関節可動域運動(Range of motion exercise:ROMex) について解説していきます。
ROMexの種類
ROMexには、①他動ROMex、②自動ROMexの2つに分類できます。
これらの違いは「筋収縮を伴うかどうか」ですが、他動では可動域が正常でも、自動では可動域が減少するケースは多いです。
その場合は、筋出力や出力バランスに問題がある可能性が高いので、問題を見つけてからアプローチすることが必要となります。
出力バランスの問題の多くは、インナーマッスルが十分に機能しておらず、アウターマッスルを中心に働かせています。
そのため、インナーマッスルの機能不全を改善し、骨頭を求心位に保てるように調節していくことが求められます。
以上のことから、ROMexは可能なら自動(または自動介助)で、難しいようなら他動で行うようにします。
関節可動域制限と関節拘縮
関節可動域制限を「関節拘縮」と表現する場合は多いですが、筋肉の攣縮(緊張増大)による制限は関節拘縮に含めるべきではありません。
筋肉の攣縮は筋リラクゼーションで即時に改善するため、拘縮と呼ぶには不適切であると考えられているからです。
なぜ含めて考えるようになったかを紐解くと、英語では拘縮を「contracture」と表記し、収縮するという単語が語源となっています。
そのため、筋肉の攣縮も拘縮に含まれるようになってしまい、拘縮の定義が拡大されてしまいまいた。
関節拘縮の主な原因としては、関節包の縮小、筋肉の短縮、筋膜の柔軟性低下(架橋結合)、靭帯の肥厚などが挙げられます。
関節可動域運動と拘縮治療
ROMexを実施するときの大前提として、筋肉の攣縮を取り除いた状態で行うことが大切です。
また、可能なら関節拘縮への治療後に拡大できた可動域を維持するため、在宅エクササイズとして指導することも有用となります。
関節可動域運動の目的はあくまで「関節可動域の維持」であり、関節拘縮を改善する方法ではありません。
関節拘縮の原因である関節包の縮小には関節モビライゼーション、筋肉の短縮にはストレッチング、筋膜の柔軟性低下には強擦法が有効となります。
関節可動域運動と拘縮治療は明確に分けて考えるようにし、拘縮治療後に関節可動域運動を行うようにしてください。
関節拘縮は筋性拘縮が先に起こる
関節を固定して動きを制限した場合、まずは筋性拘縮が起こり、固定期間が長くなるほどに関節性拘縮による制限の割合が大きくなります。
筋性拘縮は筋膜による制限と筋線維による制限がありますが、まずは筋膜による制限について解説していきます。
筋膜はコラーゲンで主に構成されていますが、コラーゲンは不動によって架橋結合していきます。
そうすると、筋膜は伸張性を失い、関節の動きが制限されます。
下図を見ていただくと非常にわかりやすいですが、結合されたコラーゲンは扁平化することができず、伸びきることができなくなってしまいます。
次に筋線維による制限ですが、筋肉が短縮する理由は不動による筋節の減少にあります。
筋節は太いフィラメントと細いフィラメントで構成されており、それらが滑走することで筋肉は伸張します。
ひとつの筋節が伸びる限度は決まっているため、筋節が減少することで筋肉は十分な伸張ができなくなります。これを筋肉の短縮と呼びます。
筋節の減少は、とくに筋肉が短縮するポジションで固定された場合に起こりやすい傾向にあります。
ラットを使用した実験では、足関節を最大底屈位で固定した場合に、ヒラメ筋の筋長は1週間で11%も短縮したことが報告されています。
関節性拘縮の種類
1ヶ月以内の固定は筋性拘縮による影響が大きいとされていますが、それ以上になると関節性拘縮による制限の割合が大きくなります。
関節性拘縮では不可逆的となる可能性が高いため、固定はできる限りに1ヶ月以内とすることが重要です。
関節包が縮小している場合は、骨頭が縮小している側とは反対方向に押し出されて、関節内インピンジメントによる痛みを起こしやすいです。
そのため、必ずしも短縮側が痛むわけではないことを理解し、関節モビライゼーションなどの治療を行っていくことが必要となります。