膝蓋大腿関節とは
膝は**大腿脛骨関節(FT)と膝蓋大腿関節(PF)**から成る複合関節。PF関節は、
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膝伸展力の増強(膝蓋骨が滑車となる)
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大腿四頭筋腱の摩耗防止
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前面からの衝撃保護
を担います。関節包はFT・PFをまとめて包むため、臨床では一体として捉えます。
膝蓋大腿関節症(PFP/OA-PF)の要点
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画像では膝蓋骨‐大腿骨間隙の狭小化や関節面不整(スカイライン像)が目立つことが多い。
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膝蓋骨のモビリティ低下(とくに下方・内方)が典型。
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背景に外側広筋・腸脛靭帯・大腿直筋のタイトネスや外側膝蓋支帯の癒着が関与し、PF関節の圧迫・摩擦が増える。
PFストレスを高める力学
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過大な膝伸展モーメント
例:膝屈曲位荷重、骨盤後傾、COM後方位、COP後方位、足関節軽度底屈位 など -
過大な外反モーメント
例:膝内反位荷重、骨盤外方位、COM/COP外方位 など -
腸脛靭帯前方線維は膝蓋骨外側へ牽引、外側広筋斜走線維は外側支帯へ連結 → 膝蓋骨外上方偏位を助長。
痛みのメカニズム(なぜ痛む?)
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膝蓋下脂肪体は痛覚が豊富。伸展位では膝蓋骨下に貯留し、屈曲で膝蓋骨裏へ潜り込む。
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PF圧上昇+滑走不全があると、屈伸や立ち上がり時に摩擦・圧迫→炎症が起きやすい。
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立ち上がり痛が強いのは、四頭筋収縮でPF圧が一時的に高まるから。
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歩行痛が主なら、PFよりFT関節由来のことも。
PFストレスを増やす三因子
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下腿外旋症候群(脛骨粗面が膝蓋骨外側接線上〜外)
・大腿骨過内旋(内転筋群タイト)/脛骨過外旋(大腿二頭筋・外側広筋・ITBタイト) -
膝蓋支帯の滑走不全(外側支帯=外側広筋・ITB、内側支帯=内側広筋と連結)
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膝伸展制限(前方=脂肪体、後方=ハム・腓腹筋など)
評価のコツ
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圧痛部位:膝蓋下極〜脂肪体、外側支帯、ITB遠位、四頭筋の索状部位
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膝蓋骨可動性:下方・内方滑りの硬さ/痛み
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伸展制限の鑑別:
・前方痛→脂肪体・外側支帯の影響
・膝窩の張り/痛み→ハム・腓腹筋・膝窩筋膜 -
下肢アライメント:膝内外反、下腿回旋、足部回内/回外、骨盤傾斜・回旋
リハビリ戦略(臨床フロー)
1) 痛み源を減らす:膝蓋下脂肪体リリース
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仰臥位。母指と示指で脂肪体をつまみ→左右揺動。
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慣れてきたら膝蓋骨を軽く押し下げつつ、脂肪体を押し上げるリズム操作で滑走促通。
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伸展制限が残る場合はクアド・セッティングで終末伸展を回復。
2) 膝蓋骨モビライゼーション
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下方・内方へ十分に滑らせる。
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外側支帯の癒着剥離:膝蓋骨を内側から外側へ誘導し、外側縁をめくるように持ち上げる → 外側支帯が伸張・剥離。
3) モーメントの適正化(フォーム&補助具)
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伸展モーメント低減:骨盤前傾を回復、COPを前方へ(踵体重を避ける)、足関節背屈可動域の確保。
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外反モーメント低減:膝内反位荷重を是正。
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装具:外側支柱で内反動揺抑制。ただし脂肪体痛が主なら圧迫が逆効果になることがあるため注意。
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インソール:外側楔状でCOP外方位を調整/扁平足はアーチサポートで屈曲位荷重を抑える。
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4) 軟部組織ケアと筋機能
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外側広筋・ITB・大腿直筋のタイトネスを個別にリリース/ストレッチ。
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ハム・下腿三頭筋を先に緩め、屈曲位荷重の癖を是正。
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痛みが落ち着いたら等尺性→ショートレンジ遠心(スクワット0–45°、レッグプレス等)。
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下腿外旋傾向には修正テーピングで反応を確認 → 股関節外旋/外転優位の代償を抑えるエクササイズを処方。
5) 動作再学習(再発予防)
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立ち上がり・階段・着地で
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膝とつま先の向きを一致
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骨盤前傾+体幹前傾
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足圧中心はやや前方
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痛み0〜軽度で翌日増悪なしを確認しながら段階的に競技復帰。
よくあるQ&A
Q1. PF関節とFT関節、どちらが痛いのか見分け方は?
A. 立ち上がりや屈伸での前面鋭痛はPF由来が多く、荷重歩行での持続痛はFT関与が目立つ傾向があります(最終判断は総合所見)。
Q2. まず何から始めれば良い?
A. 脂肪体の滑走回復→膝蓋骨モビリ→伸展域回復の順。痛みが落ち着いたらフォーム修正と筋機能へ。
Q3. 装具やインソールは必須?
A. 力学的に有利にする補助として有効な症例がある一方、脂肪体圧迫で悪化も。適合と症状の変化を必ず確認。
Q4. テーピングで良くなる?
A. 下腿外旋/膝蓋骨外側偏位が関与する場合は有効例あり。効果が出るなら、根本の動作・柔軟性も合わせて修正。
Q5. トレーニングはいつ再開?
A. 痛みNRS≦2・翌日増悪なしを基準に、等尺→ショートレンジ→フルレンジへ段階的に。
最終更新:2025-10-07







