ギラン・バレー症候群のリハビリ治療

ギラン・バレー症候群の概要

ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré syndrome:GBS)は、多くが感染(上気道炎・急性腸炎など)後1–2週に続発する自己免疫性の末梢神経障害です。主病態は脱髄(AIDP)ですが、軸索障害型(AMAN/AMSAN)も一定数あり、後者は回復が遅く重症化しやすい傾向があります。まれにFisher型(MFS)(眼筋麻痺・失調・腱反射消失)もみられます。

  • 発症頻度:年間 1–2/10万人

  • 誘因:消化器/呼吸器感染が最多(Campylobacter など)、ワクチンや手術後の報告もあるが稀

  • 経過1–3週で進行4週以内に極期、以降は緩徐に改善。80%前後は3–6か月で大きく回復。重症軸索型は1–4年かけて徐々に改善か後遺障害が残存。呼吸不全は約30%で、死亡率は数%〜1桁台後半(2–18%)

脱髄障害の解説


症状のポイント

  • 運動弛緩性麻痺遠位下肢から上行性に広がり、左右は比較的対称深部腱反射低下/消失

  • 感覚:手袋・靴下型のしびれ、痛覚異常。大腿・臀部・腰背部痛も。

  • 脳神経顔面神経麻痺(~50%)、球麻痺(嚥下・構音)、外眼筋麻痺(~10%)。

  • 自律神経起立性低血圧、血圧変動、徐脈/頻脈、発汗異常、膀胱直腸障害など(~50%)。

  • 呼吸:呼吸筋麻痺→無気肺・肺炎リスク。最大の死因は呼吸合併症

鑑別のコツ
進行が4週超ならCIDPを疑う/膀胱直腸障害が早期から目立つ明確な感覚レベルがある、非対称が強いなどは別疾患を示唆(NINCDS基準の「疑問所見」)。


診断の枠組み(要約)

  • 必須:①進行性の運動麻痺(1肢以上)深部腱反射の消失/低下

  • 支持所見:進行の停止は4週以内/比較的対称/軽度の感覚障害/脳神経障害(顔面麻痺多い)/髄液アルブミン細胞解離蛋白↑・細胞数≦10/µL、発症1週以降に顕著)/電気診断で伝導遅延・ブロックF波異常

  • 除外:ポリオ、ボツリヌス、鉛・有機リン、ポルフィリン症など

診断基準(NINCDS)

Ⅰ.診断に必要な所見
A 1肢以上の進行性の運動麻痺:軽度の失調はあってもなくてもよいが、運動麻痺の程度は、下肢のごく軽度の筋力低下から、四肢筋の完全麻痺、体幹、球、および顔面麻痺、さらには外眼筋麻痺に及ぶ
B 深部腱反射消失:通常は全般的に消失するが、遠位部で消失していれば上腕二頭筋や膝では低下していてもよい
Ⅱ.診断を強く支持する所見
A 臨床所見(重要な順番に呈示)
1 進行性:運動麻痺は急速に進行し、4週間以内に止まる
2 比較的対称性
3 軽度の知覚障害
4 脳神経障害:顔面神経麻痺は約50%に生じ、しばしば両側性である
5 回復:進行が止まってから2-4週間で回復し始める
6 自律神経障害:頻脈や他の不整脈、起立性低血圧、高血圧など、変動するかもしれない
7 神経症状発生時には発熱がない
(非定型的例)
1 発症時の発熱
2 痛みを伴う強い知覚障害
3 4週以上に及ぶ進行
4 括約筋障害
5 中枢神経障害:強い小脳性失調、構音障害、バビンスキー反射、境界不明瞭な知覚障害
B 髄液所見
1 髄液蛋白:発症1週間以降に蛋白が増加
2 髄液細胞:単核球が10/μL以下
(非定型的例)
1 発症後1-10週間でも蛋白が増加しない(稀)
2 細胞数が単核球で11-50/μL
C 電気診断学的所見
1 症例の約80%に、経過中のある時期に神経伝導遅延やブロックがある。伝導速度は普通、正常の60%以下であるが、その過程はまちまちであり、すべての神経が障害されるわけではない。遠位潜時は正常の3倍まで延長することがある。F波はしばしば神経幹の近位部や神経根での遅延がみられる。約20%の症状では正常の伝導所見を示す。伝導検査は発症後数週間にわたり以上をきたさないこともある。
Ⅲ.診断に疑問を投げかける所見
A 1 著明かつ持続的な非対称的筋力低下
2 持続的な膀胱直腸障害
3 発症か存在する膀胱直腸障害
4 髄液単核白血球の50/μL以上の増加
5 髄液中の多形核白血球の存在
6 明確な境界をもつ知覚障害レベル
Ⅳ.診断を否定する所見
A 1 最近のヘキサカーボン乱用の既往歴
2 急性間欠性ポルフィリン症
3 最近のジフテリア感染の既往あるいは所見
4 鉛ニューロパチー
5 純粋な感覚障害
6 しばしばGuillain-Barre症候群と間違われるポリオ、ボツリヌス中毒、ニトロフライトインや有機リン中毒による中毒性ニューロパチーなど

