腰痛の治療において、仙腸関節を安定させることは非常に重要です。
関節を安定するためには、形態拘束(関節を締まりの位置にする)と、力拘束(筋肉の収縮で関節を固定する)の2つが必要となります。
ここでは仙腸関節がどの位置で形態拘束され、どの筋収縮で力拘束されるのかを解説していきます。
仙腸関節の形態拘束
仙腸関節を締まりの位置に保持するためには、ニューテーションとカウンターニューテーションという動きを知っておく必要があります。
ニューテーションとは、骨盤の前傾(厳密には仙骨の前傾と腸骨の後傾)であり、仙腸関節を締める動きになります。
仙腸関節を締めることができない場合は骨盤が不安定となり、片脚立位が困難となったり、トレンデレンブルグ歩行を引き起こします。
カウンターニューテーションとは、骨盤の後傾(厳密には仙骨の後傾と腸骨の前傾)であり、仙腸関節を緩める動きになります。
カウンターニューテーションを制限する靱帯は後仙腸靱帯です。
慢性的に仙骨が後傾位にあると骨盤は不安定な状態となり、その動きを制限する後仙腸靱帯はストレスで損傷して痛みが生じます。
インナーユニットに関与する筋肉
力拘束を考えるうえで、インナーユニット(関節の安定性を担う)とアウターユニット(関節の動きを担う)を知る必要があります。
骨盤の安定に関与する深層筋としては、①多裂筋、②腹横筋、③骨盤底筋群、④横隔膜の4つがあります。
とくに多裂筋と腹横筋は胸腰筋膜とつながっているため、これらの筋力が低下している場合は腰部の不安定性を強めることになります。
インナーユニットが正常に機能しない状態(関節が不安定な状態)では、アウターユニットもしっかり働くことができません。
アウターユニットに関与する筋肉
骨盤の安定性に関与するアウターユニットとして、4つの筋スリング機構が存在しています。
①後縦スリング機構
腰痛患者においては、しばしば脊柱起立筋の過剰な膨隆が認められ、後縦スリングの過緊張が認められます。
アウターユニットが正常に機能するためには、インナーユニット(とくに多裂筋)が十分に働いていることが前提となります。
過剰に膨隆しているケースでは、後縦スリングによって身体の安定性を代償しており、非常に疲労しやすい状態といえます。
②後斜スリング機構
後斜スリングは非常に重要なアウターユニットであり、腰痛患者の多くは大殿筋の機能不全を呈しています。
その結果、連結を持つ広背筋に過剰な緊張が求められたり、股関節伸展の機能をハムストリングスが代償するようになります。
大殿筋の機能不全には拮抗筋である腸腰筋の過緊張や短縮が関与しているため、そちらへのアプローチも必要です。
③前斜スリング機構
前斜スリングが過剰に緊張しているケースでは、腹斜筋や股関節内転筋群を押圧することで疼痛を訴えます。
アウターユニットが正常に機能するためには、インナーユニット(とくに腹横筋)が十分に働いていることが前提となります。
④側面スリング機構
側面スリングが過剰に緊張しているケースでは、腰方形筋や股関節内転筋群、中殿筋、小殿筋を押圧することで疼痛を訴えます。
これらの筋肉が正常に機能しない場合は、体幹の傾きやトレンデレンブルグ歩行を引き起こすことにつながります。