外位で手掌をつき上肢と体幹を床面と直立させた状態で、肩を支点として体重を支持します。

そのまま上肢の前傾が起こらないよう、体幹を後方へプッシュアップします。この方法では、上肢筋力が不十分な四肢麻痺者でも、安全で効率的な動作が可能となります。

対麻痺患者に対しても、経済的な筋活動での動作を学習させるため、この方法を指導すると有効な場合が多いです。

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在はフリーランスとして活動しています。詳細はコチラ
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