腰痛と姿勢の関係性について、図解を用いてわかりやすく解説していきます。
この記事の目次はコチラ
骨盤と脊椎の関係性
骨盤は身体の中心であり、多くの筋肉や靱帯によって固定されています。その骨盤が前傾すると、連動して腰椎の前彎が増強します。
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腰椎の前彎が増強した場合、椎体の前方にストレスがかかることになります。その状態が継続すると、椎間板への刺激が腰痛として発現するようになります。
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反対に、骨盤が後傾すると腰椎の前彎は減少することになります。腰椎が後彎した場合は、椎体の後方にストレスがかかるようになり、持続することで同様に痛みへと変化します。
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では、どのような時に骨盤の前傾や後傾が増すのでしょうか。それは、筋肉のバランスが崩れた時だといえます。
骨盤を前傾させる筋肉が短縮または過度に緊張している場合は前傾が増加しますし、反対に弱化または低緊張となることで後傾が増加します。
過緊張や低緊張となりやすい筋肉一覧
優位または短縮しやすい筋 | 延長または弱化しやすい筋 |
頚部伸筋群 | 頚部前方の屈筋群 |
僧帽筋上部・肩甲挙筋 | 広背筋 |
大胸筋鎖骨部線維 | 僧帽筋中・下部線維 |
小胸筋 | 菱形筋 |
脊柱起立筋・梨状筋 | 腹筋群 |
腸腰筋・大腿筋膜張筋 | 大殿筋 |
ハムストリング | 大腿四頭筋 |
股関節内転筋群 | 中殿筋 |
下腿三頭筋 | 下腿の背屈筋群 |
骨盤の傾きに影響を与える筋肉
骨盤に作用する代表的な筋肉は以下になります。赤色は優位となりやすい筋肉で、青色は弱化しやすい筋肉です。
骨盤を前傾させる筋肉 | 骨盤を後傾させる筋肉 |
脊柱起立筋 | 腹直筋 |
腸腰筋 | 大殿筋 |
大腿直筋 | ハムストリング |
骨盤前傾が増加している場合の各筋肉の状態は以下のような図になります。
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骨盤後傾が増加している場合の各筋肉の状態は以下のような図になります。
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ここでは筋肉を中心に骨盤の傾斜について図で解説しましたが、それ以外にも多くの原因が骨盤には作用することになります。
骨盤と下肢の関係性
股関節や膝関節が屈曲すると、それに連動して骨盤は後傾することになります。それを代償するように脊椎が屈曲してしまいます。
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変形性股関節症を持つ人では、股関節の伸展制限を腰椎の前彎を増強させて代償する人もいます。
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このように様々な関節を微調整しながら、ヒトは重心を中央に保つようにして、立位を安定させるように無意識に働いているのです。
筋肉などは二次的に障害されている場合も多いので、まずはどこが根本的な原因であるかを検査して、改善できる部分にアプローチしていくことが大切です。
腰部への負荷を計測するための3要素
続いて、不良姿勢によってどこに負担がかかっているかを考えていきます。
脊椎(椎間板や椎間関節)へのストレス量を計測するために必要なのは、①荷重面積、②負荷量、③持続時間の三点です。
①荷重面積を広げる
例えばですが、手の平を反対の手の指で軽く押してみてください。圧迫されてる感覚はありますが、これで痛みが出るなんてことはまずありません。
では、これが指ではなく針だった場合はどうでしょうか。同じ負荷で押しているにも関わらず、針の場合は痛みを感じるのでないでしょうか。
指と針では何が違うのかと言いますと、それは圧迫される面積に違いがあります。負荷を加えた場合、その面積が狭くなるほどに圧迫部位への負担は大きくなります。
脊椎への負荷はその85%を椎間板が担っています。(残りの15%は椎間関節)
立位では体重の二倍の負荷が腰椎にかかるとされていますが、うまく圧を分散することができたら、それほど大きな負荷ではありません。
一般的に正しい姿勢と呼ばれるものは、椎間板全体で圧を分散できる姿勢であり、疲労感が出にくい姿勢と言い換えることもできます。
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しかし、前かがみの姿勢などをとっている場合は、椎間板の前方に圧が集中してしまうため、負荷のかかる面積が狭まってしまい、とても大きな負荷が加わってしまいます。
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上述したように、この面積が狭まるほどに組織への圧は高まってしまい、最終的には損傷をまねいてしまうことになります。
40代では半数以上の方に椎間板の変性が認められると報告されており、変性をきたしている場合はうまく圧を分散することができなくなります。