予後・再発

  • 再燃:部分回復中の増悪が約10%

  • 再発2–3%

  • 日本・中国は軸索型が多め(日本約38%、中国約**65%**と報告)→回復遅延例が相対的に多い


重症度(Hughes/GBS Disability Scale)

Grade 状態
0 健康
1 わずかの徴候および症状
2 歩行器などの介助なしに5m歩行可能
3 歩行器などの介助で5m歩行可能
4 臥床あるいは車椅子(歩行器などの介助でも5m歩行不可能)
5 補助換気を必要とする(少なくとも1日の一部)
6 死亡

治療の基本

  • 第一選択免疫グロブリン大量静注(IVIg) または 血漿交換(PE)。効果はほぼ同等。初回後に再燃しても同治療の再施行が検討されます。

  • ステロイド単独は標準治療では一般に推奨されない

  • 集中管理:呼吸(努力性肺活量・咳嗽力など)と自律神経の継続モニタ。早期の気道管理、DVT予防、疼痛(ニューロパシー痛)対策。


リハビリテーション(安全第一で“過用弱化”を避ける)

原則進行停止を確認してから漸増痛み/疲労の翌日残存筋力低下が出たら負荷を下げる過用弱化の回避)。

1)急性期(進行期~極期)

  • 呼吸理学療法:体位ドレナージ、呼吸介助、腹式呼吸練習、咳嗽補助。

  • ポジショニング:圧抜き・関節保護、DVT/褥瘡予防。

  • ROM1日2回、全関節を3–5回ゆっくり。他動~自動介助。過度なストレッチは禁忌(神経牽引・痛み悪化を避ける)。

  • 疼痛管理:触圧刺激はやさしく、寒冷刺激は回避。

2)回復初期(進行停止~回復立ち上がり)

  • 筋力強化低負荷・高頻度(自重・弾性バンド)。全身運動様式で同時に心肺機能も底上げ。

  • 指標:Borg 11–13程度、翌日疲労/痛みが24時間以内に消えることを目安。

  • 立位準備:離床、端座位耐久、起立・短時間歩行の反復(介助/補助具)。

3)回復後期~生活再建

  • 歩行・バランス:装具や杖を併用して距離と速度を漸増。

  • 巧緻性:手指の分離運動、日常課題(つまみ、ボタン留め)。

  • 有酸素:エルゴ/トレッドミルをインターバル型で。

  • 自律神経配慮:めまいや血圧変動に注意し、休息を小刻みに。


リハの注意リスト(現場メモ)

  • 呼吸・嚥下の赤信号:呼吸数↑、会話困難、嚥下時むせ、声の“湿潤化”→即評価。

  • 自律神経:発汗左右差、起立性低血圧、頻脈/徐脈、皮膚色の急変は負荷中止。

  • 痛み:神経痛は運動量で悪化しやすい。短時間×高頻度に分割。

  • 教育:「頑張り過ぎ=回復を遅らせる」を共有。活動日誌で**“負荷—症状”**を見える化。


予後予測(実地で使える目安)

  • 初期<40歳+極期で不全四肢麻痺→早期回復群の見込み。≥40歳+極期で完全四肢麻痺→回復遅延傾向。

  • 1か月起座/起立が自立+握力回復あり→早期回復群。

  • 2か月起座/起立自立+握力著明改善→早期回復群。逆に起立不能+握力回復なし→遅延群。


よくある質問(Q&A)

Q1. 治療はどれを選ぶ?
A. IVIg血漿交換が標準で効果は同等。施設体制や禁忌で選択されます。

Q2. どのくらいでよくなる?
A. 多くは3–6か月で大幅改善。ただし軸索型年単位で改善・残存の可能性。

Q3. リハはいつ始める?
A. 進行停止の確認後に強化を本格化。進行期でも呼吸/ROM/褥瘡予防はすぐ開始。

Q4. やってはいけない運動は?
A. 痛みを伴う強いストレッチ高強度連続負荷過用弱化の原因。**“翌日残らない負荷”**が目安。

Q5. 呼吸の見守りポイントは?
A. 会話困難・呼吸数↑・努力性増大・嚥下むせ・夜間の低酸素兆候。疑えば即報告し評価。

Q6. 顔面麻痺や嚥下障害が出たら?
A. 誤嚥・脱水のリスク。摂食嚥下評価食形態の調整、口腔ケア、嚥下リハを併行。

Q7. 再発はある?
A. 再燃約10%、再発2–3%。体調不良や感染時は早めに受診

Q8. 痛みは運動で悪化しない?
A. 長引く神経痛は量の調整で軽減することが多い。短時間×高頻度温罨法などでコントロール。


最終更新:2025-09-08