嚥下障害のリハビリ治療

嚥下障害の要点(まずここだけ)

  • 嚥下障害=飲み込みの不具合。主症状は「むせる/飲み込めない/喉に残る」。

  • よくある原因疾患:脳卒中、頭部外傷、パーキンソン病、ALSなど。

  • 評価は二段構え:ベッドサイド検査(RSST, 改訂水飲みテスト, 食物テスト)+必要に応じてVE(内視鏡)やVF(造影)。

  • 誤嚥のタイプ(嚥下“前・中・後”)を見極め、姿勢・一口量・トロミ・代償嚥下を使い分ける。

  • 訓練は間接訓練が基本(安全)+条件が整えば直接訓練。効果判定をこまめに、疲労とリスクを最小化


代表症状と起こりやすい疾患

  • 症状:むせ、湿性嗄声(ゴロゴロ声)、嚥下に時間がかかる、咳・発熱(誤嚥性肺炎)、体重減少、脱水。

  • 背景疾患:脳卒中/外傷、パーキンソン病、ALS、認知症、サルコペニア・加齢、頭頸部がん術後など。


評価(ベッドサイド→専門検査)

セラピストが行える代表的スクリーニング

  • RSST(反復唾液嚥下テスト):30秒で3回以上飲めればおおよそ保たれる目安。2回以下は低下の可能性。

  • 改訂水飲みテスト(MWST):少量の水でむせ/湿性嗄声/嚥下反射を確認。

  • 食物テスト:プリン・ゼリー少量で同様に確認(むせ・声質・呼吸変化)。

医師が行う専門検査

  • VE(嚥下内視鏡):鼻から細径内視鏡で咽頭内を直接観察(被曝なし)。残留・侵入・誤嚥が見える。

  • VF(嚥下造影):X線透視で嚥下の一連を側面観察。どの時点で、なぜ入るかが分かり、介入の決め手に。


「誤嚥」と「誤飲」の違い

  • 誤嚥:食物や唾液が気管へ入る。肺炎の原因。経口摂取がなくても唾液誤嚥で肺炎は起こる。

  • 誤飲:食物以外のものを胃へ飲み込む(子どもの異物、認知症の異食など)。


トロミ調整食品の考え方

  • 水分は速く流れむせやすいため、トロミで流速・形をコントロール。

  • とろみはむせる頻度安全性/水分補給のバランスで設定。濃ければ良いわけではない(脱水や摂取量低下に注意)。

  • 施設や地域によりIDDSI(0~4のとろみレベル)を用いることが増加。現場の基準に合わせて運用。

  • 作り置きは粘度が変わりやすいので、その都度の攪拌・粘度確認を。


嚥下の5期モデル(流れと主な障害)

時期 内容 障害が多い例
先行期 視覚・嗅覚で食物を認識し準備 認知症
準備期 咀嚼して食塊形成 片麻痺・咀嚼筋麻痺
口腔期 舌で咽頭へ送る 舌運動低下
咽頭期 気道を閉鎖し通過 反射遅延、声門・咽頭蓋閉鎖不全
食道期 食道蠕動で胃へ 食道疾患

誤嚥のタイミング別にみる原因と対応

タイプ よくある原因 代償法(すぐできる工夫) リハ・医療的介入
嚥下前(早期咽頭流入) 舌口蓋閉鎖不全/食塊が速すぎる とろみ付与一口量減量・温度/味で注意喚起 舌運動(前後左右・押し付け)、下顎コントロール
嚥下中 咽頭蓋/声門閉鎖不全、舌骨前上挙上不足 頸部前屈頸部回旋努力嚥下息こらえ嚥下 舌骨上筋強化、頸部筋緊張調整、メンデルソン高音(裏声)発声
嚥下後(残留からの逆流) UES(食道入口部)開大不全、咽頭収縮不足 交互嚥下(固形→水)、二度嚥下、一口量調整 頭部挙上訓練(Shaker/CTAR)、咽頭前上方挙上運動、バルーン拡張/ボツリヌス/輪状咽頭筋切離(選択例)

リハビリテーション

1)間接訓練(飲食物を使わない:安全域が広い)

  • 唾液腺マッサージ(耳下腺・顎下腺をやさしく円擦):口腔湿潤→嚥下準備性UP

  • 舌運動:突出・引込み・左右移動・上顎へ押し付け(抵抗付与で強化)

  • 筋緊張調整:舌骨上/下筋・胸鎖乳突・僧帽・肩甲舌骨筋の持続伸張

  • 反射促通アイスマッサージ(軟口蓋・奥舌・咽頭後壁を短刺激→空嚥下)

