進行性筋ジストロフィーのリハビリ治療

進行性筋ジストロフィーの概要

筋ジストロフィーの定義は、「筋線維の壊死・変性を主病変とし、臨床的には進行性の筋力低下と筋萎縮をみる遺伝性疾患」とされています。

代表的なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は、遺伝学的には性染色体劣性遺伝形式で男性のみに発症しますが、突然変異が多く1/3を占めます。有効な根本的な治療法は無いのが現状です。

病因・病態

DMDはジストロフィン遺伝子の変異により、筋線維膜直下に存在するジストロフィン蛋白質が欠損することによって生じます。

ジストロフィン遺伝子変異は、欠失が60%、重複が10%、微笑変異が30%と報告されています。

DMDの主な病態は筋力低下になります。最初にみられるのは抗重力筋で、体幹・中枢関節の筋群より低下が起こります。

そこから、動作障害の進行に伴って廃用性筋萎縮や関節拘縮、変形、呼吸器障害、循環器障害などの様々な症状が現れていきます。

時期によって障害される筋肉は異なっており、以下のようになっています。

初期 大殿筋、中殿筋、大腿筋膜張筋、大腿二頭筋、大腿四頭筋、股関節内転筋、腓腹筋、腓骨筋、僧帽筋、広背筋、肩関節内旋筋、頸屈筋
中期 腸腰筋、腰方形筋、傍脊柱筋、半腱様筋、半膜様筋、前脛骨筋、ヒラメ筋、肩関節屈曲・外転・内転筋、上腕三頭筋
後期 腹直筋、腹斜筋、縫工筋、薄筋、後脛骨筋、前腕筋群、手内筋、頸伸筋

機能障害度の厚生省分類(改編バージョン)

病期 内容 目安 イメージ
StageⅠ 階段昇降可能 6歳頃まで(2歳:下腿三頭筋の代償的な肥大を認める、6歳:運動機能が最大となる) 1
a.手の介助なし
b.手の膝押さえ
StageⅡ 階段昇降可能 8歳頃まで(6,7歳:登はん性起立、Gowers徴候が出現) 2
a.片手手すり
b.片手手すり、膝手
c.両手手すり
StageⅢ 椅子から立ち上がり可能 80歳頃まで(10歳:歩行不能、床からの立ち上がり不能) 3
StageⅣ 歩行可能 10歳頃まで 4
a.独歩で5m以上
b.1人では歩けないが、物につかまれば歩ける(5m以上)
ⅰ)歩行器
ⅱ)手すり
ⅲ)手引き
StageⅤ 起立歩行は不可能であるが、四つ這いは可能 13歳頃まで(12歳:起き上がりに介助が必要) 5
StageⅥ 四つ這いも不可能であるが、ずり這いは可能 15歳頃まで 6
StageⅦ ずり這いも不可能であるが、座位の保持は可能 20歳頃まで(16-18歳:脊柱変形にて座位にも介助を要する) 7
StageⅧ 座位の保持も不可能であり、常時臥床状態 20歳以降(30-40歳:呼吸不全、心不全で死亡する) 8

登はん性起立

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診断と内科的管理(超要点)

  • 診断:高CK/遺伝学的検査(筋生検は現代では多くが不要)。家系・キャリア評価も重要。

  • 薬物:**ステロイド(プレドニゾロン/デフラザコート)**が標準。心保護薬(ACE阻害薬・β遮断薬)予防投与、骨粗鬆症対策。

  • 呼吸:夜間換気サポート(NIV)導入のタイミングを逸しない。咳介助・排痰支援。

  • 遺伝子変異に応じた治療エクソンスキッピング等が適応となるサブセットあり(対象は限定的/専門施設で判断)。

  • 整形:脊柱側弯・股膝足の拘縮管理、必要に応じ体幹装具/下肢装具

リハビリテーション(実務のコツ)

1)筋力トレーニング

  • 禁忌寄り:高負荷・遠心性中心・反復至上主義・遅発性筋痛を伴うメニュー。

  • 推奨低~中等度負荷(自重~軽抵抗)/短時間・高頻度/呼吸・心拍・疲労のモニタ。

  • 目安:RPE 11–13、翌日に疲労や筋痛を残さない。日常活動は可能な範囲で継続

2)関節可動域(ROM)とストレッチ

  • 短縮しやすい:ハムストリングス・TFL・腓腹筋・頸伸筋・足内反筋

  • ゆっくり・痛みなしで毎日/ナイトスプリント(足関節)や立位保持を併用。

  • 歩行期下肢ROM歩行喪失後は**上肢ROM(肘伸展)**の維持に重点。

3)立位・歩行・装具

  • 立位保持・起立練習は骨・循環・呼吸・消化・心理面にも利点。

  • 長下肢装具(KAFO)や体幹装具早期から検討し、安全と省エネを両立。

  • 車椅子は段階的に(自走→電動/ティルト・リクライニング付)へ。

4)呼吸ケアと舌咽呼吸(GPB)

  • 胸郭の柔軟性維持、体位排痰、咳介助。

  • GPB:口腔・咽頭に空気を取り込み、舌と咽頭運動で肺へ**「押し込む」特殊呼吸。習得できれば分時換気の補助**に有用(訓練は専門職の監督下で)。

5)学校・生活・福祉

  • 体育は修正参加(衝撃・持久を避け、ストレッチ・水中・姿勢活動へ)。

  • 住環境(段差解消、手すり、トイレ・浴室補助具)、**ICT支援(PC・タブレット)**は早めに導入・継続。


よくある質問(Q&A)

Q1. 運動はどこまでやっていい?
A. やり過ぎは禁物低負荷・短時間・分割で、翌日に疲れや痛みを残さないことが合格ライン。

Q2. ステロイドはいつから?副作用は?
A. 時期と用量は専門医判断。骨粗鬆症/体重増加/行動変化などの副作用対策同時スタートが基本。

Q3. 立位や歩行を無理に続けるべき?
A. 安全最優先。装具・介助・歩行補助を用い、短時間で質の高い立位を狙う。転倒リスクが上がる時期は方針を切り替える

Q4. ストレッチは痛いくらいやった方が伸びますか?
A. NO。痛みは筋損傷のサイン。心地よい範囲毎日継続が効果的。

Q5. 呼吸が心配。何を見ておけば?
A. 夜間のいびき・無呼吸、起床時頭痛・日中傾眠、風邪後の痰が切れない——これらは受診サイン。早期のNIV・咳介助導入が鍵。

Q6. 学校の体育は?
A. 走跳投・対人接触は原則回避水中・ストレッチ・姿勢保持などへ置換し、休息可の個別配慮を。

Q7. 将来の座位やPC操作はいつ準備?
A. できるだけ早く。車椅子・体幹装具・ICT(入力支援)を前倒しで整えると移行がスムーズ。

Q8. 家族が今すぐできることは?
A. 毎日のやさしいROM、安全な立位時間の確保転倒予防の住環境体調の小さな変化を記録して医療者と共有。


参考資料/引用画像


最終更新:2025-09-09