大腿骨転子部骨折のリハビリ治療

概要(まずここだけ)

大腿骨頚部骨折

  • 転子部大転子〜小転子にかけた領域。ここより約5cm遠位転子下という。

  • 転倒時に最初に衝撃を受けやすいため、頚部骨折より発生頻度が高い(報告により差はあるが、臨床的にも遭遇頻度は高い)。

  • 関節包外骨折(転子間骨折・転子部骨折・転子下骨折)は血行が比較的保たれやすく、原則骨接合術が第一選択。

大腿骨頚部骨折② ①骨頭骨折 包内骨折
②頸部骨折
③転子間骨折 包外骨折
④転子部骨折

関連:
大腿骨頸部骨折のリハビリ(内部リンク)
大腿骨転子下骨折のリハビリ(内部リンク)


大腿骨近位端骨折の大分類

  • 関節包内骨折:大腿骨頭骨折/頚部骨折

  • 関節包外骨折転子間骨折/転子部骨折/転子下骨折

関節包外は血流保持の観点から骨癒合が得られやすいため、骨接合術を選択することが多い。
Garden分類は頚部骨折(包内)専用。転子部・転子間・転子下にはAO/OTA(31-A1/A2/A3)やEvans/Jensenなどを用いる。


手術療法(適応と術式の考え方)

  • 転子部・転子間骨折:骨接合術が原則

    • 近位大腿骨用髄内釘(CMN / PFN):現在の第一選択。とくに**不安定型(A2/A3)**や外側壁不全で有利。

髄内固定法

    • 動的股関節スクリュー(DHS/CHS)安定型(A1)など限定的に選択。外側壁損傷や粉砕例では不利。

CHS固定法

保存療法

  • 人工骨頭置換術:**頚部骨折(Garden Ⅲ〜Ⅳ)**の高齢者で選択されることがあるが、転子部骨折に対する標準治療ではない。例外的に、極端な粉砕・重度骨粗鬆・内固定困難例や再手術例で検討されうる。


リハビリテーション(原則)

特別な“万能プロトコル”はなく、術式・固定性・骨質・合併症に合わせて段階的に。

  • 荷重方針術者指示が最優先。CMNで良好固定なら早期部分荷重から開始し、疼痛・画像所見で段階増量。

  • 目標:①骨癒合の促進(過大ストレス回避)②二次的機能低下の最小化③安全なADL復帰。

1)術後早期

  • 炎症・疼痛コントロール、創部管理、血栓予防(足関節ポンピング、早期離床計画)。

  • 自動介助ROM:痛みの出ない範囲で屈曲・伸展を小刻みに反復。外側広筋・TFLの侵襲を踏まえ腸脛靭帯の滑走性を維持。

  • 等尺性収縮中殿筋・大腿四頭筋・大殿筋を痛みなく賦活。呼吸訓練・体位変換も並行。

2)中期

  • 外転筋(中殿筋)優先:骨盤水平保持=歩行安定の土台。サイドブリッジ、クラム、ヒップアブダクションを代償なしで段階化

  • 代償抑制内転筋過活動過外旋をフィードバックで是正。

  • 段階的荷重・歩行:2本杖/歩行器→1本杖→フリー。跛行・疼痛・腫脹・X線所見で進行判定。トレッドミルは痛みなし・良好歩容を条件に。

3)後期

  • 加重下機能訓練:ステップアップ、ランジ、方向転換。

  • 多平面安定性:回旋成分を含む課題でねじり耐性を段階的に。

  • IADL/職業復帰:実作業に即したタスクを処方。


付着筋と力学(転子部まわりの確認)

大腿骨に起始

起始
中間広筋 大腿骨前面・外側面
内側広筋 転子間線〜粗線内側唇
外側広筋 大転子外側面・転子間線・殿筋粗面・粗線外側唇

大腿骨に停止(転子部周辺)

停止
大腰筋/腸骨筋 小転子付着
中殿筋 大転子尖端・外側面
小殿筋 大転子前面
梨状筋 大転子尖端・内側面
内・外閉鎖筋、上下双子筋 転子窩
大腿方形筋 転子間稜
大殿筋(深層上部) 殿筋粗面

臨床への落とし込み

  • 離開方向に働く筋抑制/肢位調整でストレスを減らす。

  • 圧縮方向に働く筋癒合段階に応じて賦活

  • 中殿筋の早期再教育内転筋過活動のブレーキ横せん断低減に直結。


術後合併症(要点)

  • DVT/PE:高頻度。弾性ストッキング・間欠的空気圧迫・早期離床、必要時薬物予防

  • 偽関節/遷延癒合・内固定失敗:不適切荷重や不安定固定、重度骨粗鬆で増。

  • 内科合併症:肺炎・心疾患など。高齢者では肺炎が予後に直結

Homan徴候は感度・特異度が低く、診断には不十分。臨床ではWellsスコア+D-ダイマー+下肢静脈エコーで総合判断(本文をアップデート)。


段階的歩行と荷重の目安

  • :平行棒→歩行器→ロフストランド杖→T杖→フリー。

  • 荷重量の%表示は環境・体格・デバイスで大きく変動するため参考値に留める疼痛・歩容・腫脹・画像で昇段判断。

  • 「翌日からフリー荷重」は固定性が極めて良好な場合に限る。多くは部分荷重から漸増が安全。


退院後フォロー

  • 少なくとも6か月は外来・通所等で機能改善が期待できるため継続推奨。

  • 対側骨折リスクが高く、転倒要因評価(住環境・視力・薬剤)〜住宅改修まで含めた再発予防が重要。

  • 栄養(タンパク質・ビタミンD/カルシウム)・骨粗鬆症治療・禁煙支援も併走。


クリニカルQ&A

Q1. 転子部骨折でも人工骨頭置換が必要?
A. 原則は内固定。人工骨頭は**頚部骨折(GardenⅢ〜Ⅳ)**で検討されることが多く、転子部では例外的です。

Q2. DHSとPFNの使い分けは?
A. 安定型(AO/OTA 31-A1)ではDHSも選択肢。不安定型(A2/A3)・外側壁不全・粉砕ではPFN/CMNが第一選択

Q3. いつ全荷重に移行?
A. 術者指示と画像所見・疼痛で決定。一般に部分荷重→全荷重へ漸増。痛みや跛行が残る場合は昇段を避ける。

Q4. リハで最優先にみるポイントは?
A. 骨盤水平保持(中殿筋)と内転筋過活動の抑制過外旋代償の是正。ここが歩容と癒合ストレスを左右。

Q5. DVTはどう見分ける?
A. Wellsスコアで事前確率を評価し、D-ダイマー下肢静脈エコーで確定。Homan徴候は補助的所見にとどめる。


最終更新:2025-10-03