ROMexの種類と選択基準
**ROMex(Range of Motion exercise)**は大きく次の2種に分類されます。
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他動ROMex:筋収縮を伴わず、外力で関節を動かす。
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自動ROMex/自動介助ROMex:本人の筋収縮(必要に応じて介助)で関節を動かす。
臨床では、他動で可動域が正常でも自動では減少することがよくあります。これは筋出力低下や出力バランス不良(インナー機能不全によりアウター優位)によることが多く、まずは原因筋の同定と制御(骨頭の求心化を含む)を優先します。
→ 原則は可能なら自動(自動介助)、難しければ他動で実施。
「可動域制限」と「関節拘縮」を分けて考える
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可動域制限の要因には、筋攣縮(過緊張)・疼痛回避・軟部組織短縮・関節内病変などが混在します。
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**関節拘縮(contracture)**は、関節包・筋・筋膜・靭帯などの構造変化による持続的な短縮を指します。
※「contracture」は語源的に「収縮」を含むため、筋攣縮まで含めてしまう誤用が生まれがちですが、攣縮はリラクゼーションで即時改善しうるため、拘縮とは区別します。
拘縮の主な原因
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関節包の縮小/線維化
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筋の短縮(筋節数の減少による伸張限界の低下)
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筋膜の柔軟性低下(不動でのコラーゲン架橋増加)
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靭帯の肥厚/短縮
ROMexと拘縮治療は“目的”が異なる
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ROMexの目的:関節可動域の維持・二次的悪化の予防。
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拘縮の改善は別介入:
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関節包縮小:関節モビライゼーション
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筋短縮:ストレッチング(必要に応じて収縮後弛緩法など)
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筋膜柔軟性低下:強擦法(深部横断摩擦等)/滑走改善
→ 拘縮治療で可動域を拡大 → ROMexで維持という順序を徹底。
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不動後に起こる変化の時間軸
固定・不動では、まず筋性拘縮が先行し、長期化で関節性拘縮の比重が増します。
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筋膜性制限:不動によりコラーゲンが架橋結合→扁平化・滑走性低下→伸張性低下。
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筋線維性制限:短縮位固定で筋節(サルコメア)減少→筋長の実質的短縮。
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動物実験では最大底屈位固定1週間でヒラメ筋筋長が約1割短縮したとの報告もあります(傾向として理解)。
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1か月以内:筋性拘縮の影響が大。
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1か月超:関節性拘縮の割合が増加し不可逆化リスク上昇。
→ 可能な限り固定は短期間に留め、早期から分節的動きと滑走の再獲得を図る。
実施の前提と在宅連携
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前提:筋攣縮を先に緩める(疼痛・不安・寒冷への配慮、呼吸介入、アイソメトリックの低負荷活性など)。
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在宅エクササイズ:拘縮治療後、獲得ROMを日常で維持できるよう自動/自動介助ROMexや姿勢・負荷のセルフ調整を指導。
よくある質問(Q&A)
Q1. ROMexだけで拘縮は治りますか?
A. 維持・予防が主目的です。改善には**原因別の介入(モビライゼーション、ストレッチ、強擦法等)**を併用し、その後にROMexで維持します。
Q2. 他動は痛みがなく動くのに自動で動かないのはなぜ?
A. 出力低下やアウター優位などの運動制御の問題が疑われます。インナー再学習と求心化を優先してから自動ROMexを進めます。
Q3. 攣縮と拘縮の見分け方は?
A. 一時的リラクゼーションやブリージング、軽い収縮‐弛緩で即時に可動が戻るなら攣縮要素が強い可能性。持続短縮や終末感の硬さが強ければ拘縮を疑います。
Q4. 固定はどれくらいで危険域?
A. 個体差はありますが、1か月を超えると関節性拘縮の比率が上がり不可逆要素が増えます。可能な範囲で早期可動化を。
Q5. 強擦法はいつ使う?
A. 筋膜の滑走低下や架橋化が主因と判断したとき。皮膚・皮下の滑走→深筋膜→筋の順で層別にアプローチします。
Q6. ストレッチは痛いほど伸ばす?
A. 痛みは攣縮・防御反応を誘発しやすく逆効果。軽度不快域〜中等度までで持続時間と回数を管理し、日内反復が重要です。
Q7. 拘縮側と反対側が痛むのはなぜ?
A. 関節包縮小で骨頭が反対側へ偏位→関節内インピンジメントが起こりうるため。痛い=短縮側とは限りません。評価所見で方針を決めます。
まとめ(臨床フローの目安)
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評価:攣縮・痛み・恐怖回避・組織短縮・関節内要素を分けて仮説立案
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攣縮/痛みコントロール → 3) 原因別介入(関節包/筋/筋膜/靭帯)
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自動(自動介助)ROMexで維持+日常での負荷線の最適化
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経過で再評価(可逆/不可逆の見立てを更新)
最終更新:2025-10-09





