頸椎症性神経障害のリハビリ治療

頸部に起きる神経障害(脊髄障害または神経根障害)のリハビリ治療に関して解説していきます。

頸椎症の概要

頸椎症の意味を簡単に説明すると、「症」とは病気の様子という意味があり、要するに頸椎が病的(異常)な状態ということになります。

具体的にどのような状態かというと、椎間板が潰れてしまったり、骨棘が形成されたり、周囲の靱帯が肥厚していたりします。

上記は頸椎症のMRI画像ですが、C5/6間とC6/7間の椎間板が圧潰しており、椎骨の前後が拡がるように骨棘が形成されています。

椎間板は脊椎が屈曲することで内圧が上昇しますので、慢性的にストレスが加わり続けることで徐々に潰れていきます。

椎間板が変性すると椎体後方が圧を受け止めるために後方に伸びていき、いわゆる骨棘を形成した状態になります。

骨棘の形成や靱帯の肥厚というのは「身体を守るための代償的な反応」であり、それ自体は基本的に悪いものではありません。

ただし、そのようにして頸椎症が進行していくと椎孔(脊柱管)や椎間孔が狭窄することになり、脊髄障害や神経根障害を招くことにつながります。

椎間板が変性しているレベルでは、後方の椎間関節の負担が増加することになるので、椎間関節障害のリスクも高まります。

頸椎症性神経障害の分類

脊椎の神経障害は解剖学的位置により、①正中型、②傍正中型、③椎間孔型の3つに分類できます。

正中型では、脊髄中央を圧迫するために両側の脊髄神経に影響を及ぼす頻度が高く、複数の神経に両側性の症状が現れます。

傍正中型は椎間孔に入る直前の神経を圧迫しているタイプで、単一または複数の神経に片側の症状が現れます。

末端(手指)には神経麻痺(感覚異常や筋力低下)がないケースもあり、近位のみに感覚異常を訴える場合もあります。

椎間孔型は名前の通りに椎間孔で神経を圧迫しているタイプで、単一の神経に片側の症状が現れます。

頸髄症の原因

頸椎症が進行して椎孔内(脊柱管内)で脊髄を圧迫し、中枢性麻痺を起こした状態を頸椎症性脊髄症(頸髄症)といいます。

頸髄症を起こす原因は前述した頸椎症の他に、頸椎椎間板ヘルニアや後縦靭帯骨化症、交通事故などの外傷があります。

脊髄は中枢神経であるため、圧迫(障害)されると障害部位より下位すべてに中枢性麻痺が生じます。

具体的には、上肢筋の緊張亢進にて箸を上手く使えなくなったり(巧緻動作障害)、下肢筋の緊張亢進にて歩きにくくなる(痙性歩行)といった症状が起こります。

中枢性麻痺 末梢性麻痺
筋緊張
深部反射
病的反射
筋萎縮
筋線維束攣縮

頸椎症が進行しているケースでは、椎孔のみではなく椎間孔も狭窄していることが多いため、障害レベルの末梢神経麻痺を起こしている場合もあります。

例えば、C5/6レベルで脊髄と神経根を圧迫している場合は、C6神経根の末梢神経麻痺とC7以下の中枢性麻痺が現れます。

末梢性麻痺では筋緊張は低下し、深部腱反射も減弱または消失しますので、神経症状を確認しながらどのレベルにどちらの障害が出ているかを確認することが必要です。

巧緻動作の確認テスト

上肢の巧緻動作を確認する簡単なテストとして、上肢を挙上した状態からグーパーを繰り返す動作を10秒間反復する「10秒テスト」があります。

基準値として、10秒間に反復回数が20回以下なら巧緻動作障害を疑うことができます。

数え方はグーで1回、パーで1回なので、一度の動作(グーパー)でカウントは2回となるので注意してください。

頸椎症性神経根症の原因

頸椎症が進行して椎間孔内で神経根を圧迫し、末梢性麻痺を起こした状態を頸椎症性神経根症といいます。

好発部位としては、①C5/6、②C6/7、③C4/5の順に多く、C5/6の椎間孔からは第6頚神経が通過しています。

頸神経の支配領域

神経根が圧迫されると、その神経の支配領域に末梢神経麻痺(しびれなどの知覚障害や筋力低下)を引き起こします。

そのため、神経根障害の有無を検査するためには、①腱反射、②筋力低下、③感覚障害の3つを確認することが大切です。

以下に、頸椎症性神経根症で障害を受けやすい神経の支配領域を示します。

神経根 C5 C6 C7
腱反射 上腕二頭筋反射↓ 腕橈骨筋反射↓ 上腕三頭筋反射↓
筋力低下 三角筋 上腕二頭筋 上腕三頭筋
感覚障害 上腕外側 前腕外側、母指、示指 示指、中指

