寒冷療法の治療効果と方法

寒冷療法の歴史

  • 紀元前ギリシャから氷・冷水が急性外傷の腫脹・疼痛に使用。

  • 1950年代以降に研究が進展。1965年 Lehmkahl:筋紡錘活動低下→痙性抑制を報告。

  • 現在は急性炎症期、筋スパズム軽減、鋭痛(Aδ)抑制、即時の筋促通、運動後回復などに応用。


生理学的影響(要点)

作用
循環 末梢血管収縮→血流↓、血液粘性↑、酸素供給↓(過度な長時間冷却は注意)
代謝 組織代謝低下(二次的損傷の抑制に寄与)
神経 伝導速度↓(Aδ・γ)/短時間の急冷でα運動ニューロン促通が一過性に起こることあり
疼痛・筋 疼痛閾値↑筋スパズム↓、痙性の低下(十分時間の冷却時)

※却時に感じる順番(C-B-A-N):Cold(冷感)→Burning(灼熱感)→Aching(ずき感)→Numb(しびれ/鈍麻)。Numbで鎮痛ピーク。


期待できる臨床効果

① 急性炎症・腫脹・鋭痛の軽減

  • RICE / POLICE / PEACE & LOVEの“C(Cold)”として適応。

  • 組織温低下+Aδ抑制で鋭痛緩和。C線維の鈍痛には効果が限定的。

② 筋スパズム・痙性の低下

  • γ活動・筋紡錘感受性↓ → トーヌス低下。痙性には15–30分の持続冷却が効きやすい。

③ 即時促通(クイックアイス)

  • 短時間の急冷(アイスマッサージ等)でα促通→一時的に収縮が入りやすくなる。

  • 例:膝伸展セッティングで内側広筋が入らないケースの導入に。

④ 運動後回復

  • 冷水浴は**知覚的疲労・筋痛(DOMS)**を軽減する報告がある一方、パフォーマンス適応を鈍らせる可能性も。シーズン中の即時回復目的に限定的に。


使い分け早見表

目的/状況 推奨 目安設定 長所/注意
急性捻挫・打撲 アイスパック 10–15分、1–2時間おき 広範囲に簡便/凍傷・低温やけどに注意(タオル介在、皮膚確認)
局所の強い痛み・促通導入 アイスマッサージ(クリッカー) 3–7分、Numbで終了 小領域に的確/皮膚トラブル部位は回避
末梢(手指・足部) 寒冷部分浴 10–15℃で10–15分(スパズムなら〜20分) 指趾にムラなく冷やせる/末梢循環障害は禁忌
試合中の超急性痛 冷却スプレー 30cm離し短時間 即効性/凍傷・可燃性・創部不可
全身的な温感悪化(MS等) 冷却ベスト/全身冷却 装用20–30分 Uhthoff現象対策に有効/過冷却に注意

モダリティ別プロトコル(具体)

1) アイスパック

  • 手順:砕氷を湿らせたタオルで包む(ゲルパックは0℃以下になりやすいので層を厚めに)。

  • 時間:10–15分/回(末梢はハンチング反応を避けるため20分以内目安)。

  • 頻度:急性期は1–2時間おき。睡眠中の連続当ては不可。

  • チェック:2–5分ごとに皮膚色・感覚を確認。

2) 寒冷部分浴

  • 温度:10–15℃。

  • 時間:疼痛軽減 10–15分、スパズム軽減 15–20分。

  • 応用クライオキネティクス(十分鈍麻後に痛みのない可動域運動を実施)。

3) アイスマッサージ(クリッカー)

  • 方法:小円を描いて3–7分Numbで停止。

  • 用途:局在痛、筋促通の導入、トリガーポイント周囲の鎮痛。

4) 冷却スプレー(塩化エチル等)

  • 距離:患部から約30cm、往復スイープ。皮膚が白変する手前で停止。

  • 注意可燃性、粘膜・創部・凍傷リスク部位は不可。あくまで一時鎮痛

5) 冷水浴(回復)

  • 温度:10–15℃、5–15分

  • 注意:直後の最大筋力・位置覚低下に留意。試合直後の短時間回復に限定。


安全性/禁忌・注意(超重要)

禁忌

  • 寒冷過敏症/寒冷じんましん、クリオグロブリン血症発作性寒冷ヘモグロビン尿症

  • レイノー(Raynaud)現象/重度末梢動脈疾患

  • 知覚鈍麻・高度循環障害の部位、開放創/感染創

  • 再生中の末梢神経直上、深部凍傷既往部位

注意

  • 高血圧・心疾患、糖尿病性ニューロパチー、高齢者・小児(時間短めから)。

  • 関節位置覚・筋力は冷却後一時低下→高難度課題・重量挙上は直後を避ける

  • 皮膚保護:タオル介在、連続20–30分超の固定冷却は避ける。


臨床意思決定のコツ

  • 急性48–72時間:腫脹・熱感・鋭痛が主体→冷却優先(圧迫・挙上併用)。

  • 痙性・スパズム十分な時間の冷却でトーンを落としてからストレッチ/モビライゼーション

  • 促通目的短時間の急冷→すぐ運動(クイックアイス)。

  • “冷やして終わり”にしない:鎮痛・鈍麻の5–10分が実施チャンス(関節可動運動・軽負荷エクササイズ)。


多発性硬化症(MS)

  • Uhthoff現象(温感で症状増悪)に対し、全身冷却冷却ベスト疲労・筋力・姿勢安定性の改善が報告。

  • 過冷却・低体温に注意し、20–30分の計画的使用+自覚症状モニタリング。


よくある質問(FAQ)

Q. 1回どのくらい冷やせばいい?
A. 局所の急性痛は10–15分が目安。末梢は20分以内。皮膚色と感覚を数分ごとに確認

Q. 氷の後に運動しても大丈夫?
A. 促通目的の短時間冷却ならOK。長時間冷却直後筋力・位置覚が低下するので、高強度は30–60分あける。

Q. 家でやるときの注意は?
A. 直貼り禁止(タオル介在)、就寝中の当てっぱなし禁止、感覚低下・循環障害があれば医療者に相談


最終更新:2025-10-15