この記事では、僧帽筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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僧帽筋の概要
僧帽筋の英語名はギリシャ語のトラぺザ(台形)に由来しており、日本語名では僧侶の帽子の形に似ていることから僧帽筋と名付けられました。
僧帽筋は上部・中部・下部で作用が異なることから、それぞれを個別の筋肉として考えるほうが臨床的にも理解しやすいです。
僧帽筋上部線維は「硬くなりやすい筋肉」であるのに対して、僧帽筋下部線維は「弱りやすい筋肉」になります。
上部線維が短縮すると肩甲骨挙上位(いかり肩)となり、肩甲骨を下制させる下部線維は延長位となって弱化していきます。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | ①副神経の外枝
②頚神経叢の筋枝 |
髄節 | C2-C4 |
起始 | ①上部線維:後頭骨上項線、外頭骨隆起、項靭帯を介して頸椎の棘突起
②中部線維:C7-T3の棘突起、棘上靭帯 ③下部線維:T4-12の棘突起、棘上靭帯 |
停止 | ①上部線維:鎖骨外側1/3
②中部線維:肩甲骨の肩峰、肩甲棘 ③下部線維:肩甲棘三角 |
栄養血管 | 頸横動脈 |
動作 | ①上部線維:肩甲骨の上方回旋,内転,挙上、頸部の伸展
②中部線維:肩甲骨の内転 ③下部線維:肩甲骨の上方回旋,内転,下制 |
筋体積 | 458㎤ |
筋線維長 | 17.8㎝ |
速筋:遅筋(%) | 46.3:53.7 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
肩甲骨挙上 |
肩甲骨内転 |
肩甲骨下制 |
1位 | 僧帽筋(上部) | 僧帽筋(中部) | 僧帽筋(下部) |
2位 | 肩甲挙筋 | 大菱形筋 | 小胸筋 |
3位 | 大菱形筋 | 小菱形筋 | - |
4位 | 小菱形筋 | - | - |
※僧帽筋は主に肩甲骨の動きに貢献します。
支配神経と栄養血管
副神経(XI)は第1-5経神経から起こり、脊柱管内を上行して大後頭孔を通過します。
頭蓋腔へ入った後に舌咽神経(Ⅸ)と迷走神経(X)と共に頚静脈孔を通過して頭蓋の外に出ます。
その後、頸部を外下方に走行して胸鎖乳突筋と僧帽筋に分布します。
上部線維と中下部線維
僧帽筋はその作用の違いから上部・中部・下部に分けられますが、上部線維は短縮しやすく、中下部線維は弱化しやすい傾向にあります。
具体的に僧帽筋上部線維が短縮するとどうなるかですが、肩甲骨は挙上・内転し、頸椎前彎の増加が認められます。
短縮は過度の緊張によって起こるため、筋肉の血流が乏しくなり、いわゆる肩こりの状態を引き起こします。
次に中下部線維の弱化による影響ですが、肩甲骨を引き寄せる機能が失われるため、肩甲骨下角の外旋を伴う外転変位が発生します。
上の写真を見ていただくとわかりやすいですが、デスクワークが多くなった現代では、猫背姿勢(胸椎過後彎)をとりやすいです。
そうすると肩甲骨が外転させられ、僧帽筋中下部線維は伸長位となり、菱形筋などと共に虚血状態をきたします。
また、弱化が重度の場合は胸椎後彎の増加に加えて、肩甲骨下縁のwinging(翼状肩甲)が認められます。
胸椎が過度に後弯した状態では肩関節が最終域まで挙上できませんので、僧帽筋の出力不全は肩関節の可動域制限にも影響します。
投球障害肩の中には、僧帽筋の筋出力低下によって挙上運動の軌道パターンが崩れ、インピンジメント症候群を起こしていることがあります。
