膝蓋大腿関節症のリハビリ治療

膝蓋大腿関節とは

膝は**大腿脛骨関節(FT)膝蓋大腿関節(PF)**から成る複合関節。PF関節は、

  • 膝伸展力の増強(膝蓋骨が滑車となる)

  • 大腿四頭筋腱の摩耗防止

  • 前面からの衝撃保護
    を担います。関節包はFT・PFをまとめて包むため、臨床では一体として捉えます。


膝蓋大腿関節症(PFP/OA-PF)の要点

  • 画像では膝蓋骨‐大腿骨間隙の狭小化や関節面不整(スカイライン像)が目立つことが多い。

  • 膝蓋骨のモビリティ低下(とくに下方・内方)が典型。

  • 背景に外側広筋・腸脛靭帯・大腿直筋のタイトネス外側膝蓋支帯の癒着が関与し、PF関節の圧迫・摩擦が増える。

PFストレスを高める力学

  • 過大な膝伸展モーメント
    例:膝屈曲位荷重、骨盤後傾COM後方位COP後方位、足関節軽度底屈位 など

  • 過大な外反モーメント
    例:膝内反位荷重、骨盤外方位、COM/COP外方位 など

  • 腸脛靭帯前方線維は膝蓋骨外側へ牽引、外側広筋斜走線維は外側支帯へ連結 → 膝蓋骨外上方偏位を助長。


痛みのメカニズム(なぜ痛む?)

  • 膝蓋下脂肪体は痛覚が豊富。伸展位では膝蓋骨下に貯留し、屈曲で膝蓋骨裏へ潜り込む

  • PF圧上昇+滑走不全があると、屈伸や立ち上がり時に摩擦・圧迫→炎症が起きやすい。

  • 立ち上がり痛が強いのは、四頭筋収縮でPF圧が一時的に高まるから。

  • 歩行痛が主なら、PFよりFT関節由来のことも。

PFストレスを増やす三因子

  1. 下腿外旋症候群(脛骨粗面が膝蓋骨外側接線上〜外)
     ・大腿骨過内旋(内転筋群タイト)/脛骨過外旋(大腿二頭筋・外側広筋・ITBタイト)

  2. 膝蓋支帯の滑走不全(外側支帯=外側広筋・ITB、内側支帯=内側広筋と連結)

  3. 膝伸展制限(前方=脂肪体、後方=ハム・腓腹筋など)


評価のコツ

  • 圧痛部位:膝蓋下極〜脂肪体、外側支帯、ITB遠位、四頭筋の索状部位

  • 膝蓋骨可動性:下方・内方滑りの硬さ/痛み

  • 伸展制限の鑑別
    ・前方痛→脂肪体・外側支帯の影響
    ・膝窩の張り/痛み→ハム・腓腹筋・膝窩筋膜

  • 下肢アライメント:膝内外反、下腿回旋、足部回内/回外、骨盤傾斜・回旋


リハビリ戦略(臨床フロー)

1) 痛み源を減らす:膝蓋下脂肪体リリース

  • 仰臥位。母指と示指で脂肪体をつまみ→左右揺動

  • 慣れてきたら膝蓋骨を軽く押し下げつつ、脂肪体を押し上げるリズム操作で滑走促通。

  • 伸展制限が残る場合はクアド・セッティングで終末伸展を回復。

2) 膝蓋骨モビライゼーション

  • 下方・内方へ十分に滑らせる。

  • 外側支帯の癒着剥離:膝蓋骨を内側から外側へ誘導し、外側縁をめくるように持ち上げる → 外側支帯が伸張・剥離。

3) モーメントの適正化(フォーム&補助具)

  • 伸展モーメント低減:骨盤前傾を回復、COPを前方へ(踵体重を避ける)、足関節背屈可動域の確保。

  • 外反モーメント低減:膝内反位荷重を是正。

    • 装具:外側支柱で内反動揺抑制。ただし脂肪体痛が主なら圧迫が逆効果になることがあるため注意。

    • インソール:外側楔状でCOP外方位を調整/扁平足はアーチサポートで屈曲位荷重を抑える。

4) 軟部組織ケアと筋機能

  • 外側広筋・ITB・大腿直筋のタイトネスを個別にリリース/ストレッチ。

  • ハム・下腿三頭筋を先に緩め、屈曲位荷重の癖を是正。

  • 痛みが落ち着いたら等尺性→ショートレンジ遠心(スクワット0–45°、レッグプレス等)。

  • 下腿外旋傾向には修正テーピングで反応を確認 → 股関節外旋/外転優位の代償を抑えるエクササイズを処方。

5) 動作再学習(再発予防)

  • 立ち上がり・階段・着地

    • 膝とつま先の向きを一致

    • 骨盤前傾+体幹前傾

    • 足圧中心はやや前方

  • 痛み0〜軽度で翌日増悪なしを確認しながら段階的に競技復帰。


よくあるQ&A

Q1. PF関節とFT関節、どちらが痛いのか見分け方は?
A. 立ち上がりや屈伸での前面鋭痛はPF由来が多く、荷重歩行での持続痛はFT関与が目立つ傾向があります(最終判断は総合所見)。

Q2. まず何から始めれば良い?
A. 脂肪体の滑走回復→膝蓋骨モビリ→伸展域回復の順。痛みが落ち着いたらフォーム修正と筋機能へ。

Q3. 装具やインソールは必須?
A. 力学的に有利にする補助として有効な症例がある一方、脂肪体圧迫で悪化も。適合と症状の変化を必ず確認。

Q4. テーピングで良くなる?
A. 下腿外旋/膝蓋骨外側偏位が関与する場合は有効例あり。効果が出るなら、根本の動作・柔軟性も合わせて修正。

Q5. トレーニングはいつ再開?
A. 痛みNRS≦2・翌日増悪なしを基準に、等尺→ショートレンジ→フルレンジへ段階的に。


最終更新:2025-10-07