椎間板の変性や不良姿勢などが重なることで、うまく分散できなかった圧が1箇所に限局してしまうなんてことにもなりかねません。
②負荷量を減らす
負荷量そのものを減らす方法はいくつかあるのですが、日常生活でよく用いられている方法としてリクライニングがあります。
下図のように、背もたれが真っ直ぐの状態では上半身の重みは全て脊椎に残ります。
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しかし、背もたれを倒すことで上半身の重みが背もたれに分散され、脊椎にかかる荷重量を軽減することができます。
車のシートなどを倒した方が寝やすいのは、身体への荷重ストレスを逃がすことで骨や筋肉などの負担を減らすことができるからです。
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③持続時間を短くする
しかし、どれだけ圧を分散できていたとしても、持続的に負荷が加わり続けると最終的には痛みとなって発現するようになります。
立ち仕事で腰痛持ちの人なら共感していただけると思いますが、ただ立っているだけのときは腰がきつくて砕けてしまいそうなのに、歩いているときはそれほど腰痛が気になりません。
これは、歩いているときは常に圧が前後左右に動いているため、一定の場所に持続的な負荷が加わらないことが理由です。
たとえ正しいとされる姿勢でも、30分ごとに姿勢を変えたほうがいいと言われるのは、同じ場所に負荷が蓄積しないようにするためです。
ストレス量を計測する方程式
上記の三点をもとに脊椎へのストレス量を計算式で表すなら以下になります。
「負荷」 × 「持続時間」 ÷ 「面積」 = ストレス量 |
力学的なストレス量を減らすためには、負荷量を減らすか、持続時間を短くするか、圧を受ける面積を広くするかの方法を選択する必要があります。
この方程式を参考にしながら、少しでもストレスを減らすことが腰痛の軽減、さらには腰痛の再発予防に役立つはずです。
生活習慣の改善指導
長年の腰痛持ちとして、個人的に腰痛を軽減する方法について書かせていただくと、同一姿勢をとらないことが最も重要だと考えています。
とくに椎間板への圧が高くなる「座位」や「前かがみ」といった姿勢は、絶対に長時間とることは避けるべきです。
立ち仕事やデスクワークでは同じように腰痛が出現するのですが、実はそれぞれで原因となっている部位が違うことをご存じでしょうか。
その原因はずばり姿勢であり、立位では骨盤が前傾するのに対し、座位では骨盤が後傾しやすい傾向にあります。
これは股関節と骨盤が連動していることに起因しており、股関節が伸展すると無意識に骨盤が前傾し、それに伴って骨盤と連結する腰椎が前弯することになります。
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この姿勢で立ち仕事を続けていると、腰が反った状態のために腰椎の後部に負担が集中してしまい、椎間関節障害をきたす原因となります。
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椎間板の後方にかかったストレスを分散するためには、過剰な腰椎前弯を修正する必要があります。その最も簡単な方法が、片脚を台に乗せることです。
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台に乗せることで股関節が屈曲されるため、骨盤が後傾となって腰椎が後弯し、椎間板の後方に集中していた圧を前方に分散させることができます。
定期的に左右の脚を変えることで圧を両側に逃がすこともできるため、脚を挙げたり降ろしたりしながら圧を分散して腰痛の軽減をはかります。
台は厚めの雑誌などでも構いませんが、股関節の屈曲を引き出すためにもある程度の高さがあるものをお勧めします。
次にデスクワークですが、座位の姿勢では股関節が屈曲するため、骨盤が連動して後傾し、それに伴って腰椎が後弯していきます。
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腰椎が後弯した姿勢では、椎間板の前方に圧が集中するようになります。この場合も、長時間の圧迫が椎間板の破綻をまねく原因となります。
簡単な修正方法としては、腰にクッションを入れて椅子の奥深くに座ることで、骨盤が後傾しないように予防することができます。
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腰部クッションはいくつも種類があり、それぞれで腰部に圧が集中しにくいアーチサポートを施されています。なので、ご自身に合ったものを選ぶことが大切です。
私も腰痛持ちであり、休みの日などは一日中デスクワークをしていることもあるのですが、同じ姿勢を継続していると腰がとても痛くて仕方がありません。
なので、定期的に椅子の上であぐらをかいたり、片脚だけ正座にしてみたり、脚を組んでみたりと体勢を変えながらどうにか除圧しています。
腰痛にならないために最も必要なのは、正しい姿勢をとることではなく、同じ姿勢を継続しないことです。定期的に姿勢を変えるクセを身につけるようにお願いします。
重いものを持つ姿勢について
