虫様筋(手部)の概要
虫様筋(lumbricals)は手掌中央区画にある4本の内在筋。
起始はFDP腱(深指屈筋腱)、**停止は伸筋腱膜の外側索(伸筋フード)**という“屈筋腱から起こって伸筋装置に入る”独特の構造を持ちます。
機能は代表的な 「MCP屈曲+PIP/DIP伸展」(インストリンシック・プラス)。書字・ピンチ・ボタン留めなど精密操作に大きく寄与します。筋紡錘が豊富で、把持中の張力調整・指位置フィードバックにも関与。
基本データ
| 項目 | 内容 |
| 支配神経 | 第1・第2(示・中):正中神経 第3・第4(環・小):尺骨神経深枝 |
| 髄節 | C8–T1 |
| 起始 | 第2:第2FDP腱の橈側 第3:第3FDP腱の橈側 第4:第3FDP腱の尺側+第4FDP腱の橈側(双羽状) 第5:第4FDP腱の尺側+第5FDP腱の橈側(双羽状) |
| 停止 | 各指の伸筋腱膜(外側索)およびMCP関節包背側 |
| 主な作用 | MCP屈曲+PIP/DIP伸展(インストリンシック・プラス) |
機能の理解(協調と代償)
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協働:虫様筋+骨間筋でMCP屈曲+IP伸展を担う。総指伸筋(ED)は主にMCP伸展に寄与。
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臨床の目安:「テーブルトップ」(MCP屈曲70–90°・IP伸展)姿勢が保持できれば内在筋(虫様+骨間)の機能が保たれやすい。
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代償:内在筋弱化ではMCP過伸展+IP屈曲(インストリンシック・マイナス)が目立ち、書字・つまみ操作が困難化。
触診方法(コツと再現)

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ポジション:前腕中間位、MCP軽度屈曲でIP伸展を保持(内在筋優位)
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触れる場所:各指のMCP関節掌側・橈側縁(第2・3は橈側、第4・5は相対する橈側)で、深部に細い索状の緊張を触れる。
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再現テスト:MCP屈曲を保ったままIPを伸展するよう指示し、抵抗を加えると虫様筋の収縮が明瞭
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注意:MCP過伸展位では内在筋が働きにくく、EDの代償が入りやすい。
ストレッチ方法
虫様筋の反対動作はMCP伸展+IP屈曲です。痛みのない範囲で実施します。
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対象指のMCPをゆっくり伸展し、同時にPIP・DIPを軽く屈曲へ誘導。
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張りを感じる位置で20〜30秒×2〜3回保持。反動は付けない。
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掌側の痛み・しびれが出る場合は中止し、強度を下げる。
筋力トレーニング
- インストリンシック・プラス保持:「テーブルトップ姿勢」(MCP屈曲70–90°・IP伸展)を5秒保持×5回。各指で実施。
- 等尺性IP伸展+MCP屈曲:指背に軽い抵抗を当て、MCPは曲げたままIPを伸ばす。10回×2セット。
痛みがある場合は負荷・可動域を下げ、腱滑走(Tendon gliding)を併用すると滑走性の改善に有効です。
手内在筋(中手筋)メモ
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中手筋=虫様筋・掌側骨間筋・背側骨間筋(いずれも内在筋)。
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神経は虫様:正中/尺骨の分担、骨間筋:尺骨神経が基本。
よくある誤解の修正
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虫様筋はMCP屈曲+IP伸展に特化し、汎用的な「手指屈曲(PIP/DIP屈曲)」の主動ではありません(PIP/DIP屈曲は主にFDS/FDP)。
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MCP伸展位の作用:内在筋のIP伸展は、一般にMCP屈曲位で有効に発揮されます(テーブルトップ姿勢)。
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筋紡錘の数:虫様筋は高密度であることが重要で、具体的な数値は研究により差があります。
関連する疾患・病態
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尺骨神経麻痺/正中神経麻痺:内在筋麻痺によりインストリンシック・マイナス(MCP過伸展+IP屈曲)。
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ルンブリカル・プラス変形(lumbrical-plus):FDP損傷後に虫様筋牽引でIP伸展が過剰になる所見。
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リウマチ手:内在筋短縮や腱バランス変化による変形。
よくある質問(FAQ)
Q. 虫様筋を“選択的”に鍛えるには?
A. MCP屈曲を保ってIPを伸ばす課題(テーブルトップ保持、等尺性IP伸展)が基本。ED主導の運動は避ける。
Q. 触診しづらいときのコツは?
A. MCP軽屈曲で抵抗下IP伸展を指示。各MCP掌側の橈側縁を深く探ると、索状の緊張を捉えやすい。浮腫や太い指では難度↑。
最終更新:2025-10-12