  • 声門閉鎖訓練:壁押し等で体幹共収縮+強い発声

  • 息こらえ嚥下/声門閉鎖嚥下(呼気→息止め→嚥下→咳)

  • メンデルソン手技:咽頭最挙上位置で数秒保持

  • 頭部挙上訓練:仰臥位で足先を見る(Shaker)/座位で顎をボールに押す(CTAR)

※多くの手技でエビデンスは限定的安全・疲労を残さないを最優先に、効果判定を短周期で行う。

2)直接訓練(飲食物を用いる:VE/VFや臨床判断で実施)

  • ポジショニング:椅子座位で90–90–90(股・膝・足関節)、足底接地軽い顎引き、体幹はわずかに前傾。

  • 一口量:小さじ1/2~1(3–5 g)から。摂取速度はゆっくり

  • 形態:ゼリー・ムース→刻み・やわらか→通常食へ段階化。交互嚥下・二度嚥下を活用。

  • 水分:必要に応じとろみ/ゼリー水→段階的に薄く。

3)食事以外で効くベース作り

  • 体位変換・起立着席運動体幹・呼吸を整える(全身コンディショニングは嚥下にも波及)。

  • 呼吸訓練:鼻呼吸、口すぼめ呼吸、深呼吸→咳嗽力の維持。


口腔ケア(肺炎予防の要)

  • 1日2–3回:歯磨き+舌苔ケア+口腔保湿(ジェル/スプレー)。

  • 義歯は毎食後清掃・就寝前は外して保管。

  • 介助時は吸引の準備、湿性嗄声や咳発作に注意。


常時開口・唾液誤嚥が目立つとき

  • 下顎アライメントの修正、舌骨・咽頭のモビライゼーション、舌骨上/下筋の伸張と活性化で閉口誘導。

  • 閉口が整うと口腔内への細菌流入を減らせ、肺炎リスク低減に寄与。


代替栄養の選択肢

  • PEG(胃瘻):上位消化管の通過が危険/困難なときに検討。経口も併用してよいかは医療チームで判断。

  • TPN(中心静脈栄養):消化管使用が難しい場合の選択。感染・代謝管理などリスクと利点を踏まえ、栄養評価はAlbだけに依らず(体重・摂取量・握力・炎症所見など総合)。


食事時の「安全サイン」と「中止サイン」

  • 続行OKの目安:むせが散発的・回復が早い、SpO₂の安定、声がクリアに戻る。

  • 中止&医療者へ連絡湿性嗄声が続く/強いむせが反復/顔面蒼白やSpO₂低下/発熱


おうちで使える簡易ルーティン(10分 × 2–3回/日)

  1. 姿勢セット(座位90–90–90・顎軽く引く)

  2. 唾液腺マッサージ(1分)

  3. 舌運動(前後左右・各10回)

  4. 高音“ヒ”—保持(3–5秒×5回)

  5. 空嚥下→咳(5回)

  6. 水分チェック(医療者が許可:スプーン1杯)
    ※疲れたら即休止。


よくある質問(FAQ)

Q1. とろみはどの濃さが正解?
A. 個別に違います。むせの頻度水分・栄養の取りやすさで調整。IDDSI基準があれば準拠を。

Q2. 水は絶対だめ?
A. 状態次第。ゼリー水軽いとろみから開始・評価。VE/VF所見を参考に段階的に。

Q3. 姿勢はどれくらい重要?
A. 非常に重要。足底接地・骨盤起こし・顎軽く引くで安全性が上がります。

Q4. どの訓練をどのくらい?
A. 短時間・高頻度が基本(10–15分、1日2–3回)。翌日に疲労を残さない量で。

Q5. 誤嚥性肺炎を繰り返す…
A. 口腔ケアの徹底/就寝前2–3時間は飲食を避ける/上体挙上で就寝をまず実行。必要なら栄養経路の再検討を。

Q6. 直接訓練は誰が見ていれば安全?
A. 医師・ST(言語聴覚士)・看護師と連携。初回はリスクの少ない形態・一口量から。

Q7. 認知症で食事が進まない
A. 温度・香り・色彩で興味を喚起、一口量を小さく声かけは短く具体的に。先行期の工夫が鍵。

Q8. 便秘や脱水は関係ある?
A. あります。唾液・粘膜の乾燥→嚥下悪化に直結。水分・食物繊維・活動量を見直す。


最終更新:2025-09-09