上肢に関しては、知覚の神経支配(デルマトーム)は神経間の重なりや個人差が大きいため、筋肉の神経支配(ミオトーム)のほうが信頼性は高いとされています。

実際に神経根が圧迫されているかどうかはMRIを撮影する必要があり、支配領域の末梢神経麻痺と画像検査が一致しているかを確認します。

神経障害の誘発検査

椎間孔の狭小化が神経根症を引き起こしている場合は、頚部を伸展や側屈させることで症状を増悪させることが可能です。

理由としては、頸部を伸展または障害側へ側屈させることで椎間孔が狭小化し、椎間孔を通過する神経根への圧迫が強まるためです。

反対に頸部を屈曲または障害側とは逆に側屈させることで椎間孔は拡大するため、その動きでしびれが軽減するかも確認します。

他動的に椎間孔を狭小化させる徒手検査の方法として、スパーリングテストが用いられます。

スパーリングテスト(Spurling test)
スパークリングテスト
頸椎を患側へ伸展・側屈させて軸圧を加える。椎間孔が狭小化することで神経根症状を増幅させることができる。(感度:0.77、特異度:0.92)

頸部痛と神経根症

頸椎症性神経根症で首の痛みを訴えるケースは多いですが、実際に痛みを感じるのは神経の自由神経終末になります。

そのため、単純に神経根を圧迫するだけでは疼痛は起こらず、支配領域にしびれが生じるだけです。

もしも首を動かしたときに手のしびれ以外に痛みを訴えるようなら、神経根症以外の原因についても考える必要があります。

具体的には、頸部痛を起こす原因は大きく3つあり、①椎間板症、②椎間関節障害、③筋・筋膜性疼痛に分けられます。

それらを簡単に見分ける方法としては、椎間板症なら頸部中央に痛みがあり、それ以外なら左右のどちらかに痛みを訴えます。

頸部を障害側に側屈させて痛みがあるなら椎間関節障害や筋・筋膜性疼痛、健側に側屈させて痛みがあるなら筋・筋膜性疼痛の可能性があります。

神経根症と椎間関節障害は同時に起きていることも多く、受傷機転が明確なケースでは炎症が治癒する過程で神経根症が改善していく場合もみられます。

筋膜性疼痛の場合は、神経根(神経)を圧迫していないにも関わらず、手にしびれや痛みを起こすことがあります。

そのため、神経根症と筋膜性疼痛は確実に鑑別することが臨床的には重要です。

筋膜性疼痛との鑑別診断

神経根症と確定診断するためには、前述したように画像所見と臨床症状が確実に一致している必要があります。

しかしながら、臨床では画像と症状がマッチングしない症例が多く、その原因について深く考察されていないケースも多々あります。

例えば、頸部を屈曲または健側に側屈させると椎間孔は拡大するので症状は和らぐはずですが、逆に症状が増悪する場合があります。

その場合は、神経根症よりも筋膜性疼痛である可能性が非常に高いです。

医者に筋膜性疼痛という視点がなければ、症状が説明できずに頸椎症性神経根症と診断されることが多いため、診断名だけで短絡的に治療内容を決定しないことが大切です。

後縦靭帯骨化症(OPLL)について

後縦靱帯骨化症は、後縦靱帯が骨化することにより脊柱管が狭窄し、脊髄又は神経根の圧迫障害を来す疾患です。

原因不明の難病であり、頸椎に最も多く発生しますが、胸椎や腰椎にも生じる場合があります。

後縦靱帯骨化症患者では、前縦靱帯骨化を中心として、広汎に脊柱靱帯骨化を来す強直性脊椎骨増殖症を約40%に合併します。

また黄色靱帯骨化や棘上靱帯骨化の合併も多く、脊椎靱帯骨化の一部分症として捉える考えもあります。

リハビリテーションの考え方

現状として、診療ガイドラインにおいても頸髄症に対して効果の認められるリハビリ方法は確立されておりません。

ほとんどの原因は頸椎の器質的障害(椎間板の圧壊や靭帯の肥厚)であるため、それらの問題を取り除く方法は基本的に手術だけです。

そのため、リハビリ職が向き合うべき問題は症状の根本的な解決ではなく、付随して起こる二次障害です。

麻痺の程度によっては食事動作が困難となったり、転倒の原因にもなるため、必要に応じて補助具などの使用も検討していきます。

頸椎症の予防について

頸椎の器質的障害が起きてからでは治療が困難となるので、その前段階で障害のリスクを予測して、予防できることが理想です。

頸椎症を発生しやすいヒトの特徴として、頸椎の生理的前弯が失われた「ストレートネック」があります。

変性をきたしやすい椎間板や後縦靭帯などは、頸椎が屈曲することで負担が増加し、変性を加速させることに繋がります。

臨床的には胸椎後弯が減少している姿勢に発生しやすく、胸椎屈曲を下位頸椎屈曲が代償することが原因として推察されます。

治療としては、下位頸椎伸展を引き出すこと、下を向くときに胸椎から屈曲することなどが挙げられます。

スマホ首と呼ばれるように下を向く作業が続くことで負担となるので、そのような姿勢を長時間とらないように意識することも大切です。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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