よく物を持ち上げる姿勢で、「いい姿勢」と「悪い姿勢」が紹介されていますが、これらの違いは腰椎前弯の有無だといえます。
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上記のように下肢が伸展した状態では、腰椎の後弯が生じてしまい、背筋群の力も十分に発揮することができません。
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下肢を曲げた姿勢では、腰椎の前弯が維持できるために、脊椎への荷重の分散が可能となります。また、背筋群の力も発揮しやすい状態といえます。
重量挙げの選手たちを見てもらうとわかりますが、彼らは腰を痛めないように腰を反らしてからバーベルを持ち上げようとしています。
その方が骨への負担が少なく、腰を痛めないことを知っているからです。
また、選手らはベルトのようなものをつけていますが、あれは腹部を圧迫することで腹圧を高め、背骨を安定させる効果があります。
たとえ筋力が低下していなくても、脊椎や骨盤に不安定性を呈している場合は十分な筋出力を発揮することができません。
そのため、外部から強く締め上げることで腹圧を高め、安定させる必要があるのです。
腰痛の治療を実施する場合、まずは生活環境の聴取を行い、どのような習慣が悪影響を与えているのかを確認することが大切です。
くれぐれも短絡的なアプローチはせずに、その人にあったメニューを提供できるようにしていってください。
腰痛を改善するための除圧理論
例えば、褥瘡になりにくい姿勢ってありますけど、その姿勢を何時間も継続すると、結局は褥瘡が発生しますよね。
腰痛もそれと同じで、腰痛にならない正しい姿勢として紹介されてるものって、腰痛が出にくい姿勢というだけで、別に正しい姿勢ではありません。
本当に大切なのは定期的に姿勢を変えることのほうです。
次に大切なのは、どの部位に負荷が集まっているのかを知ることです。例えばですが、腰椎の前彎が強い人では椎間板の前方に圧がかかりやすくなります。
その体勢を持続していると、どんどん負担が蓄積されていき、最終的には腰痛が発生することになります。下記は、背骨の椎体および椎間板を上からみた図です。
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腰椎前彎が強いかどうかを簡単に見分ける方法として、壁に背中と踵をつけて立ち、腰と壁の隙間が一横指から二横指なら正常範囲です。
それ以下なら前彎が減少、それ以上なら前彎が増強しているといえます。
腰椎前弯の減少 | 腰椎前弯の増強 |
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このような体勢を長時間にわたって継続していると、椎間板の前方に圧が集中してしまいますので、その圧を後方に逃がしてあげることが大切です。
具体的な方法として、体幹を丸める方法があります。
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こうすることで、一時的にですが椎間板にかかる圧が前方に移動し、しばらくは姿勢が矯正されて腰痛が楽になります。
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しかし、しばらくすると姿勢は元の状態に戻り、また同じ場所に圧が集中してきますので、時間が経つと痛みがぶり返してきてしまいます。
その感覚はヒトにもよりますが、だいたいは2,3時間ほどで戻ってきます。なので、この運動は朝・昼・晩といった具合に一日に複数回の実施が推奨されます。
除圧を指標とした運動は非常にシンプルで理解しやすく、即時的に効果も得られやすい方法です。例えば、腰椎前弯に加えて右側屈が複合している場合の圧は以下になります。
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では、この圧を逃がすためにはどこが最も効果的でしょうか。正解は前方の左側方に圧を逃がしてあげることです。最も遠い位置に移動させると考えたらより簡単だと思います。
圧がかかっている場所から最も遠い位置に逃がしてあげることで、しばらくは姿勢矯正の影響もあって腰痛から解放することができます。
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普段の生活について聴取する重要性
最後にもう一つ大切なのは、普段はどのような体勢で生活しているかを確認することです。
私は立位で腰椎前弯が増強していますが、普段は猫背の姿勢で椅子に座っていることが多いので、椎間板において圧が前方に集中している時間が長いです。
そうすると、腰椎前弯でありながら圧は定期的に後方に逃がす必要がでてきます。なので、立位だけをみるのではなく、普段の生活における姿勢を知ることのほうがより重要なのです。
その都度で圧が集まっている箇所が違いますで、まずは腰痛者にそのことを理解していただき、適時に最適な運動方向を選択してもらうことが大切です。
どのような生活を送っているかはレントゲンや姿勢を見ただけでは絶対にわかりません。だからこそ、その人の生活を知ることが腰痛治療では大切なんですよね。
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