僧帽筋上部の触診方法
上部線維は肩関節屈曲時の固定筋として働きますので、抵抗をかけることで隆起する部分を容易に触診が可能です。
僧帽筋上部のストレッチ方法
上肢を肩関節内転位に保持し、もう片方の手で頸椎を側屈方向に誘導します。
頸部を屈曲し、伸張したい側の筋肉がある方向へ頸椎を回旋させることで、より選択的に伸ばすことが可能です。
僧帽筋上部線維のトリガーポイントは筋の中腹に出現しますので、徒手的にリリースする際は圧迫を加えていきます。
僧帽筋上部の筋力トレーニング
上肢に重りなどを把持した状態で、両肩を挙げる(肩をすくめる)ようにして持ち上げていきます。
僧帽筋中部の触診方法
中部線維は肩関節水平伸展時の固定筋として働きますので、筋収縮させることで隆起する僧帽筋中部を容易に触診が可能です。
僧帽筋中部のストレッチ方法
手で肩峰部を斜め前下方に引き寄せ、肩甲骨を下制・外転していきます。
僧帽筋中部の筋力トレーニング
腹臥位で1〜2㎏の重りを手に持ち、ベッドの外へ上肢を垂らします。
その状態で、肩や肘が曲がらないように注意しながら、重りを天井に向けて真上に引き上げていきます。
左右の肩甲骨が近づくようなイメージで、まっすぐ持ち上げていくと代償運動も少なく実施できます。
僧帽筋下部の触診方法
肩関節外転100度からの更なる挙上運動時の固定筋として働くので、抵抗をかけることで隆起する部分を容易に触診が可能です。
僧帽筋下部のストレッチ方法
側臥位で上肢をベッドの端から垂らし、反対側の手で肩関節を引き寄せ、肩甲骨を外転・下方回旋します。
僧帽筋下部の筋力トレーニング
肩関節のゼロポジションからの更なる挙上運動時の固定筋として働くので、その位置で抵抗をかけることで強化することができます。
ゼロポジションとは、肩甲骨の肩甲棘と上腕骨の軸が一直線上となる位置を意味しています。
具体的には、肩関節は前額面より30〜45度前方、100〜130度外転のポジションとなります。
トリガーポイントと関連痛領域
僧帽筋上部にトリガーポイントが発生すると、その部位により頸部、肩周囲、背部に痛みが放散します。
頭部前方姿勢では前縁が硬くなっているケースが多く、テント状に張り出しています。
アナトミートレイン
僧帽筋はSBAL(スーパーフィシャル・バックアーム・ライン)の筋膜経線上に位置する筋肉であり、とくに上部線維は後頭骨稜までつながります。
そのため、最終的に頭部の腱膜を牽引することにつながり、側頭部あたりに関連痛を引き起こしているのだと推察されます。
三角筋と僧帽筋の関係性
三角筋と僧帽筋はその位置関係から互いに引き合うように作用します。
例えば、肩関節を屈曲する際に三角筋前部線維の起始部である鎖骨は下方に引き下がる力が働きます。
そこに僧帽筋の収縮が加わることで鎖骨は固定され、三角筋はより大きな力を発揮できるようになります。
僧帽筋上部は三角筋前部と、僧帽筋中部は肩関節90度外転位にて三角筋中部・後部と、僧帽筋下部はゼロポジションにて三角筋全体と引き合います。
関連する疾患
- 副神経麻痺
- 胸郭出口症候群
- 投球障害肩
- 肩関節不安定症 etc.
副神経麻痺と翼状肩甲骨
僧帽筋の支配神経である副神経に麻痺が生じると、肩関節外転時に三角筋と引き合うはずの僧帽筋中部・下部が機能しなくなります。
そうすると、肩甲骨が三角筋の停止側に引っ張られ、内側縁が後方に浮き出るようにして翼状肩甲骨が発生します。
翼状肩甲骨は長胸神経麻痺に伴う前鋸筋不全でも生じますが、その場合は肩関節外転運動よりも、屈曲運動時に著名な翼状肩甲骨が